藤崎詩織(中身オッサン)、平穏な独身ライフ所望します! ~伝説の樹の下で告白されても困るんですが!?~   作:月影 流詩亜

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最終話:オッサン詩織の明日はどっちだ!?~そして伝説へ…?~

 

俺、藤崎詩織(中身・山田一郎45歳、もはや自分のアイデンティティがドブガイと一体化しそうなほど錯乱状態)が放った、渾身の、そして支離滅裂極まりない「きらめき市の用水路のドブガイの生態系を守る宣言」は、伝説の樹の下に集いし勇者たち(御門武史と愉快なヒロイン軍団)を、見事に沈黙させた。

 

春の麗らかな陽光が燦々と降り注ぐ中、そこだけがまるで時が止まったかのように、奇妙な静寂に包まれている。

皆、ポカーンとした顔で俺を見つめ、口をあんぐりと開けたまま固まっている。

無理もない。 俺だって、自分が何を言ったのか、半分くらい理解できていないのだから。

 

「(あ…れ…? ちょっと…静かすぎやしませんかね…? さすがに、いくらなんでもドン引きされたか…? いや、むしろ好都合か? これでようやく俺の平穏な日々が…? )」

 

そんな俺の淡い期待と、気まずい沈黙を破ったのは、全く予想外の方向から現れた、一人の男だった。

 

「いやー、藤崎さん、アンタ最高だよ!

今日の卒業生代表の答辞より、よっぽど感動したぜ! 」

 

どこからともなく、まるで忍者か情報屋のようにひょっこりと姿を現したのは、あの早乙女好雄だった。 彼は、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、俺に近づいてくる。

 

「きらめき市の用水路のドブガイの生態系保護、ねえ…いやあ、スケールがでかいんだか小さいんだかよく分からんが、とにかくアンタらしいぜ!

よし、俺も一口乗らせてくれよ!

ドブガイが絶滅の危機に瀕してるなんて情報、俺の情報網でも掴んでなかったからな!

これはスクープだぜ! 」

 

「(お…おい! 乗ってくんじゃねえよ、このお調子者が!

ただの苦し紛れのデタラメなんだよ、これは! )」

 

俺が内心でツッコミを入れる間もなく、好雄の軽薄な(しかし、この場においてはある種のカンフル剤となった)言葉が、固まっていた場の空気を少しだけ和ませた。

 

御門が困惑したような、それでいてどこか面白そうな表情で口を開く。

 

「し、詩織…その、ドブガイって…本気で言ってるのか……? 」

 

「(本気なわけねえだろ! 俺が本気で守りたいのは、俺の平穏な独身ライフだけだっつーの! )」

 

しかし、ここで「嘘です、ごめんなさい」なんて言えるはずもない。

俺は、もはや後に引けない状況に追い込まれていた。

 

「も、もちろんですわ!

ドブガイは、きらめき市の豊かな自然環境を象徴する、かけがえのない存在…それを守ることは、わたくしたちきらめき市民の、いえ、地球市民としての責務ですのよ! (キリッ)」

 

我ながら、何を言っているのかサッパリ分からんが、なぜか妙な説得力だけはある気がする。これも、文化祭の賢者役で培った演技力(という名のハッタリ)の賜物か。

 

俺のあまりにも真剣な(ように見える)表情と、力強い(ように聞こえる)言葉に、ヒロインたちは顔を見合わせ、そして、なぜか一人、また一人と、変な方向に納得し始めたのだ。

 

「…もう、藤崎さんったら、相変わらず突拍子もないこと言い出すんだから…でも、そういう真っ直ぐなところが、藤崎さんの魅力なのよね…」(虹野、なぜか頬を染める)

 

「藤崎様がそこまでおっしゃるのでしたら、わたくしも微力ながらご協力させていただきますわ。ドブガイの生態系保護、わたくしなりに勉強してみますわね」(古式、なぜか使命感に燃える)

 

「フン、くだらないわね…でも、まあ、あんたが本気でやるって言うなら、少しは付き合ってあげてもいいわよ。 退屈しのぎにはなりそうだし」(鏡、なぜか上から目線で協力姿勢)

 

「(え…? あれ…? なんか、変な方向にまとまりかけてないか…? まずいぞこれ! このままじゃ、俺は卒業後も、こいつらとドブガイとかいう意味不明な活動で、未来永劫関わり続ける羽目になるんじゃねえか!?

それだけは絶対に避けたい!)」

 

追い詰められた俺の脳裏に、最後の、そして最も危険な賭けが閃いた。

それは、もはやヤケクソ以外の何物でもない、オッサン的甲斐性(のつもり)を見せつけるという、荒唐無稽な作戦だった。

 

俺は、一度大きく深呼吸をし(もちろん、内心はパニック状態だ)、そして、伝説の樹の下に集いし全ての者たちに向かって、高らかに、そして半ば投げやりに宣言した。

 

「ああもう! わかった! わかったよ!

皆さんのその熱い想い、そしてドブガイへの熱い想い(そんなものは微塵もないが)、しかと受け止めましたわ! 」

 

「こうなったら、この藤崎詩織!

皆さんまとめて、面倒見てやりますわよ! 」

 

「(ど、どうだ! これで少しは引くか!?

こんな破れかぶれな女に、ついてくる奴なんていねえだろ! )」

 

「た、ただし! 条件がありますわ! 」

 

俺は畳み掛けるように、オッサンとしての最低限の権利を主張する。

 

「まず第一に! わたくしの晩酌(もちろん脳内)の時間は、絶対に邪魔しないこと!

これは譲れませんわ! 」

 

「第二に! 週末の競馬新聞(もちろんエア)の熟読と、プロ野球観戦(もちろん妄想)の時間は、神聖にして不可侵の領域と心得ること! 」

 

「第三に! 家事と生活費は、きっちり全員で分担すること! わたくし一人に負担を押し付けるなど言語道断ですわ! 」

 

「そして第四に! わたくしは朝が弱いので、むやみやたらに起こさないこと!

目覚まし時計より早く起こした者は、ドブガイの餌にしますわよ! 」

 

どうだ! これだけオッサン丸出しの、自己中心的で、横暴で、そして何よりも色気もへったくれもない条件を突きつけられれば、さすがのヒロインたちもドン引きして逃げ出すに違いない!

俺の平穏な独身ライフは、まだ諦めるには早いぜ!

 

しかし、俺のそんな浅はかな期待は、またしても裏切られることになる。

俺のあまりにもオッサン臭い(というか、もはやオッサンそのものの)条件提示に、ヒロインたちは一瞬、ポカーンとした顔で固まった。

 

「(晩酌…? 競馬新聞…? プロ野球観戦…? 家事分担…? 詩織さんって、意外と庶民的…っていうか、なんだかオヤジ臭いような…? )」

 

そんな困惑の表情が、彼女たちの顔に浮かんでいるのが見て取れる。よしよし、いいぞ、もっと引け! もっと幻滅しろ!

 

だが、次の瞬間、彼女たちの口から飛び出したのは、俺の予想を遥かに超える言葉だった。

 

「…ふふっ、藤崎様ったら、本当に面白い方ですわね!」

 

「なんだか、藤崎さんとなら、そういう生活もすごく楽しそうかも!」

 

「フン、まあ、それくらいの条件なら、別に構わないわよ。むしろ、あんたのそんなだらしない姿、ちょっと見てみたい気もするしね」

 

「(えええええええええええええ!?

なんでそうなるのおおおおおおおお!?

ドン引きするところだろ、そこはあああああああ!)」

 

俺の最後の賭けは、またしても盛大な誤解と、ヒロインたちの謎の包容力(あるいは諦観)によって、あっさりと打ち砕かれた。

御門武史に至っては、

 

「ははは! 詩織、お前、本当に面白いヤツだな! 俺、やっぱりお前のことが大好きだ!」

 

と、腹を抱えて笑いながら、なぜかさらに好感度を上げていやがる。…もう、こいつらの思考回路は、本当に理解不能だ。

 

こうして、俺の「平穏な独身ライフ」を賭けた最後の抵抗は、まさかの「全員まとめて面倒見ます宣言(ただし条件付き)」という、訳の分からない結末を迎えることになったのだった。

 

 

***

 

 

それから、数年の歳月が流れた。

 

結局、俺、藤崎詩織(中身・山田一郎)は、誰か一人と結ばれることもなく、かといって完全に一人になることもできず、あの伝説の樹の下で奇妙な約束を交わした御門や元ヒロインたちと、なんだかんだで腐れ縁のような関係を続けていた。

 

大学に進学しても(もちろん藤崎詩織のスペックで余裕だった)、なぜか同じ大学や近隣の大学を選んだ連中と、事あるごとに集まっては、相変わらず俺が振り回される騒動を巻き起こしている。

 

まあ、昔ほどではないにしろ、賑やかすぎる日常は相変わらずだ。

 

俺は、いまだに心のどこかで、あの「平穏な独身ライフ」を夢見ている。

 

人里離れた場所で、誰にも干渉されず、好きな時に好きなことをして過ごす…そんな日々を。

 

だが、時折、ふと思うのだ。

 

この、やかましくて、面倒くさくて、そしてどうしようもなく賑やかな日々も、まあ、たまには悪くねえか、と。

 

もちろん、心の底からそう思えるわけじゃねえ。どちらかというと、諦めに近い感情かもしれん。

 

「(やれやれだぜ…… でも、まあ、たまにはこういうのも悪くねえか…ただし! 酒が自由に飲めれば、文句なしに最高なんだがな!)」

 

夕焼け空を見上げながら、俺はそんなことを呟き、小さくため息をつく。

その表情は、少しだけ絆されたような、それでいてやっぱり疲れているような、なんとも複雑な色を浮かべていた。

 

そして現在。 俺の部屋(もちろん藤崎詩織名義の、そこそこ小綺麗なマンションの一室だ)では、なぜか元ヒロインたちが集まって、姦しい女子会(という名の近況報告会兼俺へのダメ出し会)を繰り広げている。

 

俺は、そんな彼女たちの騒がしさをBGMに部屋の隅っこでひっそりと、手作りの競馬新聞(もちろんエア馬券用)を広げ、ノンアルコールビール(最近はこれが結構イケる)を片手に、脳内でプロ野球中継を楽しんでいた。

これが、今の俺にとっての、ささやかな、そして唯一許された「平穏」なのだ。

 

「詩織(さん/様)! いつまでそんなもの見てるんですの! こちらにもいらっしゃいな!」

 

「そうだよ詩織ちゃん! 今日は新しいスイーツ持ってきたんだから!」

 

「フン、相変わらずね、あんたは」

 

遠くから、俺を呼ぶ声がする。

 

俺は小さく、本当に小さくため息をつき、そして、ほんの少しだけ口角を上げて呟いた。

 

「やれやれだぜ……どうやら、俺の戦いは…まだ、終わりそうにないな……! 」

 

その声は、部屋の喧騒にかき消され、誰の耳にも届かなかったかもしれない。

 

だが、俺の心の中では確かに、新たな戦いのゴングが鳴り響いていたのだった。

 

 

── 終 ──

 

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

いろいろ突っ込みどころ満載かと思いますが、これにて最終回となります。

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