別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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神エレンの出会い

 現在オラリオで起きている闇派閥(イヴィルス)襲撃の数は、数ヵ月前と比べて明らかに減少していた。

 

 だが、それは平穏の兆しではない。むしろ、街の空気は以前より張り詰めている。何かが変わったと、冒険者達はそう感じていた。

 

 その要因は二つある。

 

 まず一つ目は、【アストレア・ファミリア】の躍進。

 

 眷族全員が短期間でランクアップしたという前代未聞の事態は、オラリオ中を震撼させた。

 

 彼女達は以前よりも迅速に、正確に、そして容赦なく闇派閥を制圧していく。その戦いぶりは、民衆から『守護の女神の眷族』と称えられるほどで、街の人々は彼女達の姿を見るだけで安堵の息を漏らした。

 

 だが、闇派閥(イヴィルス)の減少は彼女達だけの功績ではない。

 

 二つ目の要因――それは『仮面の狩人』の存在だ。

 

 黒い外套を纏い、鬼のような白い仮面を付けた得体の知れない存在。

 

 表立った活躍はほとんどない。だが闇派閥(イヴィルス)の構成員達にとっては、【アストレア・ファミリア】以上に恐れられていた。『あれは敵ではない。災厄だ』と囁かれているほどに。

 

 何しろ実力は『Lv.6』以上。そう証言したのは【フレイヤ・ファミリア】の幹部、ヘディン・セルランドとヘグニ・ラグナールである。

 

 数ヵ月前、彼等は【アレクト・ファミリア】の『ディース姉妹』と遭遇した際、突如現れた『仮面の狩人』が戦う姿を目撃した。

 

 第一級冒険者(Lv.5)の実力を持つヴェナとディナ。その二人が得意の連携で襲いかかっても、狩人は掠り傷一つ負わず、まるで風のように躱し続けた。

 

 そして、圧倒した。攻撃を受けたのではなく、戦いにならなかったのだ。姉妹が地に伏すまで、狩人は一度も本気を出していないように見えたと、ヘディンとヘグニは語ったという。

 

 その後、意識を失った姉妹はどこかへ連れ去られた。行方不明になったと思われた数時間後、ギルド本部の前に、縄でグルグル巻きにされた状態で放置されているのが発見された。

 

 ギルド職員は悲鳴を上げ、冒険者達は武器を構え、都市は一時騒然となった。姉妹が目覚める前に牢へ投獄され、今も厳重な警戒態勢が敷かれている。

 

 オラリオ側からすれば、闇派閥(イヴィルス)の戦力が激減したのは本来なら吉報であるはずだった。だが、誰も素直に喜べなかった。むしろ、ギルド上層部は『仮面の狩人』に対する警戒を以前より強めているほどだった。

 

 闇派閥(イヴィルス)が弱体化した理由の半分が、正体不明の存在によるもの。その事実が、冒険者達にとって大きな不安要素だった。

 

『今は味方かもしれないが、敵になればどうなるのか』

 

 誰もその答えを想像したくなかった。

 

 ギルド側としては、相手が正体不明であっても冒険者である以上、可能なら此方側へ引き込むべきだとロイマンが提案した。

 

 闇派閥(イヴィルス)の幹部を圧倒する力を持つ存在を味方にできれば、オラリオの治安は飛躍的に安定する。ギルド長として、そう考えるのは当然だろう。

 

 しかし、その提案は【ロキ・ファミリア】の団長、フィン・ディムナによって却下される。

 

「『Lv.6』以上の実力者を相手に強引な勧誘などすれば、機嫌を損ねるどころか敵に回ってしまう恐れがある」

 

 その一言は、場の空気を一瞬で凍らせた。フィンの声は静かだったが、そこに含まれた危機感は誰の耳にも明確に届いた。

 

 『仮面の狩人』が敵になれば、闇派閥(イヴィルス)どころでは済まない。そう理解したロイマンは、口を閉ざすしかなかった。

 

 今のところオラリオにとって有益だが、彼がどんな思想を持ち、どんな目的で動いているのかは誰にも分からない。味方か、敵か。それすら判断できない存在を刺激するのは、あまりにも危険だった。

 

 こうしてギルドは、狩人に対する接触ではなく放置を選ぶことになる。

 

 

 

 

 

 

「今日は炊き出しか」

 

 ギルドから警戒されている『仮面の狩人』――隆誠は、『星屑の庭』のリビングで静かに寛いでいた。窓から差し込む柔らかな光が、黒い外套を脱いだ彼の横顔を照らしている。だが、その瞳はどこか遠くを見ていた。

 

 本来ならアリーゼ達の修行を行っている時間だ。しかし昨日、ギルドからの要請が入り、訓練は急遽中止となった。

 

 要請内容は単純だ。『ギルド主催の炊き出しを冒険者達も手伝うように』と。それだけでなく護衛、調理、配給のすべてを含めて。

 

 隆誠は冒険者ではないため、アストレアの護衛として本拠地(ホーム)に残ることになった。

 

 アリーゼ達は美味しい料理を作れる彼も連れて行きたいと何度も誘うも、彼は丁重に断った。

 

 炊き出しに参加すること自体は吝かではない。むしろ市民のためになるなら喜んで手伝いたいと思っている。しかし『仮面の狩人』として密かに活動してる以上、表舞台に立つ事は出来なかった。

 

(市民を安心させたい気持ちは分からなくもないが……)

 

 隆誠はソファに背を預けながら、深く息を吐いた。今の状況で炊き出しを行うのは、あまりにも危険だと感じている。

 

 襲撃が減ったとはいえ、闇派閥(イヴィルス)は今、相当腸が煮えくり返っているはず。末端の構成員が次々と減らされ、幹部である『ディース姉妹』まで失ったのだから。

 

 その姉妹に対して、隆誠はギルドへ引き渡す前に脱獄対策を施していた。

 

 まず、身体能力を極限まで低下させるルーン魔術――『呪いのルーン』を刻み込んだ。更には神の能力(ちから)を用いて記憶を封印した。これは人間の魔法では絶対に解除できない領域の術式だ。

 

 もしギルド内部の内通者が彼女達を助け出したとしても、戦力にはならない。今の姉妹は非力なだけでなく、言葉も満足に理解できない幼子のように知能が低下している。隆誠が解除しない限り、ディース姉妹は二度と元の姿には戻らない。

 

 だが、彼が懸念しているのは別の点だった。

 

闇派閥(イヴィルス)は必ず動く。奴等にとって今回行う炊き出しは絶好の標的だと考えている筈だ)

 

 静かなリビングに、彼の思考だけが重く沈んでいく。

 

 そして数時間後、その懸念は現実となる。

 

 炊き出しが行われていた広場で、闇派閥(イヴィルス)の襲撃による爆発が発生した。

 

 

 

 

 

(どうやら相当鬱憤が溜まっていたようだ)

 

 爆発が起きてから数時間後。

 

 隆誠は一人、惨状と化した広場へ足を運んでいた。

 

 瓦礫の山、焦げた地面、血の跡。炊き出しのために集まった市民達の笑顔が、ほんの少し前までここにあったとは思えないほど、広場は静まり返っていた。

 

 本拠地(ホーム)へ戻ってきたアリーゼ達は、いつもと違って暗い表情をしていた。

 

 広場に襲撃してきた闇派閥(イヴィルス)を撃退したものの、市民に犠牲者が出てしまった。その事実が、彼女達の胸に深い影を落としていたのだ。

 

 話を聞いた隆誠は、彼女達を非難する気など一切なかった。むしろ、彼女達がいなければ被害は今以上に酷くなっていたのは明白だ。

 

(ここまで酷いと分かっていれば……!)

 

 理由があって行かなかったとはいえ、自分も密かに参加していれば被害を抑えられたのではないか。そんな後悔が、彼の胸を刺す。

 

 だが、それは傲慢だと隆誠は即座に己を戒めた。自分は未来からやってきた異分子であり、表舞台に立つことは許されない。『仮面の狩人』としての活動は、あくまで影の中で行うべきものだと。

 

(こうまで好き勝手に暴れた報いは受けてもらうが、な)

 

 隆誠は歩きながら静かに決意する。次に『仮面の狩人』として動く時は、少々強めの【福音】で全身をズタズタにしてやろうと。

 

 その時だった。

 

「あれ? 君、何か見慣れない服を着てるね」

 

 不意に声をかけられた。

 

 隆誠が反応して視線を向けると、頼りなさそうな表情をした男神が立っていた。柔らかい雰囲気を纏いながらも、どこか底が見えない。

 

「それに……気のせいかな。君は人間のはずなのに、人間とは違うモノを持っている気がする」

 

(コイツ、見た目とは裏腹に油断できないな)

 

 隆誠は男神を見た瞬間、直感的に警戒心を強める。その男神は妙に親しげで、しかし言葉の端々に何かを見透かすような鋭さがあった。

 

 男神の名はエレン。隆誠は、思わぬ形で再び彼と対面することになった。




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