別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
現在オラリオで起きている
だが、それは平穏の兆しではない。むしろ、街の空気は以前より張り詰めている。何かが変わったと、冒険者達はそう感じていた。
その要因は二つある。
まず一つ目は、【アストレア・ファミリア】の躍進。
眷族全員が短期間でランクアップしたという前代未聞の事態は、オラリオ中を震撼させた。
彼女達は以前よりも迅速に、正確に、そして容赦なく闇派閥を制圧していく。その戦いぶりは、民衆から『守護の女神の眷族』と称えられるほどで、街の人々は彼女達の姿を見るだけで安堵の息を漏らした。
だが、
二つ目の要因――それは『仮面の狩人』の存在だ。
黒い外套を纏い、鬼のような白い仮面を付けた得体の知れない存在。
表立った活躍はほとんどない。だが
何しろ実力は『Lv.6』以上。そう証言したのは【フレイヤ・ファミリア】の幹部、ヘディン・セルランドとヘグニ・ラグナールである。
数ヵ月前、彼等は【アレクト・ファミリア】の『ディース姉妹』と遭遇した際、突如現れた『仮面の狩人』が戦う姿を目撃した。
そして、圧倒した。攻撃を受けたのではなく、戦いにならなかったのだ。姉妹が地に伏すまで、狩人は一度も本気を出していないように見えたと、ヘディンとヘグニは語ったという。
その後、意識を失った姉妹はどこかへ連れ去られた。行方不明になったと思われた数時間後、ギルド本部の前に、縄でグルグル巻きにされた状態で放置されているのが発見された。
ギルド職員は悲鳴を上げ、冒険者達は武器を構え、都市は一時騒然となった。姉妹が目覚める前に牢へ投獄され、今も厳重な警戒態勢が敷かれている。
オラリオ側からすれば、
『今は味方かもしれないが、敵になればどうなるのか』
誰もその答えを想像したくなかった。
ギルド側としては、相手が正体不明であっても冒険者である以上、可能なら此方側へ引き込むべきだとロイマンが提案した。
しかし、その提案は【ロキ・ファミリア】の団長、フィン・ディムナによって却下される。
「『Lv.6』以上の実力者を相手に強引な勧誘などすれば、機嫌を損ねるどころか敵に回ってしまう恐れがある」
その一言は、場の空気を一瞬で凍らせた。フィンの声は静かだったが、そこに含まれた危機感は誰の耳にも明確に届いた。
『仮面の狩人』が敵になれば、
今のところオラリオにとって有益だが、彼がどんな思想を持ち、どんな目的で動いているのかは誰にも分からない。味方か、敵か。それすら判断できない存在を刺激するのは、あまりにも危険だった。
こうしてギルドは、狩人に対する接触ではなく放置を選ぶことになる。
☆
「今日は炊き出しか」
ギルドから警戒されている『仮面の狩人』――隆誠は、『星屑の庭』のリビングで静かに寛いでいた。窓から差し込む柔らかな光が、黒い外套を脱いだ彼の横顔を照らしている。だが、その瞳はどこか遠くを見ていた。
本来ならアリーゼ達の修行を行っている時間だ。しかし昨日、ギルドからの要請が入り、訓練は急遽中止となった。
要請内容は単純だ。『ギルド主催の炊き出しを冒険者達も手伝うように』と。それだけでなく護衛、調理、配給のすべてを含めて。
隆誠は冒険者ではないため、アストレアの護衛として
アリーゼ達は美味しい料理を作れる彼も連れて行きたいと何度も誘うも、彼は丁重に断った。
炊き出しに参加すること自体は吝かではない。むしろ市民のためになるなら喜んで手伝いたいと思っている。しかし『仮面の狩人』として密かに活動してる以上、表舞台に立つ事は出来なかった。
(市民を安心させたい気持ちは分からなくもないが……)
隆誠はソファに背を預けながら、深く息を吐いた。今の状況で炊き出しを行うのは、あまりにも危険だと感じている。
襲撃が減ったとはいえ、
その姉妹に対して、隆誠はギルドへ引き渡す前に脱獄対策を施していた。
まず、身体能力を極限まで低下させるルーン魔術――『呪いのルーン』を刻み込んだ。更には神の
もしギルド内部の内通者が彼女達を助け出したとしても、戦力にはならない。今の姉妹は非力なだけでなく、言葉も満足に理解できない幼子のように知能が低下している。隆誠が解除しない限り、ディース姉妹は二度と元の姿には戻らない。
だが、彼が懸念しているのは別の点だった。
(
静かなリビングに、彼の思考だけが重く沈んでいく。
そして数時間後、その懸念は現実となる。
炊き出しが行われていた広場で、
(どうやら相当鬱憤が溜まっていたようだ)
爆発が起きてから数時間後。
隆誠は一人、惨状と化した広場へ足を運んでいた。
瓦礫の山、焦げた地面、血の跡。炊き出しのために集まった市民達の笑顔が、ほんの少し前までここにあったとは思えないほど、広場は静まり返っていた。
広場に襲撃してきた
話を聞いた隆誠は、彼女達を非難する気など一切なかった。むしろ、彼女達がいなければ被害は今以上に酷くなっていたのは明白だ。
(ここまで酷いと分かっていれば……!)
理由があって行かなかったとはいえ、自分も密かに参加していれば被害を抑えられたのではないか。そんな後悔が、彼の胸を刺す。
だが、それは傲慢だと隆誠は即座に己を戒めた。自分は未来からやってきた異分子であり、表舞台に立つことは許されない。『仮面の狩人』としての活動は、あくまで影の中で行うべきものだと。
(こうまで好き勝手に暴れた報いは受けてもらうが、な)
隆誠は歩きながら静かに決意する。次に『仮面の狩人』として動く時は、少々強めの【福音】で全身をズタズタにしてやろうと。
その時だった。
「あれ? 君、何か見慣れない服を着てるね」
不意に声をかけられた。
隆誠が反応して視線を向けると、頼りなさそうな表情をした男神が立っていた。柔らかい雰囲気を纏いながらも、どこか底が見えない。
「それに……気のせいかな。君は人間のはずなのに、人間とは違うモノを持っている気がする」
(コイツ、見た目とは裏腹に油断できないな)
隆誠は男神を見た瞬間、直感的に警戒心を強める。その男神は妙に親しげで、しかし言葉の端々に何かを見透かすような鋭さがあった。
男神の名はエレン。隆誠は、思わぬ形で再び彼と対面することになった。
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