「――そ、そういえば、伊作先輩は特定の得意武器を持たずに戦われますよね?それはなにか理由があるんですか?」
伏木蔵は話を変えた。
この陰鬱な空気を、どうにかしたかった。
話している本人は淡々としているけれど、それがどうしてだか恐ろしかった。
「僕が乱定剣を選んだ理由かい?」
薬研をひく手が止まる。
「それしか選べなかった、からかな」
薬研をひく手が再開される。
伏木蔵は地雷原に足を踏み入れてしまったことを察した。
「――失礼します」
伊作はまたも学園長の庵に呼ばれた。
『混合ダブルスサバイバルオリエンテーリング『まぜこぜ二人一組生き残り野外指定地点発見通過走破時間争い競技』』後、間を置かず。
きっと不運のことなのだと予想はついており、足取りは重たかった。
庵には、学園長先生の他、果報行者と、土井先生が座っていた。
「よく来てくれた。身体はもう大丈夫かの?」
伊作の身体は、服で隠れないところは包帯が巻かれていた。
ただ、実技の教科を受けるのに支障はない。
「はい、僕は、大丈夫です……」
伊作よりも重症の者は、たくさんいた。
「……さて、本題じゃ」
学園長先生は、重々しくつぶやいた。
「善法寺伊作、おまえはもう武器を使ってはならん」
伊作は唇を噛んだ。
今でさえ、伊作が武器を使うと大体不運でろくなことにならない。よって授業外での自主練は禁止されている。
長次や仙蔵、文次郎が自主練に励む中、見ていることしかできないのは辛いことだった。
「混合ダブルスサバイバルオリエンテーリングでの話は聞いておる。宝禄火矢の誤爆、手裏剣の当たり所の悪さ、忍び刀の握りが甘くて吹っ飛ぶ。例を挙げればきりがない。伊作だけではなく、参加者がなぜか、そうはならんじゃろと思うほど、武器の扱いがまずかった。不運が発動して武器が誰かを傷つけるようなことは、避けねばならん」
「学園長先生……」
「実技の授業の参加を禁じるものではない。だが、得意武器は殺傷能力の低いものを選ぶのが望ましい」
土井先生は顔を伏せ、ぽつりとつぶやいた。
「乱定剣、ですか」
伊作は息をのんだ。
剣とついているものの、得意武器というには不適当かもしれない。特定の武器を使うわけではない、その場にあるものを用いて切り抜ける技術。
持ち物を取捨選択する忍者としては、身に着けていなければならないが、戦闘というよりは逃げるために使うものだ。
「わしとしても、学園長の意向を支持する」
果報行者は重々しく伝えた。
「彼の不運は徳を積むことで発動を遅延させることができる。であるなら、人を殺傷するほどに、不運の発動が早くなる可能性がある」
土井先生の顔色が変わる。
「……後衛向きの忍者として、育てよと」
「左様。集団での任務は、得意武器によって、前衛と後衛の担当がある程度決まってくるじゃろう。前衛には向かん。もちろん卒業を目指すなら、どちらもできるようになってもらうが、将来の保険じゃ」
外から鹿威しの音が聞こえてきた。
「――同室の食満留三郎は、得意武器に鉄双節棍を選んだらしいな」
学園長先生の言葉にはっとする。
「当初は刀か槍を考えていたというが……。本人はなにも言わないが、不運で武器の操作を誤っても、怪我をしにくいものを選んだのではないか?」
伊作は黙り込む。
刃は切れる。火薬の類は暴発する。打撃武器ならば、打撲はあるものの、不可逆的な怪我にはなりにくいのではないか。
得意武器を選ぶにあたって、留三郎とそんな話をしたことがある。
留三郎が鉄双節棍を選んだ理由は、本人はなにも言わないし、伊作も聞けない。
「……ともかく、保健委員としての活動を頑張るように」
果報行者は言葉少なにそう言った。
「――当時は、得意武器を決めるのは、早ければ早いほどいいとされていたんだ。長次、仙蔵、文次郎はもう一年生の時から決めていたしね。そういうわけで、僕の選択肢は乱定剣しかなかったんだ」
ごりごりという音が止まる。
「留三郎には、悪いことをしてしまったよ」
医務室は急に静かになった。
乱太郎の寝息は聞こえてこなかった。