「――当時の学級委員長委員会が、あえて流さなかった噂がある。『不運な保健委員会』というものだ」
仙蔵の言葉に、喜八郎は反応した。
「保健委員会の活動が伊作先輩の生命線だから、触れたくなかったんですか?」
「それもある。が、前年の『保健体育委員会校外マラソン事故』で死者が出ているからな。怪我、落第は不運で済ませられても、死人が出ることを伊作の不運と結びつけたくなかったんだろう。実際、事故がきっかけで保健委員会への立候補が減った。人数が多い学年は、消去法的に誰かが任について、委員会活動はまわっていた。が、また保健委員会がらみで不幸な事態が発生した」
愁いを帯びた表情からは、きっと死人が出たのだと、十分に読み解けた。
「――一学期。薬草摘みに外出していた保健委員たちが何者かに襲撃された。薬草摘みは保健委員会の活動の一環で、保健委員は全員参加する。外出届もきちんと出していて、代々伝えられている安全な場所に行って帰ってくる。はっきり言って危険性は低いはずだった。けれども襲撃された。
上級生が責務として、四年生以下を逃がすためにその場に残り、戦った。四年生以下は逃げたものの、追手がかかった。
伊作と伊作の一学年上の先輩は生き残ったが、二年い組、二年ろ組、一年生の保健委員が死んだ。上級生も深手を負った。
『保健委員会襲撃事件』。
伊作が手当をする機会が増えたからか、伊作自身に降りかかる不運で大きなものはなくなった。
ただ、二年連続で事件・事故に遭ったことで、保健委員会は不運であるという噂が流れ始めた。
事件・事故があったことは事実だ。記憶にも新しい。学級委員長委員会でも、『保健委員会が不運』である噂を打ち消すことは不可能だと判断した。そして、『保健委員会が不運』なのは昔からだという噂を広めることとなり、実行した。これが今も伝わっている、保健委員会は不運委員会と揶揄されるはしりだ」
人死にが出たにしては、控えめな言い方だ。
当時の学級委員長委員会の暗躍が成功したのだろう。
「ただし噂には弊害もあった。保健委員会は壊滅的な被害を受けたため、委員会活動がままならなくなった。なり手を募集しても人が集まらない。保健委員会経験者に声をかけても、返事は色よいものではなかった。だが生き残った保健委員の上級生、絶対安静だった先輩たちが通常業務に戻るのにも時間がいる。苦肉の策として、三年生以上の保健委員会経験者に助っ人として詰めてもらった。協力は一学期の間だけ。保健委員会には正式に所属しない。この二つが条件だった」
仙蔵は立ち上がり、茶を入れてくると言って、部屋を後にした。
きっとお互いに、情報を咀嚼する時間が必要だった。