藤崎詩織(中身オッサン)、平穏な独身ライフ所望します! ~伝説の樹の下で告白されても困るんですが!?~   作:月影 流詩亜

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第十二話:修学旅行夜話~枕投げ無双とオッサンのSAN値直葬~

 

古都・京都での一日目は、俺、藤崎詩織(中身・山田一郎45歳、もはや精神年齢は実年齢を遥かに超越し仙人の域に達しつつある)にとって、まさに筆舌に尽くしがたい苦行の連続だった。

 

清水の舞台から突き落とされたい衝動に駆られ、金閣寺の輝きに目が眩み(物理的にも精神的にも)、抹茶パフェの甘さに胃もたれし、そして何より、あのリア充ども(主に御門とヒロインたち)との強制的な集団行動に、俺の体力と気力は根こそぎ奪い去られた。

 

ようやく辿り着いた今夜の宿、老舗旅館「きらめき荘」(ネーミングセンスはどうなんだそれは)。広々とした畳の大広間でいただく夕食は、見た目にも美しい懐石料理だった。

 

「わあ、綺麗なお料理! 」

 

「一つ一つが芸術品のようですわ! 」

 

「フン、まあ悪くないんじゃない」

 

ヒロインたちは、色とりどりの小鉢や焼き物、お造りなんかに目を輝かせている。だが、俺の心は少しもときめかない。

 

「(うーん…上品すぎて味がよく分からん…というか、量が少ねえ! これじゃあ、腹の足しにもならねえよ…もっとこう、ドカンと盛られた豚の角煮とか、山盛りの唐揚げとか、そういうガツンとくる味が欲しいんだがな…これじゃあ、日本酒(もちろん飲めない)も進まねえぜ…)」

 

俺の箸がなかなか進まないのを見て、隣に座っていた虹野沙希が心配そうに声をかけてきた。

 

「藤崎さん、どうしたの?

あんまり食欲ないみたいだけど…もしかして、疲れちゃった? 」

 

「(ああ、疲れたよ!心底な! お前らのせいでな!)…いえ、虹野さん。 あまりの素晴らしいお料理に、どこから手をつけてよいものか、少々戸惑っておりましたの。

わたくし、このような格式高いお食事は慣れておりませんもので…おほほ……」

 

我ながら白々しい言い訳だ。しかし、この場では藤崎詩織らしい優雅さを保たねばならない。

すると、古式ゆかりが

 

「まあ、藤崎様でも緊張なさることがおありなのですね。なんだか可愛らしいですわ」なんて、またもや盛大な勘違いをしてくれる。…もう、好きにしてくれ。

 

食事が終わり、それぞれの部屋へ戻る。

もちろん、俺はヒロインたちと同じ大部屋だ。

布団が敷かれ、浴衣に着替えた女子たちが、キャッキャウフフと盛り上がっている。

俺だけが、部屋の隅っこで「(ああ…早く寝たい…明日の奈良公園では、鹿せんべいを食い尽くす鹿の大群に追いかけ回される悪夢でも見そうだ…)」と、一人遠い目をしていた。

そんな俺のささやかな願いを打ち砕くかのように、誰かが(つぶや)いた。

 

「ねえ、みんなで枕投げしない!? 」

 

「(出たああああ! 修学旅行の夜の定番イベント!

子供の遊びに付き合ってられるか!

俺はもう、(まぶた)がくっつきそうだぞ! )」

 

俺は即座に自分の布団に潜り込み、狸寝入りを決め込もうとした。

しかし、そんな俺の抵抗も虚しく、虹野と古式、そしてなぜか鏡魅羅までもが俺の布団に群がり、

 

「藤崎(さん/様)も一緒に遊びましょうよー!」

 

「逃がしませんわよ!」と、俺を布団から引きずり出しやがった。

 

「(おいおいおい! 俺は病人(精神的に)なんだぞ! もっと労われよ、若者どもが! )」

 

半ば無理やり戦場(枕投げ会場)へと引きずり出された俺。

部屋の中は、すでに枕が宙を舞い、女子たちの黄色い悲鳴と笑い声が飛び交うカオスな状態と化していた。

 

「(くそっ…こうなったら、やってやるぜ…!

なめるなよ、ガキども!

年季が違うんだよ、年季が! )」

 

俺の中の、前世で培った(主に職場の飲み会の二次会のカラオケバトルとかで)負けず嫌いなオッサン魂に、メラメラと火がついた。

 

まず、俺は自分の枕と、近くに落ちていた予備の枕を確保。一つを盾にし、もう一つを攻撃用とする、攻防一体の完璧な布陣だ。

 

「藤崎さん、いくよー!」

 

虹野が、可愛らしい掛け声と共に枕を投げてくる。 フッ、甘いぜ嬢ちゃん。 そんな山なりの軌道、俺の動体視力にかかればスローモーションに見えるわ!

 

ヒラリ、と最小限の動きでそれをかわし、すかさず反撃の枕を叩き込む。狙うは、もちろん顔面だ(本気)。

 

「きゃあっ! 」

 

虹野の顔面にクリーンヒット。よし、まずは一人撃破。

 

「藤崎様、お覚悟! 」

 

古式が、お嬢様らしからぬ勇ましい掛け声と共に突撃してくる。だが、俺は冷静に布団を盾にしてその攻撃を受け止め、カウンターで足元に枕を叩きつけ、バランスを崩したところを畳み掛ける。

 

「お、お見事ですわ…藤崎様……」

 

古式、戦闘不能。

 

「フン、なかなかやるじゃない、藤崎さん。でも、わたくしには敵わないわよ! 」

 

鏡が、不敵な笑みを浮かべてトリッキーな動きで迫ってくる。しかし、俺は前世の経験(主に満員電車でのポジション取りとか)で鍛えた空間認識能力と、相手の動きを読む洞察力で、鏡の動きを先読み。 フェイントに引っかかることなく、的確に枕を叩き落とす。

 

「くっ…やるわね…! 」

 

鏡、一時撤退。

 

その後も、俺は「これは遊びじゃない、戦争だ!」というオッサン的闘争本能を全開にし、布団での鉄壁ガード、相手の死角からのスナイプ、時には

 

「おらおら、どうしたどうした! まだまだいけるだろ! 」

 

などとオッサン丸出しの挑発(もちろん心の声)を交えながら、次々とクラスメイトの女子たちを枕の餌食にしていった。

 

その様子を、隣の男子部屋から襖の隙間から覗いていた連中がいたらしく、

 

「おい、藤崎、容赦ねえな…! 」

 

「鬼神じゃねえか…! 」

 

「…だが、そこがいい! 」

 

などと、なぜか称賛の声が上がっていた。…解せぬ。

枕投げ大会がようやく終わり(俺の圧勝だった)、部屋中が羽毛と女子たちの屍(ぐったりしているだけ)で埋め尽くされた頃、ようやく入浴の時間となった。

 

大浴場。

 

湯気がもうもうと立ち込める中、女子たちが楽しそうに髪を洗ったり、湯船に浸かったりしている。俺は、できるだけ目立たないように、隅っこの洗い場でさっさと体を洗う。

 

「ねえねえ、藤崎さんって、どこのシャンプー使ってるの? すごくいい匂いがするよね! 」

 

「藤崎様のお肌って、どうしてそんなにツルツルなんですの? 何か特別なケアをなさってるんですか? 」

 

「藤崎さんって、スタイル維持のために何か運動とかしてるわけ? 」

 

周囲の女子たちから、美容に関する質問が雨あられと飛んでくる。

 

「(知るか! シャンプーなんて、そこらへんにあった適当なやつ使ってるだけだし、肌の手入れなんて化粧水ペッペって塗るくらいだわ!

スタイル維持? この身体は生まれつきこうなんだよ! 俺の努力じゃねえ! )

うへえ、女の世界ってのは、本当に大変なんだな…俺なんか、そこらへんの銭湯に置いてある固形石鹸一つで、頭のてっぺんから足の爪先までゴシゴシ洗えりゃ十分なんだがな…」

 

つい、心の声がダダ漏れしてしまった。

その瞬間、浴室内が一瞬静まり返る。

 

「(あ…やべっ…! またオッサン臭いこと言っちまった…! )」

 

しかし、女子たちの反応は、俺の予想とはまたしても斜め上を行くものだった。

 

「まあ! 藤崎さん、そんなシンプルなケアなのに、あんなに髪もお肌も綺麗なの!? すごい!

やっぱり素材がいいのね!」(虹野、なぜか感動)

 

「藤崎様は、わたくしたちのような凡人とは美の基準が違うのですね…その、無駄を削ぎ落とした究極のシンプルケアこそが、真の美しさへの道なのかもしれませんわ…」(古式、なぜか哲学的)

 

「フン、あんたみたいな女は、どうせ何もしなくても男が寄ってくるんでしょ。羨ましいわね」(鏡、なぜか(ひが)みっぽい)

 

…なんでそうなるんだよ!?

俺はただ、面倒くさがりなだけだっての!

 

風呂から上がり、浴衣に着替えて部屋に戻る。

すでに布団が敷かれ、消灯時間も近い。

やっと眠れる…そう思ったのも束の間だった。

部屋の電気が消え、真っ暗闇に包まれる。これでようやく安眠できる…はずだった。

 

「…ねえ、藤崎さん……」

 

隣の布団から、虹野の小さな声が聞こえてきた。

 

「(うわあ…まだ何かあんのかよ…もう勘弁してくれ…)」

 

「御門くんのこと…藤崎さんは、本当にどう思ってるの…? やっぱり、好きなの……? 」

 

「(キタアアアアア! 深夜の恋バナ!

修学旅行の夜の鉄板イベント!

だが、俺にとっては地獄の始まりだ! )」

 

俺は必死で眠いフリを決め込む。

しかし、そんな俺の抵抗も虚しく、今度は古式の声が聞こえてきた。

 

「藤崎様…わたくしも、お伺いしてもよろしいでしょうか…?

藤崎様にとって、御門様はどのような存在でいらっしゃるのですか…? 」

 

さらに、暗闇の向こうから鏡の声も。

 

「フン、あんたも朴念仁の御門に気があるクチなの? 見た目に寄らず、平凡な男が好みとはね」

 

「(うるせえええええ! 俺は寝たいんだよ!

御門のことなんてどうでもいいわ!

それより、明日の朝食バイキングで何食うかの方が重要なんだよ! )」

 

俺は内心で絶叫しながらも、かろうじて

 

「…御門君は、とても良いご友人ですわ……」

 

「…恋愛というのは、本当に難しいものですわね…」などと、のらりくらりと言葉を濁し続ける。

 

しかし、ヒロインたちの追及は止まらない。

しまいには、

 

「私…藤崎さんのこと、友達以上に…その…憧れてるんです…!」なんて、斜め上からの爆弾発言まで飛び出す始末。

 

「(やめてくれえええええ! 俺のSAN値が!

俺のSAN値がゴリゴリと削られていくううううう!

もう無理! 限界!

助けてくれえええええ!)」

 

疲労と精神的ダメージで、俺の意識はもはや朦朧(もうろう)としていた。

翌日の奈良公園では、きっと鹿の群れに追いかけ回され、鹿せんべいを強奪される悪夢を見るに違いない。

 

「(ああ…もう家に帰りたい…そして、誰にも邪魔されずに、一人で静かに眠りたい…)」

 

俺の切実な願いは、古都の夜空に虚しく響くだけだった。

 

 

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