「二年の一学期、二年生では合同での授業がよく行われるようになった。当時の二年は組単体では、教科はともかく実技の授業が難しくなるためだ。手合わせをしようにも、伊作・留三郎とそれ以外に分かれてしまう。留三郎以外の二年は組の連中は、伊作と関わりたくないと公言していた。……仮に先生からの指示で組み合わせがばらけたとしても、お互いの得意不得意をすぐに把握してしまって経験値になりにくい。理屈はわかる。私たちも当初は勉強になるとむしろ楽しみにしていたし、実際経験にもなった。
しかし、合同授業のたびに、い組やろ組まで軽い不運に見舞われるため、次第に実施されなくなった。こういったこともあり、伊作に関わりたくないという声が、い組、ろ組の中からも出はじめた」
手に取るように想像できる。
喜八郎は、人への関心が薄い。どうして他人はあんなにも自分以外の誰かを気にするのだろうと不思議に思うほどに。
ただ、自分以外が一般的なのだともわかっている。
一般的な人間は、たいがいの場合異端者を発見すると、排斥するか、遠ざける。
「当時の学級委員長委員会で、伊作の件、二年は組の件が話題になった。前年の荒れた予算会議、進級で脱落者が多いこと。詳細は伏せられたが、例の火薬庫爆発事件。ある程度の緘口令はあったが、人の口に戸は立てられない。低学年ならなおさらだ。特に当時一年生だった五年生に、多大な影響を与えた」
仙蔵が天を仰ぐ。さらさらの髪が流れるように動く。
「今の五年生の代は、入学者が三十名。いろは各組に、十人ずつ振り分けられた。い組の尾浜は火薬委員会、久々知が学級委員長委員会。ろ組の鉢屋、不破、竹谷は今と同じ委員会だ。そして学級委員長委員会で、一年の委員長たちが、一年生の間で、二年は組が突出して人数が少ないことが話題になっていると言った」
忍術学園は全寮制ゆえ、人間関係が濃密になる。自分の所属する組、学年だけでなく、他の委員会、他学年で起きたことも、主だったことは共有される。
「当時の学級委員長委員会の仕事の一つに、内偵と情報操作があった。上級生のみにその情報が開示され、下級生は知らないうちに手足となって働くのが、平時の運用だ。ただ当時の至上命題は『伊作が忍術学園に及ぼす影響の調査と、伊作に対する負の感情の軽減』だった。伊作が二年生だったこともあり、一年生以外の学級委員は、学園長先生の命で、内偵と情報操作の任に当たることになった。学園長先生の庵で
情報操作は、忍者の技能の一つだ。虚偽の情報の発信し、人々を誤解させること。
情報を歪曲し、本来の意味とは異なるように解釈させること。
重要な情報を隠し、人々に真実を伝えようとしないこと。
そして、人々の感情を刺激し、特定の行動を促す感情操作。
学園内においては、同級生から一目置かれがちな学級委員長が行うからこそ、説得力も増し、最大限の効果を発揮する。
「私たちは、二はの学級委員が空席であるのを良いことに、一年生の学級委員たちにこれでもかと『あほのは組』であることを吹聴した。特に伊作はとんでもないドジであると。それでも先輩であるから、二はのことはしっかりと敬意をもって接しろと、一年の間で広まっても構わない噂を、あえて広めるように流した。三年生以上の先輩方は、それぞれ学級委員長が、『二年生のあほのは組』という噂を流すように行動した」
当時の一年生を不安がらせない。そういう意図があったのだろう。
一年生だけ情報統制をしても意味がない。縦割りの委員会活動の場で、直属の先輩から伊作の話を聞いては努力が水泡に帰す。
だから学級委員長委員会のほぼ全員が総力をあげて、全学年同時に実行しなければならない。
自分には手が余る、と喜八郎は思った。
「当時の二はにとっては、とばっちりですね」
「そうだな。それは否定できない。ただ、は組に学級委員長がいない以上、当時の二年は組に介入することは難しかった。私と長次は、自分のクラスをコントロールすることで精いっぱいだった。……力不足だった」