「喜八郎の掘った穴に、伊作は面白いほど落ちてくれた。記録は喜八郎がとり、学園長先生に報告した。私たちが行ったのは、穴を掘り、落ちた回数を記録し、報告するまでだ。相関関係を求めるのは先生方の仕事だった。
……その結果、一定の効果や傾向はわかった。穴を掘り、落ちることで、伊作に降りかかる不運の種類を選択できる。飛んできた手裏剣に当たったりなにもないところで転んで怪我をしたり、という不運の候補から、穴があることで穴に落ちる不運に見舞われる、という確率があがるからな。
だが、完全には、不運の消化には至らない。毎日一回落ち続けても、学外治療を中心として徳を積まなければ、そのうちばかでかい不運に見舞われるということが判明した。成果はあったものの、工作委員会設立は立ち消えになった。委員会として活動するには至らない。喜八郎個人のやりたいこととして、好きにさせろ、という方針に決まった」
「では、作法委員会の新設は」
「当時、学級委員長委員会の職務が多かった。そして、用具委員会の負担も増えていた。よって、仕事を一部切り取り委員会を新設する考えができたんだ。忍術学園の行事においてのルールを策定したり、生首フィギアの取り扱いであったり。他の委員会が担っていたいくつかの仕事を巻き取って、作法委員会が今年新設された。活動内容の性質上、学級委員長委員会出身の私、喜八郎、藤内をメンバーに。入学してきた一年生も加えるということになった。……念の為言っておくが、作法委員会は伊作に特化した対応策をとる活動はしていない」
「それにしては、からくり好きな一年生がいるが」
会計委員二人からの相次ぐ指摘に、仙蔵は息を吐いた。
「……工作委員会の構想が一部残っていることを否定はしない。作法の活動内容も、今後変わっていく可能性はある」
作法委員会のみに伝達したいことがあるのかもしれない。
仙蔵の回答は歯切れが悪かった。
察したのか、文次郎は、さらに踏み込んだ問いを発することはなかった。
「……邪魔したな。行くぞ、三木ヱ門」
文次郎は立ち上がり、後輩を促す。
「は、はい。しかし潮江先輩はどこへ……」
「伊作に書類不備を通告する。おまえはもう戻って寝ろ」
文次郎がすたすたと部屋を出て、三木ヱ門は仙蔵にぺこりと頭を下げた後、追いかけるように退出した。
気配が完全に消え、仙蔵は口を開いた。
「……行ったな」
「はい」
やはり潮江文次郎は、空気を読んでこの場をあとにしたらしい。そうでないと、自室でもあるのにわざわざ出ないだろう。
「どこの委員会にも、他の委員会には口外していない活動の一つや二つ、あるものだ。上級生になると察する活動内容もあるが、各委員会のトップと補佐しか把握していない活動だってある」
各委員会のトップと補佐しか把握していない活動の一つが、会計委員会の保健委員会の学外治療の予算づけだったのだろう。作法委員会にとっては、委員会の設立理由、か。
「……もう潮江先輩や三木ヱ門に話してしまったのでは?」
「あれは話しても構わない内容だ。会計委員会の予算同様な」
涼しい顔で答える仙蔵は、すぐに真顔になった。
「――作法委員会は伊作に特化した対応策はしていない。伊作だけではなく、幻術やそれに類する能力を持った生徒の情報収集、観察の記録、それらの学園長先生への報告をしている」