藤崎詩織(中身オッサン)、平穏な独身ライフ所望します! ~伝説の樹の下で告白されても困るんですが!?~   作:月影 流詩亜

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第十三話:聖夜のプレッシャーとバレンタインの甘い地獄

 

あの地獄の修学旅行から数ヶ月。俺、藤崎詩織(中身・山田一郎45歳、最近ではもはや女子高生であることへの羞恥心よりも、日々の面倒事への諦観の方が勝っている)を取り巻く環境は、ますますカオスな様相を呈していた。

 

枕投げで無双しただの、夜な夜な恋バナで女子を泣かせただの(そんな事実は断じてない!)、根も葉もない噂が飛び交い、俺の「完璧超人」イメージは、もはや「規格外の何か」へと進化しつつあるようだ。…やれやれだぜ。

 

 

季節はすっかり冬。

 

街にはジングルベルの音楽が鳴り響き、ショーウィンドウは赤と緑のクリスマスカラーに染まっている。

 

いわゆる、リア充どもが浮かれ騒ぐシーズン到来ってやつだ。

 

「(クリスマスねぇ…どうせ俺には関係ねえイベントだ。 前世じゃあ、この時期は仕事がクソ忙…しくて、クリスマスイブもクリスマスも徹夜で残業だったしなぁ……

今年はまあ、この藤崎詩織の身体で、家で缶チューハイ(もちろん脳内)でも飲みながら、くだらないクリスマス特番でも見て過ごすのが関の山か……)」

 

そんな、どこまでもオッサン的で達観した(というか、()ねた)思考で、俺は聖夜を迎えようとしていた。

しかし、このきらめき高校という場所は、俺のささやかな平穏すら許してくれないらしい。

 

クリスマスイブの数日前から、俺の机の周りには、なぜかソワソワとした空気が漂い始めた。

特に、あの御門武史や虹野沙希、古式ゆかり、鏡魅羅といった面々が、やたらと俺の様子を窺っては、意味深な視線を送ってくる。

 

「(なんだよ、気持ち悪いな…まさかとは思うが…)」

 

嫌な予感は的中する。

 

クリスマスイブ当日、俺の下駄箱や机の中には、可愛らしいラッピングが施された小さな包みが、これでもかというほど詰め込まれていたのだ。

 

「詩織、これ、お前に似合うと思ってさ。 メリークリスマス!」(御門から。中身はキラキラした雪の結晶モチーフのネックレス)

 

「藤崎さん、これ、私が一生懸命編んだマフラーなの! よかったら使ってね! 」(虹野から。手編み感満載だが、なぜか異常に長いマフラー)

 

「藤崎様、ささやかではございますが、わたくしからのクリスマスの贈り物でございます。 お気に召すとよろしいのですが……」(古式から。高級そうなハンカチと、ポプリのセット)

 

「フン、別にアンタのために用意したわけじゃないけど…まあ、ついでよ、ついで! 」(鏡から。なぜか黒猫デザインの、少しハードなテイストのアクセサリー)

 

「(こんなもん、どうしろってんだよおおおお!

ネックレスなんて、首が凝るからつけたくねえし!

手編みのマフラーとか重すぎるだろ、しかもこれ、長さ的に二人羽織でもする気か!?

ハンカチはまあ使うかもしれんが、ポプリとか女子力高すぎて俺には扱いきれん!

黒猫のアクセサリー?

俺は別に猫好きじゃねえし、そもそもこれ、ゴスロリ系の趣味じゃねえか!? )」

 

内心で絶叫しながらも、俺は外面だけは完璧な「ありがとう、嬉しいわ」スマイルを貼り付け、大量のプレゼント(俺にとっては迷惑物)を受け取るしかなかった。

 

それより現金か商品券の方がよっぽど嬉しいんだが、なんて口が裂けても言えねえ。

さらに追い打ちをかけるように、放課後にはクラス主催のクリスマスパーティーが開催されることになっていた。もちろん俺は、全力で参加を拒否するつもりだった。

 

「(パーティーだあ? 面倒くせえ!

俺は早く帰って、スーパーで半額になったローストチキンでも買って、一人寂しく(しかし気楽に)クリスマス気分を味わいたいんだよ! )」

 

しかし、クラス委員長の田中(あの真面目メガネ)やパーティーの実行委員になった虹野たちに、

 

「藤崎さん(詩織ちゃん)がいないと始まらないよー!」

 

「お願いだから参加してー!」

 

と泣きつかれ、結局強制参加させられる羽目に。

パーティー会場と化した教室は、手作りの装飾で飾り付けられ、生徒たちの持ち寄ったお菓子やジュースが並べられている。

 

まあ、高校生らしい微笑ましい光景だ……俺がいなければ、だがな。

 

出し物と称して、有志の生徒たちが歌を歌ったり、ダンスを披露したりしている。

俺はひたすら壁の花と化し、存在感を消すことに全力を注いでいた。

しかし、そんな俺の努力も虚しく、なぜかビンゴ大会で、一番豪華な景品である「有名テーマパークペアチケット」を引き当ててしまったのだ。

 

「うおおおお! 藤崎さん、大当たりー! 」

 

「さすが詩織ちゃん、持ってるねー!」

 

「ねえねえ、誰と行くのー? やっぱり御門君?」

 

クラス中から(はや)し立てられ、顔を引きつらせる俺。

 

「(誰とも行かねえよ!

こんなもん、金券ショップにでも売り飛ばして、その金で美味い酒でも…あ、飲めねえんだった…じゃあ、高級なカニ缶でも買ってやるわ! )」

 

そんなこんなで、俺のクリスマスイブは、精神的疲労困憊のまま幕を閉じたのだった。

そして、年が明け、あっという間にやってきたのが、二月十四日。そう、バレンタインデーだ。

 

「(ふむ、今日は女子どもが色めき立つ日か……まあ、俺には関係ねえな。

平和な一日になりそうだぜ……)」

 

オッサンである俺にとって、バレンタインデーなど、製菓業界の陰謀が生んだ、ただの商業イベントに過ぎない。

むしろ、職場で義理チョコを配らなきゃいけない女性社員たちの苦労を思うと、少し同情すら覚える。

 

そんな他人事気分で、俺はいつものようにきらめき高校の校門をくぐった。そして、自分の下駄箱を開けた瞬間、俺は我が目を疑った。

 

ドサドサドサッ!!!

 

「な…なんだこりゃああああああああ!? 」

 

俺の下駄箱からは、色とりどりの可愛らしい包みや、ハート型の箱に入ったチョコレートが、まるで決壊したダムの水のように溢れ出し、雪崩を起こしていたのだ。

 

手紙が添えられたもの、高級ブランドのロゴが入ったもの、明らかに手作り感満載のもの…その量たるや、尋常ではない。

 

「(おいおいおい…これ、全部俺宛てかよ…?

新手の嫌がらせか何かか…?

それとも、俺の知らない間に、藤崎詩織は何か悪い宗教でも開いていたのか…? )」

 

あまりの光景に呆然としながらも、とりあえず散らばったチョコレートをかき集め、カバンに詰め込めるだけ詰め込んで(それでも全く入りきらない)、俺は自分の教室へと向かった。

 

そして、教室の自分の席を見て、俺は再び絶句することになる。

俺の机の上は、もはやチョコレートの祭壇、あるいはバベルの塔もかくやという状態だった。

下駄箱に入りきらなかった分が、全てここに集結しているらしい。その量たるや、もはや個人で消費できる限界を遥かに超えている。

 

「(甘い! 甘すぎる!

視覚的にも嗅覚的にも、そして精神的にも甘すぎるわ!

こんなもん全部食ったら、確実に糖尿病になって早死にするぞ!

俺はもっと、しょっぱいものが食いたいんだ! 柿の種とか! スルメとか! あるいは、塩辛で一杯…! )」

 

贈り主は、もはや特定するのも面倒くさいほど多岐にわたっていた。

御門武史

(「詩織、いつもありがとうな」という爽やかメッセージ付き)

 

虹野沙希

(「藤崎さんのために、心を込めて作りました! 」という、いかにも手作り感満載の、少し形が歪なチョコレート)

 

古式ゆかり

(「藤崎様に、わたくしの感謝の気持ちをお届けしとうございます」という、老舗和菓子屋もかくやという美麗な箱に入った高級抹茶トリュフ)

 

鏡魅羅

(「フン、勘違いしないでよね。これはただの義理よ、義理! 」というツンデレコメントと共に、なぜかビターでスパイシーな大人向けのチョコレート)

 

 

それだけではない。クラスの友人女子たちから、部活動の後輩たちから、果ては他校の生徒(俺の『リーマン哀歌』のファンや、文化祭の『森の賢者』の演技に感動したという演劇マニアなど)からも、大量のチョコレートが届けられていたのだ。

 

もはや、一種の社会現象と言っても過言ではないだろう。…俺にとっては、ただの甘味テロだがな。

周囲の生徒たちの、羨望やら嫉妬やら好奇やらが入り混じった視線が、俺の背中にグサグサと突き刺さる。

嬉しい悲鳴とは程遠い、本物の悲鳴を上げそうになるのを、俺は必死で堪えた。

 

「(これはもはや…テロだ…!

甘味による、俺の平穏な日常への無差別テロだ…! )」

 

大量のチョコレートの山を前に、俺は途方に暮れる。 これをどう処理しろってんだ?

一人で食べきれるわけがねえ。 誰かに配る?

いや、それもまた別の面倒事を生みそうだ。

 

「(いっそのこと、全部溶かして巨大なチョコレート風呂でも作って、その中で溺死してやろうか…いや、それはそれで後始末が大変そうだな…)」

 

そんな現実逃避的な妄想に耽っていると、ふと、ある恐ろしい可能性に思い至った。

バレンタインデーにこれだけのチョコレートをもらったということは…つまり、一ヶ月後には、これら全てにお返しをしなければならないということではないか……?

 

「(ホワイトデー…だと……!? )」

 

その事実に気づいた瞬間、俺の全身から血の気が引いていくのを感じた。

金銭的な負担もさることながら、一人一人にお返しを選ぶ手間と、その精神的プレッシャーたるや、想像するだけで卒倒しそうだ。

 

俺の戦いは、まだ終わらない。

 

むしろ、これからさらに過酷な地獄が待ち受けていることを予感し、俺はチョコレートの甘い香りに包まれながら、ただただ戦慄するしかなかったのだった。

 

 

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