「僕は結構、気に入っているんです、保健委員会の活動」
抵抗するでもなく、逃げるでもなく、数馬は続ける。
「どこにいても、なにをやっても、見てくれない、そこにいることを認識してくれないことが多かった。けれど保健委員会に入って、先輩方が、すごく歓迎してくれた。そのときのことを、よく覚えています」
伊作は思い返す。
四年生だった春の日、新しい保健委員が入ってくると、新野先生から告げられた。
当然のように、保健委員会内では上へ下への大騒ぎとなった。
伊作の同級生や下級生は、不運な目にあったり、伊作を避けたりで、誰も保健委員に残らなかった。
下級生が誰もいない。保健委員会の存続が危ぶまれるほどで、そんなときに届いた吉報だった。
だからよく覚えている。
初めて委員会で顔を合わせるとき、当時の保健委員が全員予定より早く医務室にやってきて、戸をあけ放ち、新入生をいまかいまかと待っていて。
井桁模様の制服の裾が見えたとたん、全員で駆け寄った。
新しい保健委員かと問うと、一瞬呆けた顔をして、すぐに満面の笑みを浮かべて、肯定した。
「委員会の活動は、やりがいがありました。それ以上に、委員会の先輩方も、手当をした人たちも、僕のことを認識してくれるのが嬉しかった」
伊作はすでに、数馬の腕から手を離していた。
「僕は、誰かから話しかけられて、こちらから話しかけてもわかってくれる、今の状況を、失いたくない」
数馬は振り返る。
視線が交差する。
気持ちは痛いほどわかった。
――委員会では一番年が近いのが伊作だったため、数馬はよく話しかけてきた。
万が一があってはいけないと、伊作のほうから、感づかれない程度に避けていたにも関わらず。
おそらく事情を知らないとはいえ、それがどれだけ救われたか。
絶対に、失いたくないと思った。
守りたいものが増えた。
自分が望んでもいない力で、不利益を発生させる。それを防ぐためなら、どんなことだってする。
「伊作先輩と同じように、僕は保健委員を六年間務めます。来年からは、保健委員会委員長代理として、伊作先輩のあとを継ぎます。だから、教えてください。僕に話していないことを、隠されていることを。卒業するまでに、全部教えてください」
伊作はふっと肩の力を抜いた。
「伏木蔵との話、全部聞いていたんだろう?……そうだな、どこから話そうか」
数馬は少し、目元をなごませた。
「――では、伊作先輩が不運で死ぬような目にあわないのは、学外治療を続けていることと、穴に落ちていることと、三反田数馬と力を相殺しあっていること。……この三つが理由でしたか」
この答えを聞けたなら、喜八郎はもう帰ろうと思った。
いつまでもこの部屋にいたら、六年の先輩を一人締め出している格好になってしまう。
いや、そんな表向きの理由より、大きな話になってしまったことに、戸惑い、飲み込めていないからだった。
作法委員会の知られざる仕事は、正直なところ、別の機会にしてほしい。
わがままだと、勝手だと、分かっているが、誰にも言えない秘密を抱える準備はまだできていない。
「それらも関係あるが、他にも理由がある。それゆえ、作法委員会の特別な仕事は存在しているし、伊作は生きている」