伊作が不運で死なない理由   作:香枝ゆき

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第七章 六年生が六年生になった頃
(47)出前授業がない理由 


「――僕から話せることは、これくらいかな」

伊作が話し終えると、数馬はゆっくりと、乱太郎が眠っている方を見やった。

「やっぱり、伊作先輩も同じ意見でしたか。乱太郎が入ってきてから、僕が見つけてもらいやすくなったんです。『影が薄いね』って、笑って言えるレベルになったというか」

「分かるよ、それ。笑いごとでおさまるようになったよね」

二人は少しほほ笑みあい、すぐに顔を引き締める。

「このことはくれぐれも内密に」

「もちろんです。知られたら最後、僕らのようなタイプとはまた違う困りごとが発生してしまいますから」

物理的に弾除けにでもされたら困る。

あるいはどこかの城にさらわれでもしたらたまらない。

お互いに、果報行者から言われているのだ。

能力のことは、基本的には知られるな、と。利の方よりも、害のほうが大きいと。

「数馬の影の薄さのことを考えると、乱太郎には保健委員をずっと続けてほしいんだけど、無理強いはできないからね」

「はい。それはわかっています。今年、果報行者は特別授業をしにきませんでしたし、知らないままで生をまっとうできるなら、力については知らない方がいいと、僕は思います」

「そうだね」

医務室は、しんと静まりかえっていた。

「……それにしても、どうして果報行者は今年は来なかったんでしょうね。卒業後の身の振り方も、今のうちから相談したかったのに」

そこまで口にして、数馬ははっとした。

卒業を控えた先輩が宙ぶらりんであることを、頭から飛ばしてしまっていたことに、発言してから気付いたためだろう。

伊作は少しだけ、ほほ笑んだ。

「……どうしてだろうね」

学外治療・数馬との力の相殺・穴に落ちる・乱太郎の力。

卒業すると、この四本の柱のうち、二、三本はなくなってしまうことを覚悟しておかねばならない。下手をすると、死に直結してしまうかもしれない。

それでも焦りを見せない伊作に、数馬はかすかな違和感を覚えたようだった。

「……ほら、そろそろ戻った方がいいよ。明日に差し支える」

数馬はためらいながらも、立ちあがった。

「保健委員会委員長代理として必要な知識ややるべき業務は、おいおい引き継ぐよ。さすがに今すぐに全部は無理だから」

「わかりました。伊作先輩、お話しできてよかったです」

数馬はふっと、姿を消した。

伊作は部屋のすみで眠る乱太郎と伏木蔵を見た。

布団のそばににじり寄り、あどけない顔を見つめる。

「おまえの力はすごいね、乱太郎」

伊作は乱太郎の頭を撫でた。

 




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
構想していた物語はここで終了です。

少し時間を置いて、手直しをしていきたいと思っています。
すでに公開済みの話に割り込む形で話を追加する可能性がありますが、未定です。
(追加する際は、(45)-2のように、分かりやすいようにナンバリングする予定です)

閲覧、お気に入り、しおり、感想、どれも大変励みになりました。

2025.7.10

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