別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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アリーゼ達を支える事にした

 食事前に軽い騒動が起きるも、アストレアのお陰で何とかアリーゼ達を宥める事が出来た。

 

 しかし、リューだけは納得していない。隆誠が女神を呼び捨てにする度に(少々殺気を込めながら)睨んでいるのだ。尤も、それをぶつけられても全く微動だにせず完全無視だが。

 

 末っ子のエルフから一方的に敵視されてる隆誠は食事を済ませた後、自分がどうすべきかを考えていた。【アストレア・ファミリア】の本拠地(ホーム)で居候する事が決まった以上、この時代の闇派閥(イヴィルス)に大きく関わるのは確定なのだ。因みに【フレイヤ・ファミリア】も当然含まれているが、もしもアストレア達に襲撃を仕掛けた場合、彼が責任持ってオッタル達を半殺しにすれば済むので放置している。

 

 今の時代に関われば間違いなく歴史が変わってしまうのだが、その確認をする意味合いも含めて、自身が未来から来た存在だと知っているアストレアに一先ず相談することにした。

 

 

 

「失礼する」

 

「……こんな夜遅くにどうしたの、リューセー?」

 

 神室に入ってくる隆誠に、アストレアは受け入れながらも用件を尋ねた。

 

「確認したい事がある」

 

 前置きも無く本題に入ろうとする隆誠。

 

「此処は俺にとって『過去』の世界だが、その時にもし死ぬ筈だった人間を助けた場合、『未来』の……正確には俺がいた七年後の世界はどうなると思う?」

 

「……貴方がいた世界に関しては、何も分からない」

 

 天界で全能の力を持っている神でも、流石に時空の事に関しては専門外のようだ。 

 

 因みに時を司る神の『クロノス』であれば分かるかもしれないが、この別世界にいたところで零能の身となってしまうから歴史に干渉する事は出来ない。

 

「けれど私達の世界は、貴方が知る『過去』から間違いなく逸脱することになる」

 

 そう断言するアストレアに、隆誠もだろうなと内心頷いた。

 

 亡くなっていた筈の者が生き続け、本来いるべき者がいなくなるかもしれない。そうなれば隆誠の知っている歴史とは大きくかけ離れてしまう。

 

 例えば死んだ筈のアリーゼ達が七年後でも存命していれば、リューは『豊穣の女主人』で働くことなく彼女達と歩み続ける事になる。その所為でベルとの大事な繋がりが失ってしまい、【ヘスティア・ファミリア】の運命が大きく変わってしまうどころか、派閥大戦で起きた出来事は訪れないだろう。

 

 年下の少年に心底惚れたエルフがいたからこそ、難局を乗り越える事が出来たと言っても過言ではない。

 

 元神の隆誠としても歴史に干渉することは出来るだけ避けたいが、アリーゼ達が死ぬのを静観するのは忍びなかった。見知ったばかりとは言え、大切な者を失って復讐の道を選ぶリューを見届ける気など無いから。

 

「下界にいる神々(わたしたち)でも『未来』を見通す術はない。全ては憶測。だから今此処で、貴方に正義を問わないわ」

 

「悪いが、俺にそんな崇高なモノは抱いてない。正義など関係無くアストレアの大事な眷族(かぞく)を守るべきかどうか、ただソレだけしか考えてない矮小な男だよ」

 

「リューセー、貴方……」

 

 個人的な理由で歴史を変えるか否かを考えている隆誠に、アストレアは意外そうな目で見ていた。

 

 けど、決して不快ではない。自身の損得など一切考えず、嘘偽りなく自分の眷族を守ろうとする姿勢を好ましく思っているほどだ。

 

(未来のフレイヤが彼を気に入った理由が分かる気がするわ)

 

 あの自由奔放な女神が何かある度に隆誠を傍に居させているのは、彼がこう言う性格だからなのだろうとアストレアはそう考えた。

 

 自分が知る限り、【フレイヤ・ファミリア】の眷族達は何もかも主神を優先する余りに問題や騒動を起こすのがお決まりだ。その所為で他派閥の冒険者や一般人から『恐怖』や『畏怖』の対象として見なされている。

 

 それに対して隆誠は全く異なる行動を取るから、未来のフレイヤはそこが気に入って普通に接していた。そうでなければ傍に居させず、彼から聞いた行動を起こしていない筈だから。

 

 アストレアとしても個神的に人間(こども)達と普通に接したいと夢見ていたが、崇高な女神と接されている為に半ば諦めている。―――――隆誠が現れるまでは。

 

「俺がどうしようがアストレアは咎める気は無い、と思っていいのか?」

 

「ええ。その上で行動を起こすか、静観するか貴方の自由。少なくとも私は責めはしないわ」

 

「そうか、分かった」

 

 事情を知るアストレアは隆誠がやろうとしてる事に口を出す気は無かった。正しい歴史を守るか、それを捻じ曲げてまで死ぬ筈だった者達を救うか、力を持たない女神(じぶん)ではどうすることも出来ないのだから。

 

 

 

 

(どうするかは俺の自由、か)

 

 アストレアと相談を終えた隆誠は、本拠地(ホーム)の庭で夜空を見上げていた。

 

 地上(した)と違って(うえ)は争いなど全く関係無いと言わんばかりの平穏な姿だ。

 

 嘗て天界に君臨していた聖書の神であれば、(うえ)から眺めながら、地上(した)で起きてる人間(こども)達の醜い争いを見て大いに呆れていただろう。そして人間に転生した今となっては、ただ眺めるだけしかしない神々に嫌悪するなど、余りにも滑稽で笑ってしまいそうだった。

 

(転生してからたった二十年程度だが、前世(むかし)の聖書の神からすれば考えられないな)

 

 いくら聖書の神であっても、出会ったばかりの人間(こども)達に対して真剣に悩むなど普通にあり得ない。

 

 一般家庭の長男として転生した僅か二十年程度で価値観が大きく変化した結果、今の隆誠がいる。

 

 神からすれば二十年など短い時間に過ぎないが、人間として様々に学び続けたからこそ、とても濃縮された大きな経験と言えよう。

 

(だが聖書の神(わたし)が積極的に動くのもなぁ……)

 

 いくらアリーゼ達を救う為とは言え、自ら表舞台に立つことを隆誠は少しばかり気が引けていた。

 

 彼としては成長(てがら)を奪ってまでやろうとはしない。辛い出来事を乗り越えてこそ人間は強くなる事を理解してるから、出来れば今の時代にいる彼女達に頑張って欲しいと思っている。

 

(俺なりにアリーゼ達を救う方法は――)

 

「何をしている、青二才」

 

 夜空を見ながら考えに耽っている最中、突如背後から声を掛けられた。

 

「おい輝夜、青二才って俺の事を言ってるのか?」

 

「貴様以外いないだろう、戯けが」

 

 少しばかりムッとした隆誠が言い返しても、輝夜は更に罵倒してきた。

 

 この口の悪い似非撫子を一度躾けてやろうかと思い始めるも、彼女はそれに全く気付いていない。

 

「此処で一体何をしている? 先程までアストレア様の部屋に行ってたみたいだが」

 

「何だ、見ていたのか」

 

「偶々目にしただけだ」

 

「ほう……」

 

 警戒してる余り尾行でもしていたのではないかと突っ込みたい隆誠だが、それを口にすればまた要らぬ罵倒をしてくると思い敢えて止めた。

 

「そうだ、少しばかり変なことを聞いてもいいか?」

 

「……言ってみろ」

 

 輝夜は戯言に付き合う気など毛頭無いが、事前に言ってくるのであれば一応付き合うことにした。

 

「もしも『過去』に干渉して歴史を変えられる力があれば……お前はどうする?」

 

「なんだと……?」

 

 明らかに「コイツは何を言ってるんだ?」みたいな目をしている輝夜だが、それでも最後まで聞こうとする。

 

「助けられなかった者を救える。だが、その所為で取り返しが付かないほどの事態に陥ってしまうかもしれない。輝夜であれば、どんな行動を取ろうとする?」

 

「…………………」

 

 最後まで聞いて無言になる輝夜だが――

 

「この、戯けがッ!!」

 

「うおっ」

 

 急に大きな声で罵倒してきたことに隆誠は思わず後ずさってしまった。

 

「私はその手の馬鹿話が最も嫌いだ! 打ち捨てられた理想も、選べなかった選択も、取り戻す事など出来ない! 反吐が出るぞ! 浅ましき未練の奴隷め!!」

 

(成程、そう言う考えもあったな)

 

 過去のオラリオにやってきた隆誠は、歴史を変えるか否かを考えていた所為で失念していた。本来は過去に戻って歴史をやり直すのは無理である事を。

 

「嗚呼、腹立たしい……! 最初見た時から、私は貴様が心底気に食わなかった! まるで自分一人だけで何でも出来ると思い上がった愚か者め! 私に下らぬ幻影を見せるな!」

 

「そうか、それはすまなかった」

 

 確かに自分は何でも出来ると思い上がっていたのかもしれない。それを身内ではない誰かに言われた事で、隆誠は馬鹿な事を言ってしまったと反省してしまう。

 

「…………はぁっ。……それで?」

 

「?」

 

「話の続きは? さっさと言え」

 

 言いたい事を言って去るかと思いきや、輝夜は隆誠に話の催促をしてきた。

 

「何だ? この話は嫌いじゃなかったのか?」

 

「大っ嫌いだとも。だが、私が癇癪を起こしても、目の前にある辛気臭い顔は消えん」

 

「辛気臭いって……」

 

「貴様が何を迷っているのかは知らんが、さっさと決心して、その不愉快な面を二度と見せるな。そら、言え」

 

「そこまで言うかよ……」

 

 ここまで容赦の無い罵倒を浴びせるのは、初めて会ったアレンやヘディンを含めた【フレイヤ・ファミリア】の眷族達以来だろうか。

 

 まさか過去のオラリオに来てまで似たような事をされるなど、隆誠としても流石に予想外だった。

 

 一先ずそれは後回しにしようと、彼は話を続けることにした。

 

「えっと……、もし輝夜が『過去』の時代に戻れたら――」

 

「待て」

 

「? どうした?」

 

「その例え話、既に『過去に戻っている』と言う前提か?」

 

「ああ、そう言う風に言ったつもりなんだが」

 

 既に自分が過去に戻っているからな、と内心付け加える隆誠。

 

 答えを聞いた輝夜は急に憤慨しだそうとする。

 

「過去に戻るか、戻らないかの話ではなかったのか……ええい、勘違いさせるな! この間抜けめ!」

 

 輝夜が蹴りを食らわそうとするも、隆誠は即座にヒョイッと躱す。

 

「避けるな、戯けが!」

 

「生憎、俺は女に蹴られて喜ぶ趣味はない」

 

 蹴りを躱された事に忌々そうに睨む輝夜に対し、マゾヒストではないと言い返す隆誠。

 

「ちっ! ……それはそうと、やはりくだらん。答えなど一つだろうに!」

 

「それは?」

 

 輝夜が舌打ちをしながらも答えを言おうとすると、隆誠は興味深そうに聞こうとする。

 

「その人物が『過去』に戻った時点で、その世界は『過去』ではない! 『今』だ!!」

 

「!!」

 

「何十年前だろうが何年前だろうが、その大馬鹿者にとっては全て地続きの『現在』だ! 行動すれば悪い『未来』が待っているかもしれない?」

 

 そう言いながら彼女は隆誠に近付き――

 

「――――ぶぁぁぁぁぁぁぁぁぁかめっ!」

 

 またしても罵倒を浴びせてきた。

 

 この似非撫子は罵倒をしなければ話が出来ない性質なのだと分かった隆誠は、もう諦める事にした。

 

「『今』を全力で生きぬ者に、より良き未来など訪れるものか!! 今、救える者を救い、次も犠牲が出さぬよう立ち回る! それだけだろうに!」

 

「成程。過去も未来も関係無く、今は自分に出来る事を尽くす。それが、今を生きる事しか出来ない、自分達に出来る事……と言う訳か」

 

 輝夜の言いたい事を理解した隆誠は改めて口に出す事で、自分が何をすべきか漸く決心する事が出来た。

 

「ありがとう、輝夜。俺は決めたよ」

 

「? 何を決めたのだ?」

 

「俺が【アストレア・ファミリア】を支援するだけでなく、お前達を徹底的に強くさせる為の過酷な修行をさせようと、な」

 

「………………………は?」

 

 言ってる意味が分からないと困惑する輝夜。

 

 しかし隆誠はそんなのお構いなく行動を開始しようとする。

 

「よ~し。折角だから輝夜、今からお前の実力を見せてもらおうか。俺の事を青二才だの馬鹿だのと平気で罵倒するんだから、さぞかし自信があるんだろう?」

 

「ま、待て貴様! こんな時間に女と手合わせをするなど非常識にもほどがあるぞ!」

 

「普段からズボラで似非撫子のお前が、そんな些細な事を気にする女じゃないだろうが」

 

「ズボラ!? 似非!?」

 

 これまで相手に容赦無く罵倒してきた輝夜だが、昨日会ったばかりの男に罵倒されるのは完全に予想外だった。

 

「それとも俺が【フレイヤ・ファミリア】の関係者だから、恐くて手合わせ出来ないのか?」

 

「………あ゛?」

 

 軽い挑発をする隆誠に、輝夜の額から青筋が浮かんできた。

 

 今まではアストレアの客人だからと言う理由で見逃していたが、今の彼女は完全にキレてしまった。

 

「上等だ! その舐め腐った態度、私が二度と叩けないようにしてやる!」

 

「決まりだな。それじゃ向こうでやるとしよう」

 

 手合わせする事を了承した輝夜に、隆誠はしてやったりと笑みを浮かべる。

 

 

 

 そして数分後――

 

「ば、馬鹿な……!?」

 

「何だよ。散々罵倒してた割には大したこと無いじゃないか」

 

 輝夜は用意した得物を使っても隆誠に傷一つ付ける事無く、思いっきり加減した一撃を受けた事で倒れていた。

 

「『Lv.3』以上の技量はあっても、そんな程度(・・・・・)じゃ俺には通用しない」

 

「き、貴様……!」

 

「お前は一度基礎を重点的にやり直した方が良いな。応用ばかり意識を向けすぎて、基礎が全くなってない」

 

 この世界の冒険者は『恩恵』を得る事で強化することが出来るが、その力に振り回される傾向が強い。

 

 目の前にいる輝夜はそれに該当しないとは言っても、以前に指導したベルと同様に基礎練習をさせる必要があるのだ。

 

「ふざけるな! 今の私にそんな暇など無い……!」

 

 まともな訓練が出来ない輝夜としては強くなりたいのは山々だが、闇派閥(イヴィルス)の対応でそんな暇など無いのが現状だった。彼女だけでなくアリーゼ達や、他のファミリアも同様に。

 

 だというのに、目の前の男は自分に基礎訓練をやらせようと考えているから、今の状況を理解してないのかと思わず突っ込みたくなってしまう。

 

「安心しろ。もしお前達が動けなくなった場合、俺が代わりに対応してやるから」

 

「は? 貴様、一体何を言って――」

 

「ちょっと! これは一体どう言う状況なの!?」

 

 突如、複数の足音がして振り向くと、驚いた顔をしてるアリーゼがやって来た。

 

 彼女だけでなくリューとライラも一緒にいる。

 

「貴様、輝夜に何をした!?」

 

「おいリューセー、ちゃんと説明してくれるんだろうな?」

 

 輝夜が倒れているのを見たリューが隆誠を強く睨み、ライラも返答次第では容赦しないと言わんばかりの殺気を醸し出している。

 

「丁度良い、呼び出す手間が省けた。お前達を強くする前に、先ずは実力を測らせてもらうぞ」

 

『は?』

 

 輝夜と同様に『言ってる意味が分からない』みたいな表情になるアリーゼ達だったが、数分後に思い知らされることになるのであった。




アリーゼ達を強くさせる道を選ぶ隆誠でした。

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