別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
(やっぱりオッタルに指南役は向いてないな)
アイズ・ヴァレンシュタインが訓練をして七日目。尤も、今やっているのは訓練とは名ばかりの実戦形式だった。
形式というより、もはや本当に実戦その物。本気で殺すのではないかと思うほど、オッタルは苛烈な攻撃を繰り出している。多少の加減を意識したところで、彼はそこまで器用な男じゃないと改めて認識した。
隆誠の目の前で繰り広げているオッタルの戦い方は、強大無比な力で立ち塞がっている。それをどうやって突破するかはアイズの意思と知恵で、単に自力で身に付けろと言う殆ど丸投げ状態だ。
確かに他派閥の冒険者で『Lv.6』と言う実戦経験豊富な【剣姫】に、今更訓練しながらアドバイスをする必要は無い。とは言え、七日間も同じ事をやり続けるのはどうかと隆誠は思った。彼女が自力で答えを見付けさせなければいけないとは言え、何一つ指摘せずに訓練期間が過ぎれば単なる手合わせだけで終わってしまう。
本当なら隆誠が指摘すべきなのだが、今の彼は補助と言う立場である為に無理だった。加えてフレイヤからオッタルのやり方に一切口出し無用と厳命されている為、訓練中に何かしらの非常事態が起きない限り何も出来ない。
(まぁその分参考にさせてもらっているが、な)
アドバイスを何一つしないオッタルに歯痒さを感じながらも、隆誠は【剣姫】の戦い方を存分に観察させてもらっていた。
アイズの戦闘スタイルは片手剣を扱う剣士タイプで、その剣技も中々の腕前。それだけでも充分に凄いが、彼女の真骨頂となるのが全身や武器に風属性を付与させる魔法だった。風を纏う事で攻守一体の風の鎧と化し、風の力で斬撃の切れ味や速度も上昇させており、自身の能力を更に上乗せさせている。純粋な剣技だけで言えば、元の世界にいる木場祐斗と良い勝負が出来る。隆誠がそう考えてしまうほど、彼女の剣は見事と言うべき技量なのだ。
因みにこの庭で『洗礼』をやっている【フレイヤ・ファミリア】の眷族達は動きを止めて、オッタルとアイズの訓練を恐ろしげに見ている。それどころか巻き添えを喰らわないよう下がってしまう者もいる程だ。しかし、彼等と違って間近で見ている隆誠は一切臆していない。二人の戦いによって発生する衝撃や、飛び散る粉塵や石の破片が迫っても微動だにせず、ただジッと見ているだけ。【
魔法を使って全力で戦うアイズとは別に、オッタルはその逆だった。『魔法』どころか『スキル』すら一度も使っておらず、そんなハンデを背負った状態でも【剣姫】に圧勝している。
「……【剣姫】。お前がこうまでして戦わんとしている相手は、どれほどの者だ?」
(今頃その問いかよ!)
苛烈な訓練を行っている中、オッタルが漸く口を開いた。
今まで会話の一つもしないで戦いばかりやっていて、この二人は一体いつ会話するのかと待っていたのだが、今になってその問いはないだろうと隆誠は内心叫んでいる。
「……わからない。相手の底が見えない」
戦闘に集中していたアイズだったが、オッタルの問いを正直に答えていた。彼女曰く、純粋な
オッタルは誰なのかを分かったように、「『
「【剣姫】、お前と打ち合って分かった事がある。お前は自分で思っているほど、対人戦に秀でていない」
「!?」
指摘されたアイズが表情を歪めていた。しかしオッタルは気にせず続けようとする。
「周囲と比べれば遥かに突き抜けている。お前は充分強い。……だが、俺やフィン達と比べれば温い。俺達の時代には
オッタルは当時最強だった二大ファミリアの名を口にした。
隆誠はその時代の頃など全く知らないが、約十五年前ほどに【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が千年間も君臨していたオラリオ最強の二大ファミリアがいた。『LV.7』となったオッタルでも彼等の足元に及ばないらしく、当時は『Lv.8』や『Lv.9』と言う
しかし、その最強達は黒龍の討伐に挑むも失敗した事で壊滅してしまった。現在は【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】が新たな都市最大派閥として君臨する事になるも、未だ彼等の領域に到達していない。千年も君臨していた二大ファミリアに比べれば歴が浅いので仕方ない、と言えばそれまでになってしまうが。
「お前の剣の本質は『人と戦う剣』ではなく――『
「ッ!」
(成程、そう言う事だったのか)
今回の訓練を経て確信したのか、オッタルはアイズの本質を断言した。
隆誠も彼女の戦い方に疑問を抱いていた。訓練中に一体何を迷っているのかと。
アイズはダンジョンにいるモンスター相手であれば何の躊躇もなく殺す事は出来るが、人が相手では無意識に躊躇ってしまうようだ。同時に
会話が終わったのか、アイズは何かを決意したかのように再び風魔法を発動させた。今まで以上の出力を放出させながら。
「それでいい――」
決意したアイズを見たオッタルは近くに居ながらも、彼女から発せられる暴風を間近で浴びても微動だにせず、手にしている大剣を両手に持ち構えていた。
対峙する二人は突進して己の武器を振り翳そうと――
「そこまでだ」
「「ッ!?」」
――した瞬間に隆誠が突然乱入してきた。それどころか、振り翳した二人の斬撃を素手で受け止めている。並みの冒険者がやれば確実に死んでもおかしくない筈だが、受け止めた当の本人は全くの無傷。
いきなり止められた事にオッタルが眉を顰めるのとは別に、アイズは魔法を解除しながら信じられないように驚愕していた。全力で剣を振るった筈なのに、何故こうも簡単に受け止められるのかと。
「リューセー、何故邪魔をする」
「先ず周囲を見ろ。どれだけ荒らしてると思ってるんだ?」
「む……」
隆誠に言われた通りオッタルは周囲を見渡す。周囲の地面が所々抉られ、更には外壁も一部破壊されている。尤も、これはオッタルだけでなくアイズにも言える事だが。
洗礼をする為の訓練場所とは言え、こうも周囲に被害を撒き散らすことをされては、毎回(神の
「ヴァレンシュタインさんも、出来ればもうちょっと周囲の事を考えて欲しいな」
「……ごめんなさい」
今更ながら気まずそうな表情で謝罪するアイズに、隆誠はこれ以上何も言ったりしない。今の彼女は客人だから、軽い注意程度で済ませるだけだったのだ。
「ちょっと早いけど、今日はもうここまでにしてくれ」
「分かった」
訓練の時間を決めるのはオッタルだが、勝手に終わらせようとする隆誠に一切文句を言わず打ち切る事にした。
それを見たアイズが疑問を抱く。自分だけでなく『Lv.7』の斬撃を簡単に受け止める実力者でも、立場的には団長のオッタルが上の筈なのに、何故こんなあっさり従うのかと。
一体何者なのかと段々気になり始めるアイズだったが――
「そう言えばヴァレンシュタインさんって、確かジャガ丸くんが好きみたいだね。良かったら俺が作るけど食べるかい?」
「是非とも」
急に自身の好物を用意しようとする隆誠に、一先ず後回しにするのであった。
フレイヤ「オッタル、リューセーはどうしたの?」
オッタル「夕餉を済ませた後、【剣姫】と一緒に何処かへ行きました」
フレイヤ「………その二人はどこにいるの?」
オッタル「恐らくはリューセーの部屋に」
フレイヤ「今すぐ彼を此処へ連れてきなさい」
オッタル「畏まりました」
数分後
隆誠「何だよ、フレイヤ。急に呼び出して」
フレイヤ「【剣姫】を部屋に連れ込んでいたみたいだけど、一体何をしていたの?」
隆誠「何をって……作ったジャガ丸くんを彼女に用意しただけだが」
フレイヤ「……嘘は吐いてないわね」
アイズ「モグモグ……このジャガ丸くん、凄く美味しい……!」
感想お待ちしています。