「――入ってこい、文次郎」
呼応するかのようにすっと戸がひかれ、地獄の会計委員長が姿を見せる。
その後ろには、会計委員長の補佐たる同級生の姿もあった。
いつからいたのだろう。
「潮江先輩、三木ヱ門……」
「聞いていたのか」
「最初からな」
喜八郎は話に夢中になっていたからか、まったく気配に気づかなかった。
仙蔵はちらりと三木ヱ門をみる。
「次期会計委員長なら、問題はなかろう。二人とも、早く入れ」
二人は静かに部屋に入り、扉が閉められた。
三木ヱ門は遠慮していたが、仙蔵と文次郎に勧められ、腰をおろす。
「田村はどこまで知っている?」
「最低限のことは説明していた。保健委員の書類処理がからむからな」
文次郎が仙蔵の問いに答える。
喜八郎が怪訝そうな顔をしていたのだろう。文次郎は、くまの残る顔を喜八郎のほうに向けた。
「万一のときの保険だ」
文次郎は話を続ける。
「俺たちが三年生だったときの二学期。例の『いろは別対抗試合死傷事件』があった。その後、会計委員会は、伊作の学外治療に対しての予算を認める、超法規的措置を了承した。だが、当時の会計委員からは慎重な意見も相次いだ。予算をつけるのは認めるが、どこまでをよしとするかの話だ。伊作の不運をどうにかするには確かに学外治療が有効だろう。だが、だからといって無尽蔵に予算をつけるのは、筋が通らない。例えば、きり丸のように、自分で学費を稼ぐ生徒からの反発は予想される」
部屋は少しの間、静かになった。
あの不運は、伝染する。本人が最も被害を被るが、周囲にも被害が出るため、対策が必要になる。
しかし、もとをただせば、それは伊作の問題だ。
苦学生と同じく、自分でなんとかしなければいけない問題だ。
不運に対処するための方法に学園が介入し、すべての費用を負担するなら、学生それぞれの事情に学園が介入・資金援助をしてもいいはずだ。
ただ、周囲を巻き込んでしまう性質と、忍術学園が伊作を退学させないという方針をとったから、対処せざるを得ないだけだ。
「……そこで、学外治療にかかった費用は学園と伊作の折半ということになった。それでもこの措置は異例中の異例だ。他に漏れれば予算会議で血をみることになりかねん。よってこの事実は、会計委員長と次期会計委員長のみに伝えている。会計委員長が不測の事態で死亡し、事実を知らない者が引き継ぐと困るからな」
喜八郎が目をやると、その視線をまっすぐに受け止め、三木ヱ門が口を開いた。
「……私はこの春に潮江会計委員長から、話を聞いた」
「へそを曲げてくれるなよ、喜八郎」
仙蔵は喜八郎が口を開く前に先手を打った。
「当時、伊作の件に関して、鉢屋・尾浜の代以下に口外禁止の措置をとった。伝承するのは、我々が六年生になり、これらの代のなかで各委員会の委員長・委員長代理を務める者と決められた。例外として、会計のみ次期委員長予定者に早期に伝えられ、他は現六年生が卒業するまでに、後任の委員長や、上役がいない委員長代理に伝える手はずになっていた。今回喜八郎が訪ねてきたから、少し早くおまえに伝えたが、遅かれ早かれ、現五年と四年には伝わる。……タカ丸は告知の範囲に含まれない可能性が高いが、今回の件、話すんじゃないぞ。他の四年・五年、もちろん下級生にも、一切漏らすな」
三木ヱ門を見やると、彼はぎゅっと口を結んでいた。
抱えるには、重すぎる。
けれど伝えるには、与える影響ははかりしれない。
「……わかりました」
喜八郎は絞り出すように了承した。