別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
これで漸く最終回です。
「ここが『竜の谷』か」
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
オラリオから相当距離があるにも拘わらず、たった数時間で世界三大秘境の一つ――『竜の谷』に到着した。
高速で飛んでいた隆誠は息一つ乱していないが、抱えられているだけのフレイヤが逆に疲弊している。今まで散々誰かを振り回していた筈の女神が、今度は自分が振り回される立場になっていた。
因みに途中で人里らしき集落を見かけるも、これから黒竜と戦うことを考慮してか、隆誠は敢えて素通りしている。本当ならそこでフレイヤを置いていきたいのだが、当の本人が直に戦いを見届けたいと事前に言われたから諦めざるを得なかったのだ。
「取り敢えず一旦休憩しよう」
上空から竜の谷を確認した隆誠は、疲れ切ってるフレイヤを休ませる為に一旦地上へ降りようとする。
谷の周囲には結界らしきモノが程されており、その中にいる竜の群れが妙に周囲を警戒するように殺気立っていた。下手に近付けば認識阻害用の結界を張ってる自分達に気付くかもしれないと思い、敢えて少し離れていたのだ。
地上で小休止する隆誠は、収納用異空間からキャンプセット用のテーブルと椅子を取り出し、温かい紅茶と料理を用意する。
「なぁ、谷の周囲を徘徊してるドラゴン達の様子がおかしいんだが、この世界では普通なのか?」
「さぁ? 私も初めて見るから何とも言えないわ」
隆誠の問いに分からないと答えるフレイヤは、用意された椅子を優雅に座りながら紅茶を飲んでいる。
嘗ての
普段の彼であれば、イッセーや仲間達の生存率や勝率を上げる為に敵の情報を一通り収集してから挑もうとする。しかし、今回は一人だけで(真の姿にならず)全力を出して戦う他、
「じゃあ谷の周囲に張られている結界や装置らしきモノは?」
「この世界の大精霊が黒竜を封印する為に結界を張ったのよ。その維持と補強をする為に『学区』が結界装置を用意した事で、今も封印されてるらしいわ」
「へぇ」
「群れの一匹が稀に結界をすり抜けて好き放題に暴れてるのもいて、当時はロキや私のファミリアにもギルドから討伐依頼を催促されたわね」
「俺がいた時、そんな話は全く耳にしなかったが」
「当然よ、だって数年前の話だもの」
「あ、そう言う事ね」
隆誠がこの世界に来たのは一年以上前である為、数年前にあった話など知らないのは無理もないと苦笑するしかなかった。その時は黒竜について全く興味無いだけでなく、自分が関わる事は無いだろうと思っていたから。
思わず一年前の自分に教えてやりたい気持ちになる彼だが、それは今更詮無いことだと思いながら振り払う。
小休止をして三十分以上経ったことで、フレイヤが万全な状態に戻る。
その直後、竜の谷に異変が起きた。
「ん? 何か急に騒がしくなったな。それに結界も段々弱まってるような気が……」
「まさか……」
隆誠とフレイヤが竜の谷の方を凝視している中――
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッッ!!!!!!!
突如、竜の谷から大きな雄叫びが聞こえた。
その雄叫びによって、谷を覆っていた筈の結界に罅が入り、そして消失する。
結界が解かれたことで空が急に黒く淀んだ曇天になり、更には地鳴りが響き始める。
「おいおい、竜の群れが一気に飛び出したぞ」
「最悪ね。まさかこんなタイミングで結界が消失するなんて」
いつかは大精霊の封印が解かれるとは誰もが予想していた。学区側も結界の補強をしてる他、眠りについていた黒竜が再び目覚めるにしても数年以上先の事だとフレイヤも予想していたのに、自分達が竜の谷に訪れた直後に解かれるなんて完全に想定外だった。
当初は申し訳ないと思いながらも、隆誠に封印を破ってもらう予定だった。しかし、肝心の存在が雄叫びを上げて結界を消失させてしまったから、もう後戻り出来る状況ではない。
因みに黒竜が目覚めた一番の原因は隆誠と言う強大な存在を感じ取ったからだが、そんな事を知らない彼とフレイヤは『一体どう言う事だ?』と疑問だらけになっている。
「リューセー、先にあの群れを片付けて。アレ等を一匹でも逃したら
「初めからそのつもりだ。黒竜と戦う前の準備運動をさせてもらうとしよう」
そう言いながら隆誠はフレイヤに被害が及ばないよう認識阻害も合わせた強固な結界を張り、両腕両脚に装着していた修行用バンドを外してから飛翔する。
☆
今まで自分達を阻んでいた結界が消失した事で、竜の群れは歓喜していた。
大穴にいる
これを機に彼等は動き出そうとする。今まで自分達を封じ込めていた
そして竜の群れは今までいた竜の谷から離れようと、それぞれ各地に向かって飛び立とうとしていく――
――おい、何処へ行くつもりだ?
『ッッッッッ!!!!????』
直前、自分達の頭に直接響き渡る声がした。
聞いた瞬間、強靭な筈の竜達はまるで全身が金縛りにあったかのように動けないでいる。
一体誰だと疑問を抱きながら、声の主と思われる気配を感じた群れの一匹が視線を向けた。
そこには人間と思わしき存在がいた。空を飛べない筈の人間が、上空から見下ろしている。
『■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!!!』
人間だと分かった瞬間、他の竜達も激昂するように叫ぶ。
脆弱である筈の人間が自分達を見下ろしてるなど、プライドが高い竜達からすれば侮辱も同然。
先程までの恐怖から憤怒に変わり、あの愚か者を食い殺してやろうと彼等は動き出した。
急速に接近してくる竜の群れに、未だに飛んでいる人間は動く様子を見せていない。自分達が来るのを見たことで恐怖しているのだろうと彼等はそう思いながら嘲笑っていた。
未だに動いてはいない人間は妙な仕草をしていた。片手を高く掲げた瞬間、全身に魔力と思わしきモノで覆われる。
直後、伸ばしていた片腕の先から無数の光弾が上空に放たれた事で、彼等は一体何をやっているのかと訳が分からないでいると――
「ギャッ!」
「グゲッ!」
「アギャァッ!」
上空に向かって放たれた無数の光弾が、突如方向を変えるように落下したと思いきや、数匹の竜達が身体を貫かれて絶命した。
『■■■■■ッッ!!??』
あの光弾が自分達を狙っていると理解した彼等は反撃や回避に移ろうとするも、まるで無意味だと言わんばかりに次々と竜達の身体を貫いていく。
群れの中には翼を持たない個体もおり、飛んでいる同胞達が無残に死んでいくのを見て逃走を図ろうとするのも当然いた。が、光弾は地上にいる竜達も見逃さないと言わんばかりに追跡し、まるで地面に縫い付けるように貫いた。激痛に苛まれながらもジタバタと暴れる生命力の高い竜がいても、結局は力尽きて動かなくなってしまう。
邪魔な結界が解かれて自由を謳歌しながら蹂躙する筈だった竜の群れは、急に現れた人間が放つ無数の光弾によって狩り尽くされるのは時間の問題だった。
未だに生き残っている竜の中には、こんな事になるなら大人しくしてれば良かったと果てしない後悔をするも、捕捉された光弾によって頭ごと貫かれた事で絶命する。
☆
「よし、粗方片付いたな」
封印が解かれて自由に動き回ろうとする竜の群れを、隆誠は一匹残らず全て片付けた事に安堵する。
飛び立つ竜達の意識を自分に向けさせる為、竜の谷にいる対象全てに念話をすると同時に殺気も叩きつけた。
その結果、反応した彼等は上空にいる存在に気付く。飛べる竜達が一斉に襲い掛かって来たのを見計らい、隆誠は殲滅に持ってこいの技――『デスレイン』を使った。
『デスレイン』はドラグ・ソボールに登場する極悪キャラ――魔人プウ(悪)が使い、片手を高く掲げて無数の光弾を放つ技。対象の身体を正確に貫き、地表を傷つける事無く殲滅させていた技なので、無数の竜を片付けるにはコレが丁度良いと隆誠は判断した。
そして貫かれた竜達は光弾と共に消失していき、先程まで騒がしかった竜の谷は途端に静寂が訪れる。
「残るは……」
そう言いながら隆誠は真下にある大穴へ視線を向けた。
あの中には先程倒した竜の群れとは比べ物にならないほど強大な存在感と魔力が伝わってくる。間違いなく今回の討伐対象の『黒竜』がいるのだろうと彼は察する。
「まだ出てこないか」
しかし、向こうは動き出そうとする気配が全く無い事に、隆誠は思わず訝ってしまう。
同胞の竜がやられても意に介してない、もしくは自分の力など大したこと無いと思ってるかもしれない。
「ならば……引き摺り出してやる!」
修行用バンドを外した今の隆誠は、
これから戦う黒竜に対する挨拶代わりとして、彼は右人差し指の先から小さな光の玉を出し、それを頭上まで浮かせた瞬間、直径数十メートルまで巨大化した。
遠くから見ているフレイヤは、まるで太陽みたいではないかと驚愕している。
隆誠が使おうとしているのは『ドラグ・ソボール』極悪人キャラのフリーズが使っていた『ウルトラノヴァ』。人差し指の先に小さな光の玉を宿し、それを巨大化させて対象に投げつけると言う一種の大技で、地表に激突すれば大爆発は必須。
本気でやれば竜の谷だけでなくフレイヤがいる場所にも被害が及ぶため、威力は黒竜がいる大穴だけに調節している。
「まだ出てこないか……」
『ウルトラノヴァ』を放つ寸前でも、未だに姿を現わさない事に隆誠は眉を顰めた。
黒竜からすれば自分は取るに足らない存在なのかと疑問を抱き始めるも――
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッッ!!!!!!!
突如、大穴から聞き覚えのある雄叫びが隆誠に向かってきた。
普通の人間、それどころか第一級冒険者でも簡単に戦意喪失してしまいそうな殺気と恐怖を叩きつけられるも、それを直に受けている隆誠は全く気にしてない。
「ふんっ、漸くお出ましか」
随分勿体つけてくれるなと思いながら、隆誠は指先に収束している『ウルトラノヴァ』を霧散させた。
大穴から地響きが唸る事で、竜の谷全体が揺れていた。
同時に巨大な力を持つ存在が這い上がってくるのを感知したのか、浮遊している彼は少しばかり後退する。
直後、大穴から出現した。天を衝くほど巨体を誇る絶対悪――『隻眼の黒竜』が。
「貴様が話に聞く『黒竜』か。ふむ……」
巨大な竜が現れたにも拘わらず、隆誠は微塵も恐怖しないどころか、まるで観察するように見ていた。
「成程、確かに(この世界では)脅威な存在だ。今のオッタル達や【ロキ・ファミリア】が束になっても絶対勝てないな」
嘗て挑んだ
黒竜相手に小細工抜きの真っ向勝負をするのであれば、『Lv.10』以上の
「どうやら本格的に戦わないといけないようだ、な」
そんな危険な存在にも拘わらず、隆誠は楽しそうに笑みを浮かべていた。
先程まで倒した竜の群れならば確実に激昂する筈なのに、黒竜は何の反応もせずに彼を見据えているだけ。
その直後、隆誠が全身にオーラを纏い始めながら構えると――
「ハァァァァァァァァ………!」
「■ッ!?」
黒竜の眼は信じられないように大きく見開いた。
彼が力を解放しようとしてることで、竜の谷どころか大地全体に響くような地震が発生しているのだ。
それに気のせいか、あの人間から神の気配と思わしき力も感じ取れて――
「ダァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!」
いたと思いきや、大きな叫びと共に彼から発する突風と衝撃は、真下にある竜の谷を崩壊させてしまうほどだった。
「ふぅぅぅぅ………待たせたな、黒竜。これが俺の
「■■■■■■■■■ッ!!」
黒竜は確信した。自分が目覚めたのは間違いなく
同時に決意する。下界にいる愚かな神々や人間を蹂躙する前に、
「久しぶりに全力でやるんだ、簡単にやられるなよ?」
全力で自分を殺そうとする黒竜を見た事に、益々好戦的な笑みを浮かべる隆誠。
そして――
「さぁ、始めようかぁ!!」
「■■■■■■ッッ!!!」
元神と黒竜による、神話に等しい壮絶な戦いが始まろうする。
後日、戦いを最後まで見届けたフレイヤはオラリオへ帰還するも、同行していた筈の隆誠はいなかった。
やっと【フレイヤ・ファミリア】編が終了となりました。
次回は別の派閥編を書くつもりですが……その前に後日談は必要でしょうか?
フレイヤがオラリオへ戻ったその後の話とか。
感想お待ちしています。