別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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エピローグ②

「おお、ベルじゃないか」

 

「……何の用?」

 

 朝早くから見送りに来てくれた少年に笑みを浮かべる隆誠とは対照的に、少々冷たい声を出すフレイヤ。

 

 今の彼女にとって、今一番会いたくない一人である為に。

 

「お二人とも、行っちゃうんですか?」

 

「当然でしょう。そう言う決まりだもの」

 

「コイツは俺がいないと何を仕出かすか分からないからな」

 

「ちょっとリューセー、人を問題児みたいな言い方するの止めてくれない?」

 

 心外だと言わんばかりに睨むフレイヤだが――

 

「事実だろ。お前がやらかした所為で、俺達は一体どれだけ振り回されたと思ってるんだ? ベルが振ってくれたお陰で漸く落ち着いてくれたのだから、な」

 

「うっ……!?」

 

 ぐうの音も出せずに押し黙ってしまうも、何故かベルが痛い所を突かれたかのように表情が固まってダラダラと脂汗を搔き始める。

 

 事実、フレイヤの我儘によってオラリオは散々な迷惑を被られた。平然と周囲を巻き込む自分勝手な女神は天界へ送還させるべきなところを、目の前にいる少年や一柱の女神によって免れている為、今のフレイヤに(隆誠を除く)誰かを非難する資格など一切無い。

 

「……はぁっ。本当に遠慮無く言ってくれるわね」

 

 でも、と言いながらフレイヤはベルの方へ振り向く。

 

「貴方が『恋』を終わらせてくれたおかげで、リューセーの言う通り私は救われた」

 

「!」

 

 微笑みを浮かべる今のフレイヤは、残酷で奔放な女神でなく、愛の毒と奇跡を識る『魔女』でもない。

 

 失恋を経験してか、既に吹っ切れた少女みたいになっている。

 

初恋(あなた)が、未練を断ち切ってくれた。ありがとう、ベル」

 

 (まご)うこと無き本心で言うフレイヤに隆誠は安堵する。

 

 同時に何かを耐えている事に気付くも、そこは敢えて口を出さない。

 

「ずっと貴方を想っているわ。疲れて、飽きてしまうまで、ずっと……」

 

 分かっているにも拘わらず叶わない想いを抱き続けるのは、フレイヤが自ら決めた一番の罰。

 

(まさかコイツが自分からそう言いだすとは、な)

 

 この世界の神は不変な存在であり、罰を与えられそうになっても理屈を並べて回避する筈のフレイヤが、自分で厳しい罰を選択するなど普通に考えて有り得ない。あの時の失恋が、それだけ成長させたのだろう。

 

 言うべき事を終えたのか、彼女はチラリと少年の近くにいる女性達へ目を向けた。

 

 そこにはリュー、アーニャ、クロエ、ルノア。他の『豊穣の女主人』の店員達もいる。

 

 制服に身を包んでいる彼女達は、誰もが女神を凝視していた。

 

「リューセー、行くわよ」

 

 フレイヤはそれを分かっていながらも、敢えて声を掛けずに去ろうとしていく。

 

「私達に何か言うことはないのか」

 

「………」

 

 逃がさないと言わんばかりに引き留めるリューに、彼女は立ち止まる。

 

 すると、女神がフードを被った直後に消えて『娘』となる。

 

「…………ごめんなさい」

 

 謝った直後、パンッと派手な音が鳴った。

 

 一瞬で近付いたリューが娘の頬を叩いたのだ。

 

 フードが落ちたフレイヤ、もといシルは目を見開きながら、じんじんと熱を持つ頬に触れた。

 

 ベル達が驚いている中、こうなる事を予想していた隆誠は内心嘆息している。

 

「謝るくらいなら、償え! 私を生かしたのは貴方だ! 私が此処にいる責任を取れ!」

 

 リューの言葉に、シルはたじろいでいた。

 

 先程まで冷静だった筈の彼女は激しく動揺している。

 

 しかし、そんなの知った事ではないと言わんばかりに、怒り心頭のリューは詰め寄っていく。

 

「辱めてやる! 報いを受けさせてやる! だから一生……私達の傍にいなさい!!」

 

「っ……」

 

 後半から涙混じりの一喝をしたリューの言葉が聞いたのか、シルは今度こそ薄鈍色の瞳が大きく開かれた。

 

「逃がさないニャ! 女神の矜持(プライド)なんて知った事じゃないニャ!」

 

「そうそう。だって目の前にいるのは神様じゃなくて、仕事の同僚だし」

 

 クロエとルノアがそう言った後、以前に隆誠が指摘していたメシマズの件についても触れた事で、シルの顔面を羞恥で真っ赤にさせた。

 

 その後、今度はアーニャが近付いてくる。

 

「……フレイヤさま…………シル………」

 

「アーニャ……」

 

 涙を浮かべている猫娘に、かける言葉が見付からないシル。

 

「ミャーは、なにもわかんニャいけど……シルと……お別れしたくニャい……行っちゃ嫌ニャァァァァ!!」

 

 もう我慢の限界だったのか、アーニャは泣きながら抱き着いてきた。

 

 これはもう暫く掛かりそうだと思った隆誠は――

 

「シル、俺は先に行ってるから今の内に済ませておきな」

 

「ちょっ! リューセーさん……!」

 

 抱き着かれているアーニャの所為で身動きが取れないシルを置いて、一足早く去ろうとしていく。

 

 去って行く彼に気付いたのか、二人のウェイトレスが待ったを掛けようとする。

 

「ちょっと待て!」

 

「待つニャ!」

 

 隆誠の前に立ちはだかるのはルノアとクロエだった。

 

「俺に何か用かい?」

 

「アンタも一緒に残りなさい! この前の借りを返してもらうんだから!」

 

「そうニャ! ミャー達を傷物にしたおミャーには、『豊穣の女主人』で馬車馬のように働く義務があるニャ!」

 

 ウェイトレス二人は今でも鮮明に憶えている。戦争遊戯(ウォーゲーム)で隆誠によってコテンパンに叩きのめされた事を。

 

 敗者となった彼には恨みを晴らす為の仕返しも兼ねて、下っ端ウェイターとして扱き使ってやる事を考えているのだ。

 

「傷は俺が直々に治したから、もうチャラになってる筈だが?」

 

「そんなわけ無いでしょうが!」

 

「身体は治っても、ミャー達は未だに傷心中ニャ! おミャーにはその慰謝料を払う義務があるニャ!」

 

「んなもん知るか」

 

 これ以上は付き合いきれないと去ろうとする隆誠だが、未だに諦めず阻もうとする二人に――

 

「余りしつこいと……もう一度力の差を教えてやる必要がありそうだな」

 

「「ひっ!」」

 

 少しばかり殺気を込めながらちょっと低い声で警告したことで、あの時の恐怖を思い出したように引き下がった。

 

 如何に彼が敗北したとは言っても、『Lv.10』以上の実力を持っているから、その気になれば瞬殺されてしまう。

 

 存分に恨みを晴らしたいルノアとクロエだが、下手に怒らせれば自分で自分の首を絞めることになると理解したようだ。

 

「全く……ん?」

 

 邪魔な二人がいなくなったと思いきや、今度はアーニャが目の前に現れる。

 

「君も俺に何か用かい?」

 

「えっと、その……おミャーは、兄様に謝ったのかニャ?」

 

「? ………ああ、アレンか」

 

 いきなり兄様と言うアーニャに疑問符を浮かべる隆誠だったが、彼女の兄がアレンである事を思い出した。

 

「傷を癒した後に謝罪したけど、怒り心頭な状態になって俺を殺そうとしてきたよ」

 

 隆誠が直接手に掛けたから、その傷を癒そうとルーン魔術であっと言う間に完治させている。

 

 その後に『悪かったな』と謝罪するも、アレンはそんな簡単に許す訳もなく「なら今すぐ死にやがれ!」と襲い掛かって来た。結果は言うまでもなく返り討ちにあったが。

 

「………確かに兄様ならやりそうニャ」

 

「全然人の話を聞かずに何度も襲い掛かってくるから大変だったよ。余りにも鬱陶し過ぎて女に性転換させたよ」

 

「そっか。兄様は女に………は?」

 

 兄の性格を理解しているアーニャが頷くも、途中から変なことを言い出してる隆誠に目が点になってしまう。

 

「ど、どういうことニャ?」

 

「ああ、そう言えば君は知らなかったんだな。俺が文字通りの意味で身も心も女にしたから、今のアレンは口の悪い兄じゃなくて、大変可愛らしくて優しいお姉様になってるよ」

 

「??????」

 

 言ってる意味が分からないのか、頭に疑問符ばかりを浮かべるアーニャ。

 

 そうなるのは無理もないと理解している隆誠は、取り敢えず事実だけを述べる事にした。

 

「今夜に店の手伝いとして来る予定だから、その時に顔合わせすると言い」

 

 未だに理解してないアーニャを放置する隆誠は、ベルがシルに何かの約束するやり取りを見た後、一足先に門へ向かおうとする。

 

「あ、そう言えばヘディンを女にするの忘れてた。運良くあそこにいるから――」

 

『!』

 

 酒場の屋上でやり取りを見守っている集団の中に目的の人物がいる事を感知した隆誠は、シルが用を終えるまでの時間潰しをしようかと考え始める。

 

 直後、嫌な予感がしたのか、屋上にいる白妖精(ホワイトエルフ)は真っ先に退散した事を補足しておく。

 

 

 

 

 

 

 ベルが『騎士』になると約束したシルは嬉しそうに了承し、一時の別れを告げてから隆誠と合流する。

 

 その途中で【ロキ・ファミリア】のリヴェリアやアイズと遭遇して一騒動起きるも、これ以上は付き合いきれないと言わんばかりに、隆誠はシルをお姫様抱っこで抱えた直後に飛翔して去る事にした。

 

「聞いたわよ、リューセー。ベルとリューを合体させる為のアイテムを渡したらしいわね」

 

「ああ、『タポラ』のことか」

 

 隆誠が飛んでいる最中、女神の姿に戻ったフレイヤはお姫様抱っこされたまま、『タポラ』の事について聞いていた。

 

 因みにそのアイテムは既に隆誠が回収した際、ベルと合体した相方を少しばかり揶揄った。『身も心もベルと一つになった気分はどうだった?』と訊いた瞬間、顔だけでなく全身茹蛸状態になったリューは暴走するも、ミアの拳骨(いちげき)で何とか収まっている。

 

「そんな凄いアイテムがあるなら、どうして私に教えなかったのよ」

 

「教えたら絶対禄でもない事を仕出かすと思って、な」

 

 『タポラ』は人間同士の合体なら制限時間が過ぎれば解除されるが、神であれば永遠に戻らなくなってしまう。

 

 失恋する前のフレイヤであれば、ベルと合体して永遠に身も心も一つになると予測した隆誠は敢えて教えなかった。そんな最悪な未来は絶対阻止しなければならないと。

 

「そんな事より、このまま北へ真っ直ぐ進めば良いのか?」

 

「………ええ、そうよ」

 

 まだ追求したいフレイヤだったが、一先ずは本来の目的を果たそうと頭を切り替える事にした。

 

「北の最果てには『竜の谷』があって、そこにゼウスとヘラが成し遂げられなかった最後のモンスター――『黒竜』が今も封印されているわ」

 

 フレイヤは隆誠に『黒竜』と戦わせようと竜の谷へ向かっていた。

 

 オラリオの責務にして、下界全土の悲願である『三大冒険者依頼』の最後の一つである黒竜を隆誠一人だけで戦わせるなど、端から聞けば馬鹿げていると思われるだろう。

 

 しかし、隆誠は異界から来た存在であり、オラリオの第一級冒険者達より遥かな力を持つ存在。

 

 加えて彼はこの世界に来てから一度も本気を出した事もない。戦争遊戯(ウォーゲーム)の時ですら、(おもり)を着けていた事もあって全力の半分にも満たない状態で戦っていたと本人が言った。

 

 その時にフレイヤは思わず『もし戦争遊戯(ウォーゲーム)全力(ほんき)を出したらどうなるの?』と訊ねる。隆誠が『派閥連合だけでなく、【フレイヤ・ファミリア】も巻き添えを受けて木っ端微塵になっていたかもな』とあっけらかんに答えた事で、一切の嘘が無いと分かった女神が思わず戦慄する程だった。

 

 嘗て最強派閥(ゼウスとヘラ)の眷族達が健在で隆誠に挑んでも大敗するのは間違いない。そう考えてしまうほど、目の前の青年はとんでもない存在だと改めて認識した。

 

 そこで彼女は考えた。全力を出すに相応しい相手が冒険者の中にいないのであれば、下界の人間(こども)達が最も頭を悩ませている存在――『黒竜』と戦わせてみてはどうかと。

 

 さり気なく隆誠に下界最強の存在を倒す事が可能なのか確認すると――

 

『それで負けた責任が取れるなら引き受けよう。二天龍と呼ばれた物騒な奴等と戦った事もあるからな』

 

 まるで問題無いと言わんばかりに可能だと答えた。

 

 ついでに二天龍とは一体何だと訊きたい衝動に駆られるフレイヤだが、それを耳にすれば後戻り出来なくなるかもしれないと本能的に危惧したのか、普段から好奇心旺盛な女神も珍しく自重している。

 

「ならば、もう少しスピードを上げるとしよう」

 

「え? 上げるって………キャア!!」

 

 ただでさえとんでもない速度で飛行移動してるのに、更にスピードが上がる事で思わず悲鳴を上げてしまうフレイヤ。

 

「ちょっとリューセー、速度を落としなさい! 私が落ちちゃうわよ!」

 

「大丈夫だ。風に当たらないよう周囲に結界を施してるし、例え落ちても俺が回収するから」

 

「そう言う問題じゃないの! 以前『神の城』を訪れたようにゆっくり飛びなさい!」

 

「今回はデートじゃない。それに俺としては黒竜って奴と戦いたくてウズウズしてるんだ。しっかり掴まってろよ」

 

「キャァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 自分の意思を全く無視する隆誠に振り回されてしまうフレイヤは、余りの速さに悲鳴を上げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………■ッ!?」

 

 『竜の谷』の中心に黒い巨大な存在が時を待つように眠っていたにも拘わらず、何かを感じ取ったように突然目を覚ました。

 

 嘗て自身の片目を傷付けた人間(そんざい)を頭に思い浮かべるも、それはすぐに否定する。そんなのとは全く違う別次元の存在だと。

 

「■■■■■■■■■ッ!!」

 

 一体何故こんなに恐怖しているのかと疑問を抱きながらも、それを搔き消すように気高き雄叫びを上げる。

 

 直後、それを聞いた『竜の谷』にいる全ての竜が反応し、そして動き出そうとする。




次で【フレイヤ・ファミリア】編を終わりにします。
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