伊作が不運で死なない理由   作:香枝ゆき

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第四章 六年生が三年生だった頃
(31)学級委員長委員会を選んだ理由


「私たちが三年生になった四月。委員会改選だ。一年生から三年生のなかで、伊作以外の保健委員希望者はいなかった。学園側も、無理強いはしなかった。

印象的なのが、当時二年に進級した五年生だ。

い組の尾浜が学級委員長に、久々知が火薬委員になった。……編入学・中途退学がない限り、組の構成員は変わらない。多くの場合学級委員が変わることは稀で、おのずと学級委員を務める者は固定化されるんだ。誰にでもなれるものではない。たとえ立候補しても、得票数によっては対立候補がいなくともなることはできない。

だから学級委員長がなんらかの理由でいなくなったら空席になることだってある。なのに交代したものだから、私は理由が気になった。単刀直入に尾浜に聞いたよ。『なぜ交代した?』と」

喜八郎は確かに、と内心同意する。

あの先輩二人を並べると、学級委員長らしさがあるのは久々知兵助のほうだ。投票するとなると真っ先に候補になるに違いない。

頭もよく成績優秀。今年など、火薬委員会に四年の斉藤タカ丸、二年の羽丹羽石人が入ってくるまでは、火薬委員長代理として委員会を三人でまわしていた。

「尾浜はへらりとして言った。『同室が学級委員長として頑張っていて、自分もやってみたくなった』、と。……学級委員長は、基本的に投票制だ。久々知も候補に選ばれていたのなら、久々知より多い得票が必要だ。候補が尾浜一人でも、組の過半数の信任を得なけらばならない。……久々知は学級委員長としてふさわしかった。職責も十分果たしているように思った。尾浜が力不足と侮っているわけではないが、取り立てて目立つやつではなかった。だから重ねて聞いた。『おまえはなにをした?』と」

想像できる。完全には笑っていない立花先輩と、へらへらと笑っている尾浜先輩。

「あいつは真顔になった。『学級委員長委員会に、兵助を所属させたくなかった。だから、自分が代わりに入ることにした。そのための工作を、一年の二学期から行った』と正直に白状した」

仙蔵は目を細めた。

「まずは久々知兵助が学級委員長に選ばれても、辞退するように仕向けたそうだ。『火薬委員は授業より先取りして火薬の勉強ができる。兵助は入学前から寸鉄の扱いを練習しているから、得意武器は寸鉄だ。火薬を主力で使うことはないから火薬委員所属の制限には引っかからない。一度火薬委員会を経験してみるのもいいんじゃないか』。……耳障りのいいことを言う。そして、自分が学級委員長に選ばれるように、時間をかけて立ちまわったとのことだ」

「へえ」

まるでたぬきのような人だ。

「……どうして正直に言ったんでしょうね」

「牽制だな」

仙蔵はにべもない。

「学園が行った伊作への対処は、トライアンドエラー。言ってしまえば実験の連続だ。伊作の不運の度合いを知るために、は組、保健委員会、学級委員長委員会はその身をもって検証、観察されることとなった。久々知と同室の尾浜は、保健委員の仕事をする様子を見たり、話を聞いたりして、学級委員長が不運に巻き込まれる可能性を感じ取ったのだろう。実際にそれは当たった。そして、尾浜は一年生のときは火薬委員だった。火薬庫爆発事件をきっかけにメンバーがほとんど入れ替わったが、火薬委員の仕事の引継ぎのため、一学期間は元火薬委員の出入りが許されていた。伊作に思うところあるメンバーが、いろいろ話をした可能性も高い」

「……おやまあ」

忍びとは、主君の命令に絶対だ。

死を覚悟した任務だって、命じられれば実行する。

卒業後、もし知り合いと敵同士になったら、そのときは、覚悟をしろと教えられる。

だが、二年生だった尾浜勘右衛門は、言外に、『お前たちのしたことは知っている』『自分が見極める』と表明した。

「そのときの尾浜は青かったんだ」

仙蔵が目を細める。

「だが、友人を守りたいという思いは、私は尊重したかった。私は聞かなかったことにする、と言った」

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