藤崎詩織(中身オッサン)、平穏な独身ライフ所望します! ~伝説の樹の下で告白されても困るんですが!?~   作:月影 流詩亜

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第四話:初デートは回避不能! オッサン的感性が火に油を注ぐ

 

俺の書いた『リーマン哀歌 ~終電に揺られて~』とかいう、ただのオッサンポエムが、なぜか文芸界隈(主に校内の)で絶賛を浴びてからというもの、俺の周囲はさらに騒がしくなった。

 

特に面倒くさいのが、あの御門武史だ。あいつ、どうやら俺の詩の噂を本気で信じ込んでいるらしく、ことあるごとに…

 

「詩織の書いた詩、いつか読ませてほしいな」

なんて、キラキラした目で言ってくる。

 

「(読ませるわけねえだろ ! あれは俺の魂の叫び(主に社畜としての)であって、お前みたいなリア充に見せるもんじゃねえんだよ !)」

 

内心で全力で拒否しつつも、外面では

 

「ええ、いつか機会があれば…おほほ…」

 

なんて曖昧な返事を繰り返す日々。

そんなある日の放課後、ついに恐れていた事態が発生した。

 

「詩織、今度の日曜日、もしよかったら映画でも行かないか ?

実は、詩織が好きそうな映画を見つけてさ」

 

出たよ、デートのお誘いだ……

しかも「詩織が好きそうな映画」とか、勝手なこと言いやがって !

 

俺が好きなのは『仁義なき戦い』とか『ゴッドファーザー』だっつーの !

絶対にキラキラした青春恋愛映画とかだろ、どうせ。

 

「(断る ! 絶対に断る !

この前みたいに野暮用が…いや、待てよ、同じ手は通用しねえか…)」

 

俺は必死に頭を回転させ、オッサン的言い訳のストックを探る。

 

「ごめんなさい、御門君。

その日はちょっと…鍼灸院の予約が入っていて…最近、肩こりが酷くて…」

 

「え、詩織、肩こりなの? 大丈夫か?」

 

「(しまった! 女子高生が鍼灸院とか不自然すぎたか !?)」

 

「いえ、その、ちょっとした気功のようなものでして…健康維持のために…」

 

「へえ、詩織は健康にも気を使ってるんだな。偉いなあ」

 

「(なぜか感心された !?)」

 

その後も、「日曜日は町内会のドブ掃除の手伝いが…」「いや、年金事務所にちょっと確認したいことが…」「実は檀家になっているお寺の法要が…」などと、苦し紛れの言い訳を繰り出すも、御門は「そっか、詩織は色々忙しいんだな…じゃあ、その次の週は ?」と、まったくめげない。

 

こいつ、主人公補正で諦めるという概念がないのか ?

 

ついに俺は観念した。 というのも、原作ゲームの知識が頭をよぎったからだ。

デートの誘いを断り続けると、相手の好感度が下がって「爆弾」が爆発する可能性がある。あの爆弾処理の面倒くささを考えたら、一度くらいデートに付き合った方がマシかもしれん……。

 

「…わ、わかりましたわ。日曜日、ご一緒させていただきます…」

 

不本意ながらも、俺はデートの誘いを承諾してしまった。御門は「本当か!? やったあ!」と、子供のようにはしゃいでいる。

 

「(こうなったら…こうなったら徹底的に幻滅させてやる !

俺のオッサン臭を全身全霊で浴びせかけて、二度とデートに誘う気を失せさせてやるわ !)」

 

俺は心の中で、黒い炎をメラメラと燃やすのだった。

 

そして迎えた、運命の日曜日。

朝から俺は、藤崎詩織のクローゼットの前で頭を抱えていた。中には、フリフリのワンピースだの、パステルカラーのアンサンブルだの、女子高生らしい可愛らしい服がぎっしり詰まっている。

 

「(こんな甘ったるい服、着られるかあああ !

俺はもっとこう、くたびれたジャージとか、色褪せた作務衣とかが落ち着くんだよ !)」

 

散々葛藤した挙句、一番マシそうな、シンプルな白いブラウスと紺色のフレアスカートという組み合わせを選ぶ。

これでも俺にとっては十分すぎるほどの「おしゃれ」だ。鏡に映る、清楚で可憐な美少女(俺)。

 

しかし、その瞳の奥には、45年間の人生の悲哀を湛えたオッサンの魂が宿っている。このギャップ、シュールすぎるだろ。

 

待ち合わせ場所に少し遅れて到着すると、御門は既に来ていて、少しソワソワした様子で俺を待っていた。

今日のあいつは、いつもの制服姿とは違って、爽やかなカジュアルスタイルだ。ちっ、イケメンは何着ても似合うってか。

 

「ご、ごめん、詩織! 俺も今来たとこだよ!」

明らかに嘘だ。まあ、どうでもいいが。

 

「詩織、今日の服、すごく似合ってるな。可愛いよ」

 

「(お世辞はいいんだよ、お世辞は !

さあ、とっとと映画館に行くぞ !

そして俺の幻滅作戦の第一幕を開始するのだ !)」

 

映画館で上映されていたのは、案の定、高校生の男女がキラキラした恋愛を繰り広げる、絵に描いたような青春ラブストーリーだった。

タイトルは『きらめき☆トゥモロー ~恋の最終ベルが鳴る前に~』……もうタイトルからして胸焼けしそうだ。

 

「(こんな砂糖菓子みたいな映画、見てられるか !

セリフはクサいし、展開はご都合主義だし、主人公の男はヘタレだし !

もっとこう、血湧き肉躍る、硝煙と男たちの汗がほとばしるような映画が見てえんだよ !)」

 

俺は内心で毒づきながら、無表情でスクリーンを見つめる。ポップコーンを食べる手も自然と止まる。隣の御門がチラチラと俺の様子を窺っているのが分かる。

 

「(よしよし、いいぞ。俺のこの無感動っぷりが、お前の恋心を打ち砕く第一歩となるのだ !)」

 

映画が終わり、館内が明るくなる。御門が少し心配そうな顔で俺に話しかけてきた。

 

「詩織、どうだった ? もしかして、あんまり面白くなかったか…… ?」

 

「(当たり前だろ ! こんなもん、時間の無駄だ!)

……いえ、そんなことは。 とても…若さとは素晴らしいものだと、改めて感じましたわ(遠い目)」

 

「そ、そうか? ならよかった! 俺、詩織が退屈してるんじゃないかって、ちょっと心配だったんだ」

御門はホッとしたように笑う。

どうやら俺の幻滅作戦第一弾は、不発に終わったらしい。ちっ、手強いぜ主人公。

 

次に連れて行かれたのは、ゲームセンターだった。

UFOキャッチャーやら、格闘ゲームやら、若者たちがキャッキャウフフと騒いでいる。

 

「(ゲーセンか…昔はよくパチンコ屋に入り浸ってたもんだがな……)」

 

御門がUFOキャッチャーに挑戦するも、あっけなく失敗。悔しそうな顔をしている。

 

「詩織もやってみるか ?」

 

「(ふん、こんなもん、ただの運ゲーだろ…いや、待てよ ?)」

 

俺の脳裏に、前世で培ったパチンコ・パチスロでの勝負勘と、景品の位置やアームの強度を見極める謎のスキルが蘇る。

 

「…少しだけ、やってみますわ」

 

俺は財布から百円玉を取り出し、UFOキャッチャーの前に立った。狙うは、一番取りやすそうな位置にある、どうでもいいクマのぬいぐるみだ。

 

「(アームの軌道、爪の角度、景品の重心…よし、見えた!)」

 

レバーを操作し、絶妙なタイミングでボタンを押す。 アームがクマのぬいぐるみをガッチリと掴み、そのまま景品排出口へと運んでいく。

コトン、と軽い音を立てて、ぬいぐるみは俺の物になった。

 

「お、おお ! すごいぞ詩織 ! 一発で取った !」

御門が目を丸くして驚いている。

 

「(ふっ、こんなもん、朝飯前だぜ…まあ、このクマ、俺には必要ねえけどな)」

 

俺はゲットしたクマのぬいぐるみを、無造作に御門に押し付けた。

 

「御門君、これ、差し上げますわ」

 

「え、いいのか ? やったあ、ありがとう詩織 ! 大切にするよ !」

 

御門は満面の笑みでぬいぐるみを受け取る。そして、なぜか俺を尊敬の眼差しで見つめてきた。

 

「詩織って、意外とゲーム得意なんだな !

それに、てっきりもっと現実的な景品を選ぶのかと思ってたけど、可愛いものも好きなんだな。

なんだか新しい一面が見られた気がするよ」

 

「(だから違うんだって !

ただ単に取りやすそうだったから取っただけで、可愛いとかそういう感情は一切ねえ !

しかもそれをなんでお前にやる流れになってんだよ!)」

 

その後も、俺は格闘ゲームでコマンド入力をミスりまくって自滅したり(昔取った杵柄も錆び付いてやがる)、レースゲームで壁に激突しまくったりして、御門をドン引きさせようと試みた。

しかし、あいつは……

 

「詩織、運動神経は抜群なのに、こういうのは苦手なんだな。なんだか可愛いぞ」

 

「詩織が必死になってる顔、初めて見たかも。新鮮だ!」

 

などと、ことごとくポジティブに解釈しやがる。 俺の幻滅作戦は、ことごとく裏目に出ている。

最後に立ち寄ったのは、近所の公園だった。

ベンチに腰掛けて、他愛もない話をする。

ハトがのんびりと歩いている。

 

「(ハトか…フンはやたら落とすし、平和の象徴ってガラでもねえな…それより、あそこの電線に止まってる雀の方が、焼き鳥にしたら美味そうだ…いやいや、何を考えてるんだ俺は !)」

 

危うく不穏な本音が口から漏れそうになるのを、必死で堪える。

疲れてきた俺は、ついベンチで足を少し広げ気味に座りそうになり、慌てて内股気味のお嬢様座りに修正した。

まったく、女の体ってのは窮屈で仕方ねえ。

 

「なあ、詩織」

 

不意に、御門が真剣な表情で俺を見つめてきた。

 

「俺、詩織のこと、もっと知りたいんだ。

今日の詩織を見て、ますますそう思うようになった。

詩織は、なんだかミステリアスで、掴みどころがないように見えるけど、それがすごく魅力的なんだ」

 

「(やめてくれええええ !

俺はただのくたびれたオッサンなんだよ !

ミステリアスもクソもねえわ !

お前が勝手に美化してるだけだろが !)」

 

俺の心の叫びは、もちろん御門には届かない。

デートの帰り道、御門は終始ご機嫌な様子だった。そして、別れ際に、とどめの一言を放った。

 

「今日の詩織も、すごく魅力的だったよ !

俺、詩織のことがもっと好きになったみたいだ。また、誘ってもいいかな ?」

 

「(どうしてこうなったんだよおおおおお !

俺の完璧なはずだった幻滅作戦はどこで道を間違えたんだ !?

好感度が上がる要素なんて、微塵もなかったはずだろ !?)」

 

俺は力なく「え、ええ…また、機会があれば…」と答えるのが精一杯だった。 もはや、抵抗する気力も残っていなかった。

 

家に帰り着いた俺は、ベッドに倒れ込み、深い深いため息をついた。

 

「もう二度とデートなんかするか… !

あんな疲れるだけのイベント、金輪際ごめんだ… !」

 

そう固く誓った矢先、携帯電話(もちろん詩織の)が軽快な着信音を鳴らした。画面には「御門武史」の文字。

 

『今日は本当にありがとう ! すごく楽しかったよ ! また近いうちに、絶対に誘うからね !』

 

「(追い打ちかけてくんじゃねえええええええ !)」

 

俺の平穏な日々は、一体いつになったら訪れるのだろうか。

頭を抱えて悶絶する俺の耳に、なぜか遠くで教会の鐘の音が聞こえたような気がした。いや、気のせいだ。絶対に気のせいだ。

 

その頃、公園の木陰から、俺と御門のデートの様子をじっと見つめている少女が一人いた。

肩まで伸びた青色の髪、少し寂しげな表情。

それは、クラスメイトの虹野沙希だった。彼女は、二人が仲睦まじげに話す姿を、複雑な思いでただ黙って見つめているだけだった。

 

「御門くん…藤崎さんと、楽しそう…」

 

小さな呟きは、誰にも聞かれることなく、夕暮れの風に溶けていった。

 

 




記憶を頼りに書いてみます

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