――火薬庫爆発事件後。
伊作は忍たま長屋の自室から離れ、別室で謹慎処分を受けていた。最低限の荷物だけ自室から運び、寝食と自習を部屋で行う。
生徒同士の接触も固く禁じられているため、同室の留三郎とですら会えなかった。
食堂に行くことも許されず、食事は事務仕事を任されている功徳行者が運んできたものを食べていた。
「功徳さん……。僕は、このあとどうなるのでしょうか」
「……俺には答えられないな」
功徳行者は、下手な慰めはしなかった。それがかえって、伊作を安心させた。
そんなある日。学園長から呼び出しを受けた。
一年生は教科の授業を受けている午前中。
功徳行者に連れられて、伊作は学園長先生の庵に入った。
扉を閉めるなり、上座に座っていた学園長から声をかけられる。
「先日の出来事は、不運だったな」
学園長からの言葉に、伊作は唇を噛みしめた。
「……一年は組の火薬委員は、自主退学することになった」
伊作は顔をあげる。
一緒に火薬庫まで火薬を返しに行って、自分が転んだせいでこんなことになってしまった。
「なんで、僕のせいなのに……!」
「伊作のせいではない」
学園長は静かに言った。
「あえて言うなら、不運のせいじゃ」
わなわなと震えながら、伊作はへたり込んだ。
目の前で火薬庫が爆発したときの友達の顔が、頭にこびりついて離れない。
駆けつけてくる教職員たちに責められ、ごめんなさいと謝っていた声が耳に残っている。
「だったら、辞める必要なんて……」
「火種が彼の懐から飛び出してきたのは事実。火薬委員として、『火気厳禁』の決まりを知っていたのも事実じゃ」
伊作はがばりと手をつき、額を床にこすりつけた。
「お願いします!自主退学の届を受け取らないでください!あいつはなにも悪くないんです!」
伊作は一貫して、同級の火薬委員の無実を訴えていた。
自分が最初に転んだのが悪いと。罪があるとしたら自分であり、罰を受けるのであれば間違いなく自分であると。
泣きながら訴える伊作を、誰かが乱暴に抱き起した。
土井先生だった。
「我々も慰留はした。ただ、火薬委員会の先輩に申し訳が立たないと言っていた。そしてなにより……」
土井先生は迷うようにして、一瞬黙り、また口を開いた。
「得意だったことでこんなことになってしまって、自信がなくなったと言っていた」
伊作の瞳から涙が一粒零れ落ちた。
は組の火薬委員は、組のなかで一番火薬の扱いに長けていた。
授業の終わりかけに、火種は各自で始末した。きちんと消えているか、二人組になって確認した。
最後に先生も点検した。
絶対におかしい。こんな不条理が許されるはずがない。
だけど起きてしまった。ありえないことが起こってしまった。
土井先生が手ぬぐいで伊作の目元をふく。
伊作は放心状態だった。
二人から少し離れて、功徳行者が腰をおろした。
「功徳行者殿。おぬしの意見を聞きたい」
功徳行者は伊作を見やり、視線を学園長に向けた。
「はっ。……善法寺伊作の不運が、数々の事態を引き起こしていると推測します。恐らく、彼の不運は伝染する。一緒にいる時間の長い者が、特にその影響を受けやすいでしょう。それは、体育委員が不運な目に合わなくなってきたことからも裏付けがとれていると思います」
「ふむ。同感じゃ。髪紐の効果は薄れてきたのかの?」
「それについては、申し訳ありません。一学期に伊作くんに渡した髪紐は、すぐに渡すことを優先した、間に合わせの物でした。正直言って、少しは効果があると踏んでいましたが、あまり効き目がなかったのかもしれません」
「ではあなたは、ばったものでも掴ませたのですか」
土井先生がきっとにらむ。
「土井先生、そう言わんと。功徳行者の能力的に、それは酷じゃ」
学園長先生が静かに息を吐く。
「この者たちの口は堅い。万が一漏れるようなことがあれば、責任をもってわしがけりをつける。秘中の秘であるとは承知しておるが、明かしてくれんかの」
功徳行者はしばらく黙っていたが、わかりました、とつぶやいた。