しばらく部屋は静寂に包まれていた。
相変わらず明かりはゆらゆらと揺れていた。
「さて、私たちが一年生だったときの三学期、特筆すべき出来事はもう一つあった」
「まだあるんですか」
露骨に顔をしかめると、仙蔵は「そう言ってくれるな」とほのかな笑みを見せた。
こんなものを聞かせてすまない、とでも言うように。
あるいは泣き笑いのように。
「――三月にある武道大会。当時は進級試験も兼ねていたので一年生も全員参加だった。まともに戦ったら、勝ち目はない。先生方が推奨するのは忍者の集団戦法。一年生は、組ごとに固まって行動しろと、大会前に何度も念を押された。い組とろ組は指示に従った。は組も当初は固まっていたようだが……」
仙蔵はため息をついた。
「この件は、伊作も、留三郎もなにも言わない。当時を知る先生方も詳しくは語らない。結果から言うと、は組の半分が進級できなかった。なにがあったかは分からない。ただ、不運が重なって、伊作と留三郎、それ以外のは組にわかれて行動した。それだけは聞いている。……紆余曲折あったが、そうして残った者は進級し、春休みに入った」
仙蔵は、一息ついた。
「長期休みはみな家に戻る。だが春休み期間中、伊作は郷に戻らず、幻術使いの弟子と過ごすことになった。理由としては、伊作に特別課題が出されたからだ。伊作に出された宿題は、通常の一年生が出される春休みの宿題に加え、『自分の不運と向き合い、対処する方法を考えてまとめる』というものだった。幻術使いの手を借りてもよいということだったので、相変わらず事務仕事をしている功徳行者に助けを求めることにしたらしい。
そうなることは、幻術使いの弟子にとって、織り込み済みだった。なぜなら、幻術使いの手を借りてもよいという但し書きは、功徳行者が付け足したものだったのだから」
「それはつまり、幻術使いの弟子が、伊作先輩の宿題を改ざんしたと?」
「そうだ。事務員としての立場を悪用して、一年生にはあるまじき宿題をさせた」
喜八郎は首をひねる。
宿題が増えたことに同情の余地があるが、起きたことを振り返ると追加の課題は自然なことだ。
幻術を授業で扱わない以上、功徳行者が親切心から手を差し伸べたと言えなくもない。
先走ったことは否めないが。
「レポートを書くとかではなかったんですか?」
「違う。暗殺の実行だ」
仙蔵は吐き捨てるように言う。
「幻術使いの弟子は、伊作を連れ出し、試作品の道具を使い、暗殺が可能かどうかを検証するために独断で実地検証を行った」
「……は?」
喜八郎の口から、抑えきれない本音が漏れた。
■武道大会が三月にある出典
原作コミック(落乱2巻7ページ)に描かれているコマに、
武道大会(3月18日)という掲示物がありましたので、そこからとりました。