「私たちが三年生のときの二学期。伊作の学外治療が停止されてからほどなくして、『保健委員会薬品事故』があった。
新薬開発をしていた保健委員会が、製造過程で発生した有害な煙を吸ってしまい、保健委員全員が二、三日寝込むはめになったんだ。
当時の保健委員は、伊作と四・五・六年生だ。
前年・一昨年と比べ死人が出なかったこと、新薬開発をしていて失敗はよくあること、上級生がメインで調合していたことから単なる調合ミスとして処理された」
喜八郎は同じく苦い顔をする。
傾向からいえば、これは善法寺伊作の不運が影響している。
「……それは判断を誤ったのでは」
「結論から言えばそうなる。だからその後、『いろは別対抗試合死傷事件』が起きたのだろう」
――当時喜八郎は一年生だった。
いかに得意分野があろうとも、総合的にみると経験の差は埋められない。一年生は格好の標的だった。
それゆえ、喜八郎は、ひたすら穴を掘っていた。
下級生に限って言うと、人数比率は偏っていた。
い組・ろ組・は組は19:18:14。
仙蔵達の代、三年生が6:5:4、尾浜・久々知達の代、二年生が7:7:4、喜八郎達一年生が6:6:6だった。
数の上では、は組が少ない。
が、当時の試合では、勝利条件が二つ設定されていた。
・対抗戦は1日かけて行い、取った布の数が多い組の勝ち。
・ただし二組全滅した場合は、布の数に関わらず残った組が勝者。
他にも細かなルールがあった。
・身体に自分の学年色と同じ色のたすきをかけ、それが盗られたら失格。
・たすきには、組名と名前の順番の番号が振っているため、ズルは不可能。
・気絶等で戦闘不能になれば失格。
・四、五、六年生が一、二、三年生のたすきを盗った場合は、それらのたすきは得点にはしない。
・失格者はすみやかに失格者待機場所へ移動。失格後、移動中の戦闘参加や自陣への情報伝達を行うとペナルティ。
「おまえも知っての通り、い組は厳格な上下関係で、下級生は上級生の指示に従って行動した。
い組で今残っている面子を見ても分かるように、多くが突出した才能を早くから持っていた。よってい組は、三年生以下を下級生チームとして、囮に使う作戦をとった。覚えているな」
「僕がひたすら穴を掘ったやつ」
「そうだ」
喜八郎が穴を掘り、下級生らが囮として姿を見せて罠をしかけた場所に誘導し、待ち構えた三年生が飛び道具を使って穴に誘導する。そして仙蔵を中心に宝禄火矢を投げ、上級生に音で知らせ、確実にたすきをとる。
作戦はうまくいった。
うまくいき過ぎた。
――落とし穴と火薬の合わせ技が原因だった。囮役の下級生を追いかけた者たちは、落とし穴にはまり、間髪入れず、そこに降って来た宝禄火矢をまともに喰らった。
「――今にして思えば、投げるのは目つぶしでよかった」
喜八郎は黙っていた。