「だが、彼の不運について、まだわからないことが多すぎる。わしの弟子を学園において、解析にあたらせます。教師の仕事はできんだろうが、事務仕事でもさせてやってください」
果報行者の言葉の後に、功徳行者が静かに頭を下げた。
学園長の判断は早かった。
「感謝する。早速事務員として働けるよう、手配しよう。……伊作、これから不運なことが起きたり、困ったことがあれば、担任の先生や、功徳行者殿に相談するように。そして今話したことは、教職員と幻術使いたち、我々だけの秘密じゃ。同室にも漏らしてはならん」
伊作は黙ってうなずいた。反論できる雰囲気ではなかった。
「明日からこれを使うといい」
伊作は弟子が差し出した髪紐を受け取った。
「この髪紐は、無意識に幻術を使わないために力を抑える効果がある。君の不運にどれだけ有効かはわからないが、ないよりはましだろう」
「ありがとうございます!」
礼を言うと、弟子は少しほほ笑んだ。
「では伊作、我々は手裏剣の補習授業でもしようか。実際に手裏剣の練習をしているところを誰かに見られないと、怪しまれてしまう」
伊作は土井先生に促され、学園長の庵を出た。
あとには、幻術使い二人と、学園長、山田伝蔵が残る。
「伊作の処遇の話ですが……」
言葉を濁したのは、退学を勧めるという言葉を入学間もない時期に口にしたくないからだった。
本人の適性がない、スタンドプレーで周囲を必要以上に危険にさらす、などで教師から生徒に退学を検討するよう促すことはあった。
ただ、退学勧奨を行うのは、どんなに早くとも二年生への進級を見据えたタイミングだった。入学後一月ほどで、というのは前例がない。
しかし、それだけ『忍者に向いていないのではないか』という声が職員室で漏れ聞こえるほど、伊作の不運は目立っていた。
「本人に悪気はない。力を使っている自覚もない。様子見がよいじゃろう。伊作本人の不運は伊作が原因だろうが、他の生徒の不運が伊作の力に起因するものなのかはまだわからん。保健体育委員の方は注視が必要じゃが、一年は組の方は、近年まれにみる実技が残念な子たちである可能性も捨てきれない」
「確かに不運がからまなければ、見込みはあります。芽を摘むのは惜しい」
「髪紐ももらったことだしの。多少の効果はあるじゃろて」
幻術使い達が静観するなか、二人の間で結論は出た。
話は終わりというように、学園長はうなずく。
山田はその場を音もなく去った。
あとには、幻術使い二人と学園長が残された。