藤崎詩織(中身オッサン)、平穏な独身ライフ所望します! ~伝説の樹の下で告白されても困るんですが!?~   作:月影 流詩亜

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第九話:休日イベント地獄変! オッサンの安息はどこにある?

 

先日の、俺の善意という名の凶器がヒロインたちに炸裂した(らしい)一件から数日。俺、藤崎詩織(中身・山田一郎45歳、最近ますます女子高生という生き物が分からなくなってきた)は、待ちに待った週末の朝を迎えていた。

 

「(よっしゃあああ! 今日は休日だあああ! 一日中、誰にも邪魔されずにダラダラしてやるぞおおお! )」

 

窓から差し込む柔らかな日差しを浴びながら、俺はベッドの上で大きく伸びをする。

もちろん、この華奢な美少女の体では、オッサン特有の「ぐおおお」という呻き声は出ない。

代わりに「ふぁ~あ」なんて可愛らしいあくびが出てしまうのが、我ながら解せない。

 

今日の俺の予定は完璧だ。

まず午前中は二度寝を決め込み、昼過ぎにのっそりと起き出して、冷蔵庫にあるもので適当にブランチ。

午後は、リビングのソファで横になりながら、脳内で競馬中継を観戦し、エア馬券を握りしめて一喜一憂する。

夕方からは、これまた脳内で冷えたビールをプシュッと開け、枝豆と冷奴(もちろん脳内)をつまみに、プロ野球中継(もちろん脳内)を楽しむ。

 

そして、眠くなったらそのままソファでうたた寝…。ああ、なんて素晴らしい休日計画なんだ!

これぞまさしく、俺が長年夢見てきた「平穏な独身ライフ」そのものじゃねえか!

 

「(フフフ…今日こそ、この藤崎詩織の身体を最大限に活用し、オッサン的休日を満喫してやるぜ…! 誰にも、邪魔はさせん…! )」

 

そんな固い決意を胸に、俺が再び心地よい眠りの世界へと旅立とうとした、その時だった。

 

ピリリリリ! ピリリリリ!

 

無情にも、部屋の電話がけたたましい音で鳴り響いた。

 

「(んだよ、朝っぱらから…! セールスの電話か? 無視だ無視! )」

 

俺は布団を頭まで被り、着信を無視しようと試みる。 しかし、電話はしつこく鳴り続ける。 まるで、俺が電話に出るまで絶対に諦めない、という強い意志を感じるほどに。

 

「(ちっ、しょうがねえな…! 一体どこのどいつだ、俺の貴重な睡眠時間を邪魔する不届き者は! )」

 

渋々ベッドから這い出し、受話器を取る。

 

「……はい、藤崎ですが」

 

できるだけ不機嫌さを隠し、藤崎詩織らしい澄んだ声で応対する。

 

『あ、詩織? 俺、御門だけど! 』

 

電話の相手は、やはりというか、あの爽やか迷惑野郎、御門武史だった。

 

「(げっ、一番面倒くさいのが来たか…! )」

 

「あら、御門君。おはようございます。 何かご用かしら? 」

 

『うん、今日さ、もし詩織が暇だったら、この前見つけた新しいカフェに行ってみないか? すごく雰囲気が良くて、詩織もきっと気に入ると思うんだ! 』

 

「(カフェねぇ…俺は雰囲気のいいカフェより、赤提灯のぶら下がった小汚い居酒屋の方が落ち着くんだがな…)」

 

「申し訳ありません、御門君。本日は少々、体調が優れなくて…家でゆっくりと静養させて頂こうかと…」

 

とりあえず、仮病でやり過ごそうとする俺。

 

『え、本当か!? 大丈夫か詩織!? それなら俺、何か見舞いの品でも持って行こうか? ポカリとか、果物の缶詰とか……』

 

「(おいおいおい! 余計なことすんな! お前が来たら余計に体調悪化するわ! )」

 

「い、いえ、それには及びませんわ! 本当に、ただの軽い風邪のようなものですから。

一日安静にしていれば大丈夫ですの。 お気遣い、痛み入りますわ」

 

必死で御門の訪問を阻止する。なんとか電話を切ることに成功し、ホッとため息をついたのも束の間、再び電話が鳴り響いた。

 

「(今度は誰だよ、ったく…! )」

 

『も、もしもし…藤崎さん……? 私、虹野沙希だけど……』

 

今度は、あの健気な料理好き少女、虹野だった。

 

「あら、虹野さん。 どうかなさいました? 」

 

『あのね、駅前に新しくできたケーキ屋さんの評判がすごく良くて…もしよかったら、今日一緒に行ってみないかなって…藤崎さんと一緒に、美味しいケーキが食べたいなって…… 』

 

「(ケーキねぇ…俺はケーキより、せんべいとかスルメとかの方が好みなんだがな…… )」

 

「ごめんなさい、虹野さん。 実はわたくし、本日は先約がございまして…またの機会にご一緒させていただけますでしょうか? 」

 

今度は先約があるという嘘で切り抜けようとする。

 

『そ、そっか…残念だなぁ …… うん、わかった! また今度誘うね! 』

 

健気にも引き下がる虹野。 少しだけ罪悪感が芽生えるが、俺の平穏のためだ、許せ。

 

しかし、俺の安息はまだ訪れない。 電話を切った数分後、今度は玄関のチャイムが鳴った。

 

ピンポーン !

 

「(げっ! まさか直接押しかけてきたのか!? )」

 

恐る恐るインターホンを覗くと、そこにはおっとりとした笑顔を浮かべた古式ゆかりの姿があった。

 

「藤崎様、おはようございます。 本日はお日柄もよろしいので、わたくしの家でお茶でもいかがかと思いまして…美味しい和菓子もご用意しておりますのよ 」

 

「(和菓子か…まあ、洋菓子よりはマシだが…それより、家でゴロゴロしてたいんだよ俺は! )」

 

「古式さん、申し訳ありませんが、本日は一日、家の手伝いを言いつかっておりまして…どうしても外に出られないのですわ…」

 

今度は家の手伝いという、最もらしい嘘をつく。

 

『まあ、それは残念ですけれど…藤崎様がご家族想いだということは、よく存じておりますわ。

では、また日を改めさせていただきますわね』

 

古式はあっさりと引き下がってくれた。…と、思ったのも束の間。

 

「あら、ゆかりちゃん、おはよう! 詩織なら二階の部屋で寝てるわよ。

昨日も遅くまで勉強してたみたいだから、まだ起きてないかもしれないけど、起こしちゃって大丈夫よ! 」

 

階下から、藤崎詩織の母親の、明るくも間抜けな声が聞こえてきた。

 

「(お袋おおおおおおお! 余計なこと言うんじゃねええええええ! )」

 

俺の必死の嘘は、実の母親によってあっさりと打ち砕かれた。

その後、どうなったかは言うまでもない。

古式ゆかりに優しく(しかし有無を言わさぬ圧力で)叩き起こされ、気づけば俺は、なぜか御門、虹野、古式、そしてどこで聞きつけたのか鏡魅羅まで加わった謎の集団と共に、駅前のショッピングモールへと強制連行されていた。

 

「(なんで俺の貴重な休日が、こんなリア充どもの巣窟みたいな場所で、こんな大人数でのグループ行動に費やされなきゃならねえんだ…!

俺の脳内競馬と脳内ビールが…! )」

 

心の中で血の涙を流す俺。しかし、周囲のヒロインズ(+御門)は、キャッキャウフフと楽しそうだ。 ちくしょう、この温度差は何なんだ !

 

まず連れて行かれたのは、ファンシーショップとかいう、俺のオッサン的感性とは最も縁遠い場所だった。

店内には、キラキラしたぬいぐるみや、意味不明なキャラクターグッズ、パステルカラーの文房具などが所狭しと並んでいる。

 

「わあ! このクマさんのぬいぐるみ、可愛い~! 」

 

「このキラキラした髪飾り、藤崎様に絶対お似合いですわ! 」

 

「フン、子供騙しなおもちゃばかりね…でも、この黒猫のキーホルダーは、まあまあ悪くないじゃない」

 

女子たちは、目を輝かせながら商品を見て回っている。 俺だけが、一人遠い目をして、店内の喧騒をBGMに脳内で菊花賞のレース展開を反芻(はんすう)していた。

 

「(こんなガラクタ(失礼)に、よくもまあそんな大金が使えるもんだ……実用性ゼロじゃねえか…それより、最新の電動工具とか、高性能な釣竿とかの方がよっぽど価値があると思うんだがな……)」

 

「ねえ、藤崎(さん/様)は、この中でどれが一番可愛いと思う? 」

 

ヒロインたちから、そんな無慈悲な質問が飛んでくる。

 

「(知るか! どれもこれも、俺にとっては同じようなもんだわ! )」

 

しかし、ここで無碍に断るわけにもいかず、俺は一番最初に目に付いた、やけに派手なピンク色のウサギのぬいぐるみを指差して、適当に答えた。

 

「さあ……強いて言うなら、それが…いっとうよろしおますんちゃうか知らんけど(なぜか疲労と混乱で、前世で見た京都の舞妓はんみたいな言葉遣いになった)」

 

すると、ヒロインたちは、

 

「まあ! 」

 

「さすが詩織(さん/様)! センスがおありですのね! 」

 

「確かに、そのウサギ、一周回って逆にアリかも! 」

 

などと、なぜか俺の適当なチョイスを絶賛し始めた。

……もう、こいつらの美的感覚は理解できん。

その後も服屋では、

 

「藤崎(さん/様)に似合う服を選んで! 」

 

と無茶振りされ、アクセサリー屋では、

 

「どれが一番藤崎(さん/様)らしいかしら? 」

 

と詰め寄られ、俺の精神力はガンガン削られていく。

その度に、俺は適当な返事(時には白目を剥きながら)でその場をやり過ごし、そしてなぜかその適当さが、

 

「藤崎(さん/様)の独特のセンス」

 

「ミステリアスな魅力」

 

として好意的に解釈されるという、悪夢のループが続いた。

散々ショッピングモールを引きずり回された後、一行はゲームセンターへと流れ着いた。薄暗い店内に、けたたましい電子音と、若者たちの歓声が響き渡っている。

 

「(ゲーセンか…昔はよく、駅前のパチンコ屋で羽根モノとか打ってたもんだがな…あの頃は良かった……)」

 

ヒロインたちがUFOキャッチャーに挑戦するも、軒並み惨敗している。

悔しそうな顔をする彼女たちを見て、俺の中の眠れる獅子(という名の、元パチンカスの勝負師魂)が、むくりと頭をもたげた。

 

「(ふっ…貸してみな、嬢ちゃんたち。

UFOキャッチャーってのはな、運だけじゃねえんだよ。 アームの強さ、爪の角度、景品の重心、そして何よりも…台を見極める『目』が重要なのさ…! )」

 

俺は、いつの間にか詩織の財布から百円玉を数枚取り出し、最も攻略しやすそうな(と俺のオッサン的第六感が告げている)UFOキャッチャーの前に立っていた。

狙うは、ヒロインたちが欲しがっていた、デカいパンダのぬいぐるみだ。

 

「(ふむ…このアームの可動域と、景品の配置…いける! )」

 

レバーを握り、慎重にアームを操作する。

脳内では、パチンコ台の釘を読むかのような集中力で、アームの軌道をシミュレーション。

そして、ここぞというタイミングでボタンをプッシュ!

 

ガシッ!

 

アームが、パンダのぬいぐるみの、最もバランスの良い一点を的確に掴み上げた。

そして、そのままゆっくりと、しかし確実に景品排出口へと運んでいく。

 

コトン !

 

「「「おおおおおおお!! 」」」

 

俺の神業(?)に、ヒロインたちと御門から、割れんばかりの歓声が上がった。

 

「(ふっ…こんなもん、パチンコの確変大当たりに比べりゃ、屁みてえなもんよ……)」

 

内心でドヤ顔する俺。

その後も、俺の快進撃は止まらなかった。

ウサギのぬいぐるみ、イルカのキーホルダー、謎のキャラクターのフィギュア…次から次へと景品をゲットし、気づけば俺の両手は、大量の戦利品でいっぱいになっていた。

 

「藤崎(さん/様)、すごーい!」

 

「まるで魔法みたい!」

 

「詩織ちゃん、かっこいい!」

 

ヒロインたちは、目をキラキラさせて俺を称賛する。御門も、

 

「詩織、お前そんな隠れた特技があったのか!?

俺、今日一日で詩織のこと、また少し誤解してたかもしれないな…いや、ますます分からなくなったというか、もっと知りたくなったというか…とにかくすごいよ! 」

 

などと、興奮気味にまくし立てている。

 

「(まあ、たまにはこういうのも悪くねえか…いや、やっぱり家でゴロゴロしてる方が、百倍マシだな……)」

 

ゲットした大量のぬいぐるみを、気前よく(というか、持って帰るのが面倒くさいので)ヒロインたちに配り終えた頃には、俺の体力はとっくに限界を超えていた。

 

疲労困憊で家に帰り着いた俺は、自分の部屋のベッドに倒れ込むようにして突っ伏した。

 

「(もうダメだ…もう限界だ…休日は絶対に、絶対に家から一歩も出ねえ…!

たとえ世界が滅びようとも、俺は布団から出ねえぞ…! )」

 

そう固く、固く心に誓った、まさにその時だった。

 

プルルルル…プルルルル…

 

無情にも、枕元の携帯電話が鳴り響いた。画面に表示された名前は、「早乙女好雄」

 

「(げっ! あの情報屋か…! いったい何のようだ…? )」

 

恐る恐る電話に出る。

 

『やあ、藤崎さん! 今日は御門や虹野さんたちと、ずいぶん仲良くショッピングモールで遊んでたらしいね。

藤崎さん、最近いろんなヤツといい感じみたいだけどよ…ぶっちゃけ、本命は誰なんだ?

その辺の情報、俺にもこっそり教えてくれないかな ? 』

 

早乙女の、無神経で、しかし俺にとってはあまりにも致命的な質問が、疲弊しきった俺の鼓膜を容赦なく突き刺した。

 

「(本命だあ!? いるわけねえだろそんなもんがあああああああ! 俺の平穏は!

俺の平穏な独身ライフは!

一体どこに行っちまったんだよおおおおおおお! )」

 

俺は携帯電話を握りしめたまま、声にならない叫びを上げ、再びベッドに突っ伏した。

 

俺の安息は、この世界には存在しないのだろうか……

 




この時代、携帯電話を持っていたのは一部の富裕層だと思いますが、突っ込みはお許しください。
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