「失礼します。一年は組の善法寺伊作です」
学園長の庵に行くと、障子が開かれた。
開いたのは土井先生だった。
「よく来たね。……誰にも言わず、一人だけで来たかい?」
「はい!」
土井先生はあたりをうかがうと、伊作に部屋に入るように勧めた。
伊作が下座に座ると、上座には学園長先生が座っていた。
室内には、出前授業を行っていた幻術使いが二人と、山田先生と土井先生が控えていた。
「みんなと遊びたかったろうに、悪いのお」
学園長先生は、いつものように、親しみやすい表情と声だった。
「いえ、また日を改めて遊ぶことになりましたから」
「呼び出されたことは、誰にも言っておらんの?」
土井先生を通じて呼び出されたときも、なぜだかしつこいくらい、内密に来るようにと念を押された。学園長先生に呼び出されたとは、友達にも絶対に言わないようにと。
「はい。言われたとおり、土井先生に手裏剣の練習をみてもらう、と言ってここへ来ました」
「よろしい。幻術使いと別個で会ったと知られたら、ちと面倒なことになるでな」
学園長先生は、笑顔を消した。
「善法寺伊作。今からいくつか質問をするが、聞かれたことにはすべて正直に答えるのじゃ」
「は、はい」
伊作は緊張しながらも、了承した。
怒られるようなことをしただろうか。
強いて言うなら、医務室で仕分けていた薬草を転んだ拍子にぐしゃぐしゃにしてしまったり、実技の授業で手裏剣が当たるときと当たらないむらがはげしかったりする。なにもないところで転ぶことも多い。
そういうところが忍者に向いていないと言われてしまうだろうか。
「伊作くん、君は忍術学園に来る前、よく転ぶ子だったかな?」
質問は、老いた幻術使いが行った。
伊作はぱっとそちらの方を向き、肯定する。
「では、転んで怪我をしたら誰かに心配してくれるから怪我をするようなことをすすんで行う、ということは?」
まるで、気をひきたくてわざとどじを踏んでいるんじゃないかと言いたげだ。
言葉は選んでいるが、疑われているようでいい気はしない。
「自分から怪我を?そんなことしません。だって、怪我をしたら痛いから。痛いのはいやです」
「そうだね。わしも痛いのは嫌じゃ」
幻術使いはさらに質問する。
「君は実は忍術学園で学ぶことが嫌で、わざと落第しようとしている、なんてことはないかな?」
「そんなこと、考えてもいません!ここで勉強して、立派な忍者になりたいです」
ぶんぶんと首を振ると、幻術使いはなぜか困ったような顔をした。
「では最後の質問だ。君は誰かが不運な目にあったらいいのに、と思ったり、願ったりしたことはあるか?」
伊作の頬がかっと熱くなった。
同室の留三郎の顔が思い浮かぶ。
入学後、一緒に行動するようになって、転んだりして怪我をすることが増えたと言っていた。
今までこんなことはなかったんだが、と。
「僕は友達が不運な目にあえばいいなんて、思いません!」
「果報行者殿!」
山田先生が制した。土井先生が、伊作に手ぬぐいを差し出した。
伊作はいつのまにか目にたまっていた涙に気付いた。
「……必要なことじゃった。意地悪な質問をしてすまんかったの。正直に答えてくれて助かった」
伊作が手ぬぐいを受け取り、涙をぬぐうと、老いた幻術使いと学園長先生は、視線でなんらかのやりとりをしているようだった。
伊作が手ぬぐいを土井先生に返すと、それを待って、学園長先生は口を開いた。
「……大事な話をする。一年は組、善法寺伊作。おまえの不運について、果報行者に見立ててもらった。簡潔に言う。伊作の不運は、持って生まれた才能、呪いのようなものじゃ」