別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
ザルドの忠告を守ろうと考えた隆誠は、一度小さく息を吐くと、近くに置かれていた椅子へ腰を下ろした。
とは言え、未来について何もかも話す訳にはいかない。特にフレイヤがベルを見初めた件や、その先に待つ様々な出会いについては伏せる必要があった。
目の前の女性はベル・クラネルが関わる話になると途端に冷静さを失う。余計な情報を与えれば未来そのものに干渉しかねない。
だからこそ隆誠は話す内容を選びながら、ベルの未来について語っていった。
未来から来た【フレイヤ・ファミリア】の元眷族である彼が、ベルと関わるのは無理があると思われるだろう。何しろその派閥の眷族達は他派閥の眷族など一切興味が無く、主神フレイヤにしか関心が無いのだから。
けれど、隆誠だけは全く別だった。初めてベルの存在を知ったのは、彼が冒険者になって一ヵ月半で『Lv.2』へランクアップした時だ。
当時はただ驚いただけだった。新人冒険者が僅か一ヵ月半で第二級冒険者となる。そんな話を聞けば、流石に誰だって興味を抱くだろう。
そして実際に興味を持った結果、ベル・クラネルという少年は次から次へと騒動へ巻き込まれていく事を知る。
いや、巻き込まれていくと言うべきか、それとも自ら飛び込んでいくと言うべきか。とにかく波乱万丈な冒険譚が、そこにはあった。
次に起きた【アポロン・ファミリア】との出来事を語っている途中――
「待て、此処が崩壊するとはどう言う事だ?」
不意にアルフィアが話を遮った。
その視線は隆誠ではなく、長年放置され続けている廃教会へ向けられている。
「言い忘れてたが、この廃教会は七年後にベルが冒険者として活動する
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間――
「―――今の内に奴等を潰しておくか」
アルフィアが全身から凄まじい
教会内の空気が一気に重くなる。まるで嵐の前触れのような圧力だった。
(え? あれ? 俺、何か不味いこと言った?)
仮面で表情が見えない隆誠だが、内心では非常に焦っていた。
彼は知らない。この廃教会がアルフィアにとって非常に思い入れのある大切な場所である事を。
妹であるメーテリアと共に過ごし、そしてベルが生まれた場所。彼女にとって数少ない幸福な記憶が残されている場所だった。そんな場所が壊されると聞けば、怒りを覚えるのも当然だった。
因みに彼女が消そうとしている【アポロン・ファミリア】は現在の暗黒期に存在しない。彼等がオラリオへやって来るのはその後なので、先んじて潰すのは不可能だった。
「意気込んでるところ悪いが、ソイツ等はまだオラリオで活動してないぞ」
「…………続けろ」
【アポロン・ファミリア】がいないと分かった途端、非常に不愉快そうな表情になりながらも、隆誠に話の続きを催促した。
標的が存在しない以上、怒りをぶつける事も出来ない。アルフィアとしては実に面白くない話だった。
アルフィアが手を下さずとも、ベルが彼等との
「おい、何故今度は【イシュタル・ファミリア】が関わっている?」
どうやら【アポロン・ファミリア】との一件よりも、こちらの方が気になったらしい。
僅かに眉を顰めたアルフィアの声音には、不快感が滲んでいた。
「女神イシュタルがベルを捕らえたって情報が入ってな。俺としては流石に見過ごせなかったから、フレイヤに進言した結果、【イシュタル・ファミリア】を潰す事になった」
本当はフレイヤが本気でイシュタルを潰そうと動いたという流れなのだが、そこを隆誠があたかも潰したように話した。
「先に言っておくが、歓楽街を潰すなよ?」
「何故だ?」
「いや、何故って……」
絶対先んじて歓楽街を潰そうと考えていたであろうアルフィアに釘を刺すも、逆に彼女は疑問を抱いていた。
「そんなの私の知った事ではない。あの子の害悪になるのであれば、早々に潰しておくに越した事は無い」
アルフィアは迷う事なく言い切った。
オラリオの治安がどうなろうと、他の冒険者達がどうなろうと、彼女にとっては優先する理由にならない。その全てよりもベル・クラネルの方が重要だった。
「だから止めろと言ってるんだよ」
隆誠はアルフィアに余計な事をしないよう釘を刺したのだが、当の本人は全く聞く耳を持たない状態だった。
これでは話にならない。この先もベルの話を続ければ、その度に余計な事を考えかねなかった。
実際、先程から彼女の口から出る言葉は『潰す』ばかりである。
ザルドが余計な事を話すなと忠告した理由が、隆誠にも少しずつ分かってきていた。
「アルフィア」
隆誠の声音が僅かに変わる。
その変化に気付いたのか、アルフィアも僅かに目を細めた。
「貴女がベル・クラネルの身内だからこそ、俺はこうして話している」
そして次の瞬間、教会内の空気が張り詰めた。
「未来に干渉する行動を取るのであれば、俺は今この場で貴女を始末せざるを得ないのだが?」
言葉と共に放たれた殺気に、アルフィアの表情が強張る。
それは脅しではなかった。目の前の男が本気で言っている事を、彼女も理解したからだ。
もし自分が未来へ干渉しようとすれば、本当に殺す気なのだろう。
「………………………………………ちっ」
不本意でありながらも隆誠が脅しをした事で、アルフィアは忌々しそうな表情をしながら舌打ちをした。
彼女としては無視したいところだが、目の前にいる相手は自分以上の実力者である他、途轍もない殺気をぶつけられた事で諦めざるを得なかったのだ。
それに何より、今この場で争う理由も無い。ベルの未来を聞くという目的が残っている以上、余計な衝突は避けるべきだった。
アルフィアが諦めたのを分かった隆誠は、内心で安堵する。
しかし同時に、これ以上話を続けるべきではないとも思った。ベルの未来を話す度に、彼女は何かを消そうと考える。
このままでは本当に未来へ介入しかねない。そうなれば話した意味が無くなってしまう。いや、それどころか未来そのものが変質する可能性すらあった。
だからこそ隆誠は、ここで話を終える事にした。
「本当は彼の冒険譚はまだあるが、ここまでにしておこう」
「待て」
即座にアルフィアが反応する。
「私は全て話せと言った筈だ」
「無理だな。貴女が先程から『潰す』と物騒な事を考えるから、これ以上聞かせないほうが良いと判断させてもらった」
そう言いながら隆誠は椅子から立ち上がった。
「貴様……!」
アルフィアの声音には明らかな苛立ちが混じっていた。
ここまで聞かされて続きがあると言われれば気になるのは当然である。益してその内容が、自分の知らない甥の未来なのだから尚更だった。
しかし隆誠は構わず出口へ向かう。本当なら魔法を使って足を止めたいアルフィアだが、それをやっても無駄である事を悟っていた。
仮に止めたところで、目の前の男が続きを話してくれる保証は何処にも無い。それどころか、本当に帰ってしまう可能性の方が高かった。
何より先程の殺気が脳裏から離れない。無理矢理聞き出そうとしたところで、状況が悪化するだけだろう。
だからこそ彼女は拳を握り締めながら、その背中を睨み付ける事しか出来なかった。
一方で、そんな視線を向けられている隆誠は内心で溜息を吐く。
(やっぱりザルドの言う通りだったな……)
ベルの身内だからと気を利かせた結果がこれだ。この先の話まで聞かせれば、一体何をしでかすか分かったものではない。
少なくとも今の彼には、それを教える気にはなれなかった。
そうして隆誠はアルフィアの視線を背中に受けながら、静かに廃教会を後にするのだった。
物騒な事を言うアルフィアに話を中断するリューセーでした。
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