別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
なのでフライング投稿します。
静まり返った
普段なら誰かしらが軽口を叩き、誰かがそれに乗り、誰かが呆れ、誰かが微笑む。そんな穏やかな空気が流れる場所だ。
その日常の風景が、今日はどこにも存在しなかった。
空気は張り詰め、まるで戦場に赴く前の兵士達が集う作戦室のような緊張感が漂っていた。円卓を囲む眷族達の表情は、誰一人として緩んでいない。
アリーゼは団長らしく腕を組み、眉間に皺を寄せている。
輝夜は指を組み、まるで会議の議事録を取るかのように冷静な目で周囲を観察していた。
リューは静かに目を閉じ、深い森の中で風の流れを読むような集中を見せている。
ライラでさえ、いつもの飄々とした雰囲気を完全に消し、真剣な眼差しで円卓を見つめていた。
その異様な光景は、もし隆誠が見たなら――
『そんな真剣な顔でやる必要あるのか?』
――と、心底呆れ果てていたに違いない。
「では……議題を改めて確認するわね」
アリーゼが咳払いし、厳粛な声で告げる。その声音は、普段の彼女の明るさとはまるで別人のようで、眷族達の背筋を自然と伸ばさせた。
「アストレア様が急にお美しくなられた理由について」
その瞬間、全員の背筋がピンと伸びた。まるで神聖な儀式の開始を告げられたかのように、空気が一段と引き締まる。
誰も笑わない。誰も茶化さない。主神の変化という重大なテーマが、彼女達の心を完全に真剣へと切り替えていた。
「まずは昨日の様子から整理しましょう」
輝夜が淡々と語り始める。その声は静かだが、どこか緊張を帯びていた。
彼女自身も、昨日のアストレアの姿に心を奪われた一人なのだ。
「アストレア様は、昨日の夕方――突然、肌の艶が増し、髪は絹糸のように輝き、香りまで変化していました。同性である私達でさえ胸が高鳴るほどの美しさでした」
「ああ、あれはマジでヤバかったな……」
ライラが頬を赤らめながら言う。普段は軽口ばかりの彼女が、言葉を選ぶように慎重に話している。
「なんかこう……見惚れるっていうより、拝むって感じだったよ」
ライラの言葉に、ネーゼが尻尾を揺らしながら同意するように頷く。
普段から思った事をそのまま口にする
「確かに……」
リューも静かに頷く。
普段から周囲にクソ真面目やポンコツと揶揄われるエルフの彼女であれば、『アストレア様に対して何て不敬な!』と顔を赤らめながらアリーゼ達を非難してもおかしくない。それが賛同するように頷いているなど、それだけ主神の美しさに心が響いたのかもしれない。
「あの瞬間、私は動けませんでした。あれは最早【魅了】に近い状態だったと思います」
「それよ!」
アリーゼが机を叩く。その音がリビングに鋭く響き、全員がわずかに肩を跳ねさせた。
「【魅了】に近いって、普通の美しさじゃないわ!」
もしもアストレアが、フレイヤやイシュタルと同じく美の女神であれば、自分達は【魅了】されていたと納得していた。
しかし、自分達の主神は正義を司る女神だから、【魅了】などの能力は一切持っていない。なのに、突然美しくなった姿を見た瞬間、まるで金縛りのように動けなくなってしまった。
故にあの美しさは普通じゃないとアリーゼはそう結論すると、輝夜達も同感だと言わんばかりに頷いている。
その頷きは、ただの同意ではなく、『主神の変化を見逃すわけにはいかない』という、眷族としての強い意志が宿っていた。
乙女達の会議が白熱としている中、外出していたアストレアと隆誠が帰ってきた。
玄関の扉が静かに開き、二人の気配がリビングへと流れ込む。
「ただいま、みんな」
柔らかな声が響いた瞬間、円卓の全員がビクッと肩を跳ねさせた。
アストレアは昨日と同じ、いやそれ以上に澄み切った気配を纏っている。
肌は淡く光を宿し、髪は歩くたびに星屑のような輝きを零す。その姿を目にした瞬間、眷族達は反射的に背筋を伸ばし、呼吸すら忘れかける。
「……おい、なんだこの空気」
隆誠が思わず眉を顰めていた。普段なら姦しいと思われる筈のリビングが、今はまるで神殿の謁見室のように静まり返っているから。
アリーゼ達は慌てて姿勢を正し、同時に視線を逸らした。昨日の件を思い出し、誰もアストレアを直視できない。
「み、みんな……どうしたの? 昨日から何か変よ」
アストレアが首を傾げると、その仕草だけで眷族達の心臓が一斉に跳ねてしまう。
ライラが小声で呟く。
「……今日も、反則級に綺麗なんだけど……」
ネーゼが尻尾をバタバタさせながら頷く。
輝夜は冷静を装いながらも、手元のメモが震えている。
リューは真っ赤になりながら、アストレアを直視しないように視線を床へ落とした。
そんな異様な反応を見て、隆誠は深くため息をついた。
「……お前等、さっきまで変な会議してなかったか?」
図星を突かれた事で、一斉に固まる眷族達。
一体何の会議をしていたのかと問うも、アリーゼ達は頑なに口を開かず、蜘蛛の子を散らすように終了となるのであった。
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