別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
オラリオが大混乱に陥っている頃、各派閥が進めていた拠点制圧は既に頓挫し、彼らは一斉に撤退を余儀なくされていた。
現在、【ロキ・ファミリア】が
他派閥――【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】は避難民の誘導に奔走し、【フレイヤ・ファミリア】は
残る各派閥も防衛線を張っているが、状況は明らかに不利だった。末端の構成員を倒した直後、身体に巻き付けた爆弾を発火させて自爆し、周囲を巻き込む。それはあまりにも非道で、冒険者達の常識を踏み越えた戦術が、戦場の空気をさらに濁らせていた。
フィンは既にこの自爆戦術を把握しており、距離を取って戦うよう周知していた。しかし、逃げ惑う市民達が戦場に散在している以上、理想的な戦い方など望むべくもない。
被害は甚大だが、第一級冒険者達を中心に再編すれば立て直しは可能だとフィンはそう計算していた。だが、その思考を打ち砕く最悪の報せが届く。
嘗てオラリオに君臨した二大派閥――【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の英雄二人が、多くの上級冒険者達を蹂躙しているというのだ。
【ゼウス・ファミリア】の【
【ヘラ・ファミリア】の【静寂】アルフィアは、進路を遮る上級冒険者達を、まるで煩わしい蠅でも払うかのように次々と吹き飛ばしている。
三大
そして、追い打ちをかけるように新たな報告が入る。
「ほ、報告! 都市西部で反撃の兆しあり! 『仮面の狩人』が『たった一人』で多数の
「ッ……来てくれたか!」
オラリオで話題となっている正体不明の存在――『仮面の狩人』の出現に、フィンは思わず歓喜の声を漏らした。
完全な味方ではない。だが、冒険者側――特にフィンにとっては、これ以上ないほど頼もしい存在だった。表舞台で活躍する【アストレア・ファミリア】とは別に、彼は
「それと……そのまま敵援軍と戦闘を開始! 相手は【ヘラ・ファミリア】――【静寂】のアルフィアと交戦中!」
報告を聞いた瞬間、フィンの表情が強張る。
『仮面の狩人』が、あのアルフィアと戦っている。それは、彼が嘗ての英雄と渡り合える実力を持つという証左だった。
フィンは息を呑む。混乱の渦中で、希望とも恐怖ともつかぬ感情が胸を満たしていく。
☆
「全く……次から次へと鬱陶しいにも程がある」
ヴィトーを空のお星さまにした『仮面の狩人』――隆誠は、逃げ惑う市民に刃を向ける
黒い仮面と無言の立ち姿は当初、市民達に恐怖を与えた。だが、彼が自分達を守るために前へ出る姿を見て、恐怖は徐々に感謝へと変わっていく。
血と煙の中、彼に向けられる「ありがとう」という声は、混乱の渦中で唯一の救いのように響いた。
もちろん、
だが――
「やれるものなら、やってみろ」
隆誠が仮面の奥で目を細めた瞬間、空気が震えた。
睨みだけで発動する『遠当て』が放たれ、突進してきた構成員達はまるで見えない巨腕に殴り飛ばされたかのように吹き飛ぶ。
その衝撃で、彼らが抱えていた『撃鉄装置』が誤作動した。
次の瞬間――
ドンッ!
『
しかしその爆発は隆誠ではなく、吹き飛ばされた構成員達の味方を巻き込む形で炸裂する。
悲鳴が上がり、黒装束の者達が次々と地に伏していく。
因みに隆誠は、たとえ相手が
だが、自ら爆弾を抱えて突っ込んでくるのであれば、それはもはや救いようのない選択だ。隆誠は、瞬間的にその線引きを切り捨てた。
(そこまでして死に急ぐなら……もう、俺が背負う必要はない)
覚悟を決めた者の暴走は、止めようとして止まるものではない。彼は冷たく息を吐き、迫り来る自爆特攻を『向こうの自己責任』として処理することにした。
その判断は冷酷だが、暗黒期のオラリオでは、それこそが生存のための現実だった。
「……本当に救いようがない連中だな」
仮面越しの声は冷たく、戦場の空気をさらに凍らせる。だがその冷たさが、市民や冒険者達にとってはむしろ頼もしさとなっていた。
混乱の街で、彼だけが確実に敵を止める存在として機能しているのだから。
「何をしている。また敵が来る前に動け。生き残りたいならな」
隆誠の声音は冷たく、突き放すようだった。だが叱責された市民や冒険者達は、怯えたように背筋を伸ばしながらも、胸の奥では彼への感謝を噛みしめていた。
自分達を救ったのが、目の前の仮面の男であることを誰もが理解していたからだ。
『は、はい!』
彼らは慌ただしく瓦礫の間を駆け抜け、避難経路へと消えていく。その背中には、恐怖と安堵が入り混じった複雑な色が滲んでいた。
隆誠は一帯を見渡す。
崩れた建物、焦げた匂い、血の跡。つい先ほどまで敵が跳梁していた場所は、ようやく静寂を取り戻しつつあった。
(ここは片付いたな……次だ)
短く息を吐き、彼は足を踏み出す。
戦場はまだ複数残っており、そこでは
隆誠は迷いなく、次の戦場へ向かって歩き出す。
瓦礫を踏む音だけが響く静寂の中、その背に、ひどく場違いな声が落ちてきた。
「お前か。先程から聞くに堪えない雑音を撒き散らしているのは」
(……え? 朱乃?)
その声は、かつての戦友を思い起こさせるほど似ていた。隆誠は反射的に足を止め、ゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは、漆黒のロングドレスを纏い、灰色の長髪を風に揺らす美女。戦場の瓦礫と血煙の中にあって、彼女だけがまるで別の世界から切り取られたような優雅さを纏っていた。
その歩みは静かで、周囲の惨状を一切気にしていない。まるでこの混沌が、自分とは無関係だと言わんばかりに。
(……人違いか。だが声は朱乃に酷似していたな)
隆誠は一瞬だけ期待し、そして落胆した。この世界に朱乃が来ているはずもない。
だが、気になるのは声だけではなかった。
美女が纏う魔力の質が、どこかで感じたものと酷似していた。
「…………ベル・クラネル、か?」
「ッ!?」
隆誠が呟いた瞬間、閉じていた彼女の瞳が見開かれた。左右で色の異なるオッドアイが露わになり、空気が一変する。
殺気が、爆ぜた。
周囲の瓦礫が微かに震え、空気が重く沈む。その圧は、普通の冒険者なら膝を折るほどの威力だった。
「お前、その名を……どこで知った?」
ただの問いなのに、その声音には『虚偽は許さない』という冷たい刃が潜んでいた。
隆誠は微動だにしない。寧ろ、静かに彼女を観察していた。
「生憎だが、答える義理はない」
淡々と拒絶する。目の前の美女が誰であれ、
しかし――
「さっさと言え。【
「!」
彼女は返答を促すだけでなく、見覚えのある魔法を放った。見えない音の塊が隆誠の身体を引き裂こうと迫る。
だが――
「これは驚いた。まさか貴女が、あの魔法の持ち主だったとは」
「ッ! 貴様、何故……効かない……!?」
隆誠は無傷だった。まるで魔法が素通りしたかのように、衣服すら乱れていない。
アルフィアは再び目を見開き、警戒を露わにする。その表情は、長年の戦場経験を持つ者が『理解不能な現象』に遭遇した時のものだった。
隆誠は確信する。目の前の彼女こそ、七年後のオラリオでオッタルから聞いた『嘗ての英雄』だと。
「【静寂】のアルフィア。会えて嬉しいよ」
仮面越しにも分かるほどの微笑を浮かべる隆誠。その余裕が逆に、アルフィアの警戒心をさらに強めた。
「……お前、私の魔法をどうやって凌いだ?」
「さてな。では此方もお返しをしよう。【
「ッ……!?」
隆誠がルーン魔術を用いて同じ魔法を放つ。アルフィアのオッドアイが揺れ、驚愕と困惑が混じった色を帯びた。
戦場の空気が、さらに重く沈んでいく。
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