「ちょっと待ってくださいよ先輩。暗殺なんて、進級するとはいえ一年生がする任務じゃないでしょう」
「そのとおりだ、喜八郎。幻術使いの弟子は独断で行った。学園は知らなかった。……ただ、知っていたら止めたかどうか、は疑問が残るがな」
喜八郎は怪訝な顔をする。
「幻術使いの弟子が事務員として学園に残っていることから、先生方は、学園長直轄で、伊作を幻術使いとして育てるという認識をされていたらしい。だから多少の不運も目をつぶろうというわけだ。
少なくとも、伊作の周りでは人が死んだ。あいつが背負っている不運は、十分人を死に至らしめる。
だから不運を任意のタイミングで発動させ、暗殺に利用できないか。そういった方向性に考えが及んだのだろう。暗殺を請け負う側として考えてみろ。いきなりどこかから飛んできた石に当たって対象者が死んだら、こんなに楽なことはない。
……誰がどこまで関わっていたかは知らない。ただ少なくとも、伊作の不運を制御できるような道具を、功徳行者に作るよう依頼していたのは学園だ。その道具が春休み目前でできたらしい。そして試作品の効果をはかるために、二人は連れ立って出かけた」
ささやかな幸運に喜び、暇があれば勝負をする同期達が度を越した怪我をすると怒る。日常の不運に哀愁漂わせ、学園での日々を楽しんでいる。
そんな先輩の手が汚れているなんて、はたから見てもわからない。
「……伊作先輩は、自分が手を汚すことを知っていたのですか」
「恐らく知らなかっただろう。知っていたら試作品は決して使わなかっただろうから。……伊作は、今も昔も、誰かが不幸になることを望まない」
仙蔵は声を潜めた。
喜八郎が耳をそばだてなければ聞き漏らしてしまいそうなほど、話し声は小さかった。
「……学園が異常に気付いたのは早かった。当時、春休み期間を利用して、家庭訪問が行われていた。担任の先生が、伊作が郷に返っていないことに気付き、状況を把握した。学園長が幻術使いの師匠に連絡をとり、師匠から接触を試みてもらうも捕まらなかった。先生方が手分けして、二人の行き先を探した。そして、学園長先生と幻術使いの師匠は、伊作が試作品を使うまさにそのときその場所に、駆けつけた」
「まさか……」
喜八郎は想像してしまう。
若干十歳で手を汚した伊作先輩の姿を。
そんな過去の経験が、学外でも治療を行うように駆り立ててしまったのかと。
「不運を指向性を持った武器で発動させる。幻術使いの弟子が作った道具は、以前留三郎が作った漆喰砲の小型版のようなものだったらしい。着眼点はよかったのだろうと思う。だが暗殺は失敗した」
喜八郎はほっとする。
「殺そうとした相手は死ななかった。かわりに、幻術使いの弟子が、一瞬のうちに骸骨になった」
蛙が潰れたような声が出た。