別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
(アリーゼ達も含めた冒険者達は今も諦めずに拮抗してるが、いつまで続くのやら)
アイズから逃れて一夜明けたオラリオは、まだ戦火の余韻を引きずっていた。
瓦礫の山、焦げた石畳、遠くで響く治療師の叫び。隆誠はその荒れ果てた街を歩きながら、再び『仮面の狩人』としての活動を再開していた。
数時間前まではアーディと一緒だった。
だがその後、前線にいるはずのリューが急遽外され、市内を一人で
その姿は、まるで魂が抜け落ちたかのようだった。視線は定まらず、歩みはぎこちない。
前の抗争で何か遭ったかもしれないと隆誠は直感で悟り、アーディにこう頼んだ。今のリューを見てると不安だから傍にいてあげて欲しいと。
アーディは隆誠と離れることに露骨に難色を示すも、友人を放っておけない性格が勝った。
「勝手にいなくならないでね! 絶対だよ!」
念を押しながら、アーディはリューの腕をそっと取って一緒に巡回へ向かった。
その背中を見送りながら、隆誠はほんの少し名残惜しさを覚える。可愛い監視役が離れたことで、胸の奥が妙に静かになった。
だが次の瞬間には、隆誠は迷いなく『仮面の狩人』の衣装へと着替えていた。
黒い外套が風を裂き、仮面が視界を覆う。街の闇に溶けるように姿を消し、勝利して調子に乗っている
瓦礫の影から影へ。悲鳴と怒号が混じる夜のオラリオを、『仮面の狩人』は静かに駆け抜けた。
「ギャアァァァァッッ!」
断末魔が夜気を裂いた。隆誠――『仮面の狩人』は、いつも通り一撃で信者を沈めると、倒れた影の中へ滑り込むように姿を消した。冒険者達が駆け付ける前に痕跡を残さないのは、もはや身体に染み付いた習慣だった。
(相も変わらず数だけはいるな。だとしても……一体どれだけ湧いて出てくるんだ?)
この数ヵ月で自らの手に掛けた信者は、ディース姉妹を含めて千人を優に超える。
殺してはいないとはいえ、戦闘不能にした数としては尋常ではない。【アストレア・ファミリア】や他の冒険者達が討伐した数を合わせれば、
(末端とはいえ、こうまで無尽蔵に湧くのは異常だ。どこかで補充しているとしか思えない)
隆誠は二日前の抗争を思い返す。あの時、オラリオ全土を巻き込むほどの数が集結していた。内部だけであれほどの兵力を維持できるとは到底思えない。
(もしかしたら……オラリオ外で布教活動でもして、信者を増やしているのかもしれないな)
そう考えれば、異様なまでの物量にも説明が付く。
外部で新たな信者を育て、武器を与え、洗脳し、オラリオへ送り込む。もしそれが事実なら、今まで倒してきた数など氷山の一角に過ぎない。
(だとしても俺のやる事は変わらないが、な)
大本である
だが、それを自分がやるわけにはいかない。あくまで
そう言い聞かせながら、再び行動を開始しようとしたその瞬間。
「見付けたぞ」
「!」
背後から掛けられた声に、隆誠は即座に足を止めて振り向く。
漆黒の全身鎧を纏い、マントを羽織った筋骨隆々の大男が、地面を踏みしめるたびに重圧を撒き散らしながら近付いてくる。兜は外されており、
(コイツ、まさか……!)
隆誠は仮面越しに眼を細める。目の前の大男から溢れるオーラは、以前対峙したアルフィアに匹敵する濃度――つまり『Lv.7』の冒険者。
「何者だ?」
「【
大男――ザルドは名乗りながら足を止めた。
「ゼウスの眷族……そう言えば分かるか?」
「ほう……」
【ヘラ・ファミリア】に続き、【ゼウス・ファミリア】の英雄まで現れたことに、隆誠は興味深そうに目を細める。
ザルドの名はアルフィアと同様に知っている。普段は寡黙なオッタルが、無意識に熱く語ってしまうほどの武人。
その人物と対面したことで、隆誠は理解した。あの
「アルフィアから話を聞いている。俺と遊んでもらおうか――『仮面の狩人』」
「……良いだろう」
向こうから会いに来てくれたのは、隆誠にとって僥倖だった。
自身の敵ではないにしても、根っからの武人を相手にするのは悪くない。少しは楽しませてくれるかもしれないと、そんな期待が胸に灯る。
加えて、周囲に人影は一切無い。戦闘が始まって大きな音がすれば冒険者達が駆け付けてくるかもしれないが、その前に片を付ければ良い。
隆誠は静かに構えを取った。ザルドは獰猛な笑みを浮かべ、ゆっくりと拳を握りしめる。
闇の中、二つの怪物が対峙した。
☆
アーディが隆誠と別れた後、リューと共に街路を歩いていた。その道すがら、アーディは先ほど隆誠から聞いた『正義』の話を思い返していた。
その後、アーディはふと思い出したように声を弾ませた。
「そうそうリオン、リューセーさんって凄い料理上手なんだね」
「……何故突然、あの男の事を言うのですか?」
隆誠の名が出た瞬間、リューの表情が一気に苦々しくなる。
アストレアやアリーゼ達が頭を抱えるほど、彼女は隆誠に対して一切気を許していない。刺々しい態度を取るのは日常茶飯事だが、当の本人はまるで気にしておらず、軽く流してしまう。
「リオンと会う前に、お手製のスイーツを御馳走してもらったの」
「なっ……!」
リューは絶句した。いつも自分達に厳しい修行を課し、その後でしかスイーツを作らない男が、他派閥の女性に無償でスイーツを振る舞ったという事実に。
現在の【アストレア・ファミリア】の食事は、ほぼ隆誠が仕切っている。反発が起きてもおかしくないのだが、彼の料理は自分達が作るものより遥かに美味しいため、誰一人文句を言えない。
更には修行後に用意されるスイーツは絶品で、ファミリアの面々は完全に虜になっている。
だが隆誠はアーディにだけ、修行もしていないのにスイーツを御馳走した。その事実が、リューの胸に強烈な不満を生む。
(あの男……いくら何でも贔屓が過ぎるぞ……!)
アリーゼ達がどれほど強請っても、隆誠は『修行を終えてからだ』と譲らなかった。それなのに、アーディにはあっさりとスイーツを出した。その差別的とも言える扱いに、リューは憤慨していた。
「リューセーさんって本当に優しいよね」
「優しい……? あの男が……?」
リューは眉間に皺を寄せ、信じられないという顔をする。
(優しい? どこがだ……! あの男はいつも私達に無茶な修行を押し付けて……! それなのに、アーディには甘い顔をするなど……!)
胸の奥で言いようのないモヤモヤが膨らんでいく。それが嫉妬なのか、怒りなのか、警戒なのか、彼女自身にも分からない。
取り敢えずはこの後に
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