藤崎詩織(中身オッサン)、平穏な独身ライフ所望します! ~伝説の樹の下で告白されても困るんですが!?~ 作:月影 流詩亜
あの忌まわしき休日強制連行イベントと、早乙女好雄からの爆弾投下(「本命は誰だ? 」発言)から数週間。
俺、藤崎詩織(中身・山田一郎45歳、最近の口癖は「やれやれだぜ」)の心労は、もはや限界点を突破し、常に胃のあたりに鈍い痛みを抱えるようになっていた。
若いって素晴らしい、なんて誰が言ったんだ。
この若すぎる肉体と、それに付随する面倒くさすぎる人間関係は、俺の精神を日々ゴリゴリと削り取っていく。
そんな俺の傷だらけの心に、追い打ちをかけるように新たな大型イベントが迫っていた。
そう、高校生活の華(と世間一般では言われているらしい)、修学旅行だ。
行き先は、古都・京都と奈良。
「(修学旅行ねぇ…寺社仏閣巡りとか、正直あんまり興味ねえんだよな……
それより、京都の美味い地酒が飲める渋い居酒屋とか、奈良漬けで一杯やれる小料理屋とか、そういう方がよっぽど魅力的だが…まあ、この身体じゃ酒は飲めねえし、そもそも自由行動なんて許されるはずもねえか……)」
出発数日前、教室では修学旅行の班決めが行われていた。 俺の願いはただ一つ。
「どうか、どうか俺を一人にしてくれ!
せめて、一番目立たない、空気のようなメンバー構成の班に入れてくれ! 」と。
しかし、そんな俺の切実な祈りが神に届くはずもなく、俺、藤崎詩織の所属する班は、クラス中の注目を浴びるある意味「ドリームチーム(俺にとっては悪夢チーム)」と化してしまった。
班長に立候補したのは、もちろんあの爽やか迷惑野郎、御門武史。
そして、その御門の「詩織も同じ班がいいな!」という鶴の一声(という名の無邪気な爆弾発言)で、俺の逃げ場は完全に塞がれた。
さらに、他のクラスの虹野沙希、古式ゆかり、そしてなぜか鏡魅羅までもが、
「わたくしたちも藤崎さん(様)とご一緒したいですわ! 」
と手を挙げ、あっという間に俺を中心とした(迷惑千万な)豪華メンバーが勢揃いしてしまったのだ。
「(終わった…俺の修学旅行、始まる前から終わった…!
このメンバーで三日間も行動を共にするとか、胃に穴が開くどころか、胃そのものが消滅するかもしれん…! )」
案の定、班が決まった瞬間から俺の胃痛は悪化の一途を辿り、もはや市販の胃薬では焼け石に水状態だった。
そして、修学旅行出発の前々日。ピンポーン、と我が家(藤崎家)のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、そこには虹野、古式、鏡の三人が、それぞれ旅行用のバッグやガイドブックを手に、ニコニコと立っていた。
「藤崎(さん/様)、お邪魔しますわ! 」
「(え…? なんでお前らがここに…?
まさかとは思うが…)」
嫌な予感は的中する。彼女たちは、
「修学旅行の最終打ち合わせと、持ち物の確認を一緒にしましょう! 」
という、もっともらしい口実で我が家に上がり込んできたのだ。
もちろん、藤崎詩織の母親は、
「まあ、詩織のお友達がいっぱい!
ゆっくりしていってね!」
と大歓迎ムード。 俺の逃げ場は、ここにもなかった。
俺の部屋(藤崎詩織の趣味で統一された、どこまでもファンシーで女子らしい部屋)に通された三人は、キャッキャウフフと修学旅行のしおりを広げ、自由時間の行動計画を練り始めた。
俺は、そんな女子たちの姦しい会話をBGMに、ただひたすら壁のシミでも数えて現実逃避を図る。
「やっぱり清水寺は外せないわよね! 」
「金閣寺も見てみたいですわ! 」
「フン、どうせならもっとこう、スリリングな場所はないのかしらね」
そんな他愛のない会話が一段落した頃、ついに恐れていた話題が切り出された。
「ねえ、藤崎さん……」
虹野が、少し顔を赤らめながら、遠慮がちに俺に問いかける。
「御門くんと一緒の班になれて…その…嬉しい……? 」
「(キタアアアアアアアア!
始まったあああああ!
女子トークという名の公開拷問がああああああ! )」
俺は内心で絶叫しつつ、顔には完璧な「あらやだ、そんなこと聞いちゃうの? 」的な微笑みを貼り付ける。
「そうですね…御門君は、とても頼りになりますし、ご一緒できて心強いですわ(棒読み)」
「まあ! 藤崎様も、やはり御門様のこと、まんざらでもないご様子ですのね! 」
古式が、純粋な好奇心で目を輝かせる。
「フン、あんたも隅に置けないわね、藤崎さん。あの朴念仁の御門を、どうやって手玉に取るつもりかしら? 」
鏡は、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて俺をからかう。
「(手玉に取るも何も、こっちは全力で逃げ回ってるんだよ!
頼むから俺を巻き込むな!
俺はただ静かに壁のシミを数えていたいんだ! )」
しかし、完璧超人の藤崎詩織としては、ここで無言を貫くわけにもいかない。
俺は、当たり障りのない、しかしなぜか深読みされそうな絶妙なコメントをひねり出すしかなかった。
「御門君の…そうですね、彼の良いところは、やはり何事にも真摯に取り組む、その誠実なところかしら(当たり障りなさすぎて逆に怪しいコメントNo.1)」
「まあ! 藤崎様は御門様のそんなところがお好きなのですね!」(古式、なぜか納得)
「誠実、ねえ…フン、男なんて、最初はみんなそんなものよ」(鏡、なぜか達観)
「藤崎さんは…御門くんのこと、本当に…その…特別な目で見てるの…? 」(虹野、核心に迫る質問)
「(うわあああ! 勘弁してくれ!
俺はそういう甘酸っぱい話より、週末の重賞レースの展開予想とか、ひいきのプロ野球チームの来シーズンの補強ポイントとか、そういう話をしたいんだよおおお! )」
「恋とは…いつだって、難しいものですわね…(遠い目&オッサン的実感)」
俺が絞り出した、もはや苦し紛れとしか言いようのないセリフに、なぜかヒロインたちは、
「そうよね…」
「本当にそうですわ…」
「フン、あんたにしては良いこと言うじゃない…」
と、それぞれの解釈で深く頷き、共感し合っている。…もう、女子の思考回路はブラックボックスだ。
恋バナという名の拷問タイムが一段落すると、今度は話題が修学旅行の持ち物へと移った。
これはこれで、俺にとっては別の意味での地雷原だった。
「藤崎(さん/様)は、どんなパジャマを持っていくの? 」
「下着とか、何枚くらい用意するのかしら? 」
「化粧品とか、何かおすすめとかある? 」
「(知るかああああ!
俺は今までトランクス一丁で寝てたし、化粧なんてしたことねえわ !
おすすめの化粧品? そんなもん、カミソリ負けに効くアフターシェーブローションくらいしか知らねえよ! )」
そんな俺の内心の叫びを知る由もなく、ヒロインたちは「ちょっと詩織(さん/様)のクローゼット、見せてもらってもいいかしら? 」なんて、恐ろしいことを言い始めた。
「(やめろおおおおお!
そこには、俺がこっそり隠した競馬新聞の切り抜きとか!
脳内晩酌用に集めたワンカップの空き瓶(洗ってある)とか!
夜食用に買い置きしたスルメの袋とか!
週刊誌の競艇記事のスクラップとか!
そういう、藤崎詩織のイメージとはかけ離れた、オッサン丸出しのブツが隠されてるんだよおおお!)」
俺は必死で、
「あ、あら、わたくしの部屋なんて、お見せするほどのものは何も…」
「そ、それより、お茶でも淹れましょうか?
美味しいお菓子もありますのよ?」
などと話題を逸らそうとするが、好奇心旺盛な女子高生たちの勢いは止められない。
「わあ、詩織ちゃんの部屋、可愛いー! 」
「このぬいぐるみ、すごく肌触りがいいですわ! 」
「へえ、意外とシンプルな本棚なのね…あ、この奥にあるのは何かしら? 」
鏡が、本棚の奥に突っ込んであった、俺の「虎の子」である競馬専門誌の束(の切れ端)に手を伸ばそうとする。
「(うわああああ! それだけは!
それだけは見られたらまずい!
藤崎詩織が競馬新聞読んでるとか、イメージ崩壊どころの騒ぎじゃねえぞ! )」
俺は
「あーっ! そういえば、修学旅行のお小遣い、銀行から下ろしてくるのを忘れてましたわ!
ちょっと今から行ってまいります! 」
と、我ながら無理のある言い訳で部屋を飛び出し難を逃れようとした。
「あら、藤崎様、大丈夫ですの?
わたくしがお供しましょうか?」と心配する古式。
「え、今から? もう夕方だよ? 」と怪訝な顔をする虹野。
「フン、何か隠してるわね、あんた」と全てを見透かしたような目で俺を見る鏡。
結局、その場はなんとか誤魔化しきった(と思いたい)ものの、俺の精神的疲労はピークに達していた。
ヒロインたちが帰り、一人になった部屋で、俺はベッドに大の字になって天井を仰いだ。
「(ああ…修学旅行、本番前からこんなに疲れるなんて…本番が始まったら、俺の身体と精神は一体どうなっちまうんだ…? )」
班行動での気苦労、夜の部屋での枕投げ(という名の戦場)、そして間違いなく再燃するであろう恋バナ地獄…。考えただけで胃が縮み上がりそうだ。
「(どうか無事に、平穏に三日間が過ぎますように…そして、これ以上面倒なフラグが立ちませんように…南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…! )」
柄にもなく、心の中で仏様に祈りを捧げる俺。
出発の前日、俺の脳内では、なぜかあの有名なCMソングが繰り返し流れていた。
「そうだ 京都、行こう(ただし、絶対に、一人でな…!)」
俺の切実な願いは、果たして古都の神々に届くのだろうか……
ヒロインズ、この組み合わせの行動は意外ですよね(苦笑)
流石に全ヒロインを出せないので私の好きなメンバーを選びました。