「……先輩とは、学級委員長委員会でお会いしたのが始まりでしたね」
仙蔵は表情を緩めた。
立花仙蔵と綾部喜八郎の付き合いは、喜八郎が一年生のとき学級委員長になったことをきっかけに始まった。
学級委員長なんてがらではない。そんな喜八郎が学級委員になったのは、滝夜叉丸が学級委員長になりたがったからだ。
「私こそ学級委員長にふさわしい」と自薦した滝夜叉丸は、初日から強烈な個性を放っていた。他のクラスメイトたちの間で、「こいつだけはだめだ」と共通認識ができるほどに。ただ、彼らが婉曲的に否を伝えても、滝夜叉丸は引かなかった。通じていなかったのかもしれない。学級委員長は伝統的に投票で決めると担任が仲裁に入り、滝夜叉丸は了承した。
喜八郎としては、学級委員長が誰になろうがよかった。結論、滝夜叉丸でもよかった。
だが、他クラスメイトが結託して喜八郎に票を入れたのだ。
喜八郎は滝夜叉丸と同室であること、恨まれなさそう、尾を引かなさそうという「なんとなく大丈夫そう」という見込みから、喜八郎は学級委員長に選ばれてしまった。
滝夜叉丸はがーんとわかりやすく落ち込んだ。喜八郎もやる気はなかったが、学級委員長委員会は他の委員会より忙しくないと耳打ちされ、穴掘りの時間をとれると思って就任を了承した。
「喜八郎が学級委員長に選ばれた理由にはさすがに驚いたがな」
「まあ、立花先輩と出会うきっかけになったので、今では感謝しています」
見るからに毛色の違う学級委員長だった喜八郎を、気にかけてくれたのはこの人だった。
ともすれば委員会の集まりをすっぽかし、穴を掘る一年生を見捨てず、面倒を見てくれた。
一学年上の先輩よりも、雑談をした回数は多い。
そのときの話題になった、『保健委員会には代々不運な生徒が選ばれる』というものは、情報操作の一環だったのだろうが。
「――さて、最初に喜八郎は言ったな。『伊作の不運を、穴に落ちることで消化させる――。喜八郎の穴掘りは伊作が落ちるために都合がよかったから見逃されてきた』。この推測は、当たっているよ」
喜八郎はわずかに口を開いた。
「喜八郎が学園で穴を掘り始め、ほどなくして、伊作は穴に落ちる日々を送るようになった。決してわざと落ちていたわけではない。だが、穴に落ちると、伊作は他の不運に見舞われることが少なくなったらしい。骨が折れるわけでも、ひねるわけでもない。打ち身や擦り傷、土汚れですむなら安い物だと、伊作は考えた。だから喜八郎への注意は、あまり行われなかった」