「わしから頼んでおいてなんじゃが」
学園長先生が眼光を鋭くする。
「幻術使いにとって、どのような能力を使えるかを明かすのは、忍者が敵方に今携帯している道具を明かすのと同じくらいに致命的なことじゃ。……二人とも、誰かに明かしたら、わしが手ずから、秘密を知った者ともども葬ると心得よ」
空気が重くなり、伊作は思わず震え上がった。
土井先生が肩を抱いてくれる。
「……では、若輩者ながらお話をさせていただきます」
功徳行者は懐から、丸く茶色い物を取り出した。
出前授業のときに、穴を塞いでいた物だった。
土井先生も物珍しそうに見ている。忍び道具の一種だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
「私は『道具作製』を行います。簡単に言えば、今の時代には存在しえない道具を作製できるのです。今私が手に持っている物は、札とのりの性質を併せ持っている道具で、粘着札とでも言いましょうか。こういった物は、どのような用途に使うかを頭の中で思い描き、必要と思われる材料をそろえると作製が可能です」
功徳行者は丸い粘着札を土井先生に差し出した。
「私が作った物は、私以外にも使用可能です。触れても問題ありません。壊れてしまった場合も、簡単な修理でしたら他人にも可能です。どうぞ検分を」
土井先生は片手で受け取り、両手で触れたり、顔を近づけたりしていた。
「これはどうやって作製を?」
「材料という意味では、包帯とご飯粒を練ったものです。ただし、同じ材料を用意しても、他者には再現できません」
「……でしょうね。巻いている形態と粘着力という要素は同じでも、これはまったくの別物です」
土井先生に、そっと粘着札を見せてもらう。触りはしなかったが、一目見ただけでも包帯とは似ても似つかない別の素材であると分かった。
「私の作製した道具は、幻術にも有効であるという特徴があります。例えばその粘着札、師匠が開けた穴を塞ぐために作りました。本来は師匠が開けた穴は自分で始末するのが筋なのですが、私の道具を使った方が簡便なので」
「そして、伊作に渡した髪紐も、あなたが作ったものである、と」
土井先生は粘着札を功徳行者に返しながら、伊作の髪紐を見やる。
渡されて以来、伊作はずっと同じ髪紐を身に着けていた。
「はい。ただし、制約があります。幻術にも有効な品を作製するためには、ある程度行動を共にし、仕組みがわからないと対応できる道具が作れないのです。一学期伊作くんに渡した髪紐は、いわば出来合い。本来は誂えなくてはいけませんが、苦肉の策として、間に合わせで対応いたしました。改良品の作製が間に合わず、このような事態になってしまい、私の力が及ばず申し訳ありませんでした」
功徳行者は頭を下げた。
「顔を上げられよ、功徳行者殿」
学園長先生が厳かに告げる。
功徳行者はゆっくりと顔を上げた。
「髪紐は改良し、伊作に渡すとして。伊作の不運をどうにか制御する道具は作れないものか?」
「私も、不運に指向性を持たせられないかを考えております。特定の相手に不運を浴びせるようなことができれば、十分幻術として使用できる水準になるかと」
土井先生が身を固くしたのが分かった。
伊作は話についていけなかった。
言いたいことはわかるが、気持ちが追い付かなかった。
「どれくらいで、指向性を持たせられる道具が作製可能じゃ?『常識はずれの製作者』」
「その二つ名はおやめください、学園長先生。……遅くとも、彼が進級するまでには」
学園長先生は黙ってうなずいた。
恐らくは、了承の意だった。