「混合ダブルスサバイバルオリエンテーリングの後、怪我人の手当で保健委員会は忙しかった。二学期中は責を全うせよとのことで、学級委員長も引き続き補助にまわった。だが、異変が起きた。二年生を中心に、伊作の手当を拒否するようになった。少なくとも、私の知る限り、伊作の不運が手当に及んだことはない。あいつの手当は正確で、同級生は誰だって、怪我の手当やら健康診断を受けた。それなのに、伊作以外に手当をしてほしいと言い出し始めた。私と長次は、情報を集めるとともに、留三郎に、伊作から話を聞いてほしいと依頼した」
仙蔵が二杯目のお茶を注ぐ。
喜八郎は空になった湯呑を差し出し、注がれるのを黙って見る。
「原因はすぐにわかった。学園長先生の庵で伊作と幻術使いが話しているところを、二年生が聞いてしまっていた。聞いた者は、『おまえは呪われている』と伊作に言ったそうだ。委員会活動を通じて、一年生、現在の五年生の代にも伊作は危ないという噂が広まり始めた。学級委員長達自身も、身をもって不運に見舞われている。伊作の人柄がよくても、不運についての情報操作をするのは無理筋だった。伊作に優先的に手当てをさせるという流れが保健委員会にはできていたが、患者が拒否して怪我が悪化するのは避けねばならない。無用な争いを避けるためにも、伊作の手当を拒否する者には、できるだけ希望に沿うようにした。ほどなくして、二年生は、私と文次郎、長次、小平太、留三郎以外は、伊作以外に手当を希望するようになった」
隠していた不運について公になった以上、排斥は厳しくなるだろう。
そこでふと、疑問がわく。
「……立花先輩たちは、伊作先輩の不運について、いつ知ったのですか」
「二年の一学期、幻術使いとの伊作の会談があったときだ。今残っている六年生、伊作を除く五人が、学園長先生の庵に向かう伊作の後をつけ、話を聞いた。このことは我々だけの秘密にしようと誓った。伊作に対しても、知らないふりをしようと決め、本人が打ち明けるのを待とうという話になった」
二人は茶を飲んだ。
濃く出ていた茶で、眠気は全くこない。
「……伊作先輩の不運をどうにかするには、保健委員会で手当てを頑張る、という話ではありませんでしたか」
「ああ、そうだ。場数を踏めなくなって、伊作は目に見えて不運に見舞われることが増えた。そして三学期ともなると、二年は組は実技や実習中の集団戦闘で連携ができないほどがたがたになっていた。
授業が成り立たないため、苦肉の策として縦割り合同授業が行われた。学年を超えては組合同など、だ。そうこうしているうちに、伊作の手当を避ける生徒が学年を問わず出てきた。……悪循環だった」