伊作が不運で死なない理由   作:香枝ゆき

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(6)入りたい委員会を聞く理由

「学園と、先輩方は、伊作先輩の不運について、何かを知っていて、隠しているということですか?」

「周囲に無頓着すぎるのもよくないぞ。忍びになるならなおさらな」

仙蔵は肩をすくめる。

「まあ、喜八郎が知らなくても無理はない。学園を守るため、緘口令だってしかれていたのだから」

「……それは、僕が立ち入って聞いてもいいことなのですか?」

喜八郎が今さらながら確認をとる。

忍術学園では上級生のみに開示される情報がある。

それは先生方から受ける任務であったり、なにがしかの機密情報であったりする。

下級生のうちは知らなくとも、四年生にもなると、自分たちには与えられていない情報があるということにはなんとなく気付き始める。

だが、こちらから聞いてはいけない。

情報が与えられないのは実力差の証であるとわきまえなくてはならない。

今回の件、喜八郎は突き進んで最も信頼できる先輩のもとへ飛び込んでしまったが、今では一線を踏み越えた自覚があった。

「喜八郎。学級を含めて、忍術学園に委員会はいくつある?」

仙蔵はすぐには答えず、喜八郎に質問を返した。

何か意図があるのだろう。

「九つですけど」

喜八郎は素直に答えた。

「そうだ。我々作法を入れて九つ。……ときに喜八郎、来年委員会を変わる予定はあるか?」

委員会の任期は一年。例年春に所属委員を選択する機会がある。委員会は各組単位で選出するが、学年が上がるごとに人数は減るため、対抗馬はまともにおらず、選び放題だ。上級生ともなると、滅多なことがない限り個々人の希望は通る。

「ありません。作法にいます」

仙蔵が委員長を務める作法委員会は、現五年生がいない。仙蔵が抜けると、最上級生は喜八郎になる。

無事進級したら喜八郎も五年生だ。五年生ともなると、委員長代理を務めることも視野に入ってくる。

喜八郎がいくら我が道を行く性質を持っていても、次期四年生の浦風藤内に運営を丸投げする気持ちはなかった。さすがに委員長代理を四年生が務めるのは荷が重い。

「学級から鉢屋先輩か尾浜先輩が移籍する話でも出ているんですか?あそこは次期六年が二人もいますけど、作法は僕が守りますのでこちらに来なくていいです」

間髪入れずに答えた喜八郎は、膝の上で拳をぎゅっと握りしめた。

ましてや、作法は今年新設されたばかりの委員会だ。自分たちが委員会をつくってきたという自負がある。ぽっと出の上級生に率いられる気もなかった。

「僕は立花先輩以外の人にごちゃごちゃ言われたくないです。ましてや後から作法委員会に入ってきた誰かに上に立たれるなんてごめんですね。後輩たちも同じ気持ちでしょうし、まだ僕が上に立った方が委員会も成り立つでしょう」

仙蔵は喜八郎の本心を聞き、目元をやわらげた。

「ありがとう、喜八郎。おまえなら安心して委員会を任せられる」

つい委員会の今後について熱い思いを持ってしまったが、今は伊作先輩の不運の話をしていたはずだ。

「あの、僕の委員会の話が、どんな関係が……?」

「いい質問だ。伊作の話をする前に、喜八郎が、作法委員会委員長代理になるつもりなのかの確認をしたかった」

現在、忍術学園に在籍する五年生は五人。四年生も編入生を入れて五人。来年、人数的には上の学年二つで委員会トップの席を埋められる。

全員進級することが前提の皮算用だが、ここまで残って来た面子なのだ。試験に落ちることはないと踏む。

やはり、学級委員の五年生どちらかが、上級生が手薄な委員会に移籍するのだろうか。

そんな思考を読んだように、仙蔵は口を開いた。

「学級委員の五年生は委員会を変わる気はないと言っている。他の五年も、四年生も恐らく変わらないだろう」

それはそうだろうな、と喜八郎は思う。

愛着もあり、今までの経験がある。上級生になってわざわざ委員会を移ろうという変わり者はいない。

が、仙蔵の言うことが事実だと、学級に二人、最上級生が所属することになる。委員会トップの席が一枠埋まらない。

現在の四・五年生が誰も所属していない、保健委員会。

「――待ってください。次の保健委員会委員長代理は、三反田数馬がなるんですか」

「そうだろうな。委員長は六年生しかなれないが、委員長代理は学年の縛りがない」

「学級の先輩どちらかから一人持ってくるべきですよ、荷が重いです」

現在、四年と五年がどちらも所属している委員会は火薬しかない。

ただ、それも一人は編入学生のタカ丸さんだ。動かすのは現実的ではない。

圧倒的に、上級生の人手が足りない。

「そんなことはわかっている。だが、お前も含めて、上級生は誰も保健委員会に入りたがらないだろう」

言葉に詰まる。空気が変わった。

「あそこは特殊だからな」

喜八郎は思い返す。

一時期保健委員会の仕事を手伝っていた時、よく不運な目にあっていたことを。

そして手伝いをやめたとたん、それまでの不運が嘘みたいに消えたことを。

「――伊作の不運の話は、各委員長か委員長代理に引き継ぐ手はずになっている。伊作の同級から聞いた方が説得力も増すということで、私たちが卒業する前には直接話しておくことになっていた。……いつ話そうかと思ったが、今日喜八郎のほうから来てくれて、私も踏ん切りがついた」

仙蔵は足を崩す。話が長くなるとでもいうように。

「今から臨時の作法委員会を始める。活動内容は、伊作の不運について、私たちが知っている情報すべての開示・継承。これから委員長・委員長代理が後継者に口伝で伝えることになる」

喜八郎は仙蔵にすすめられ、足を崩した。

「私もあまり、話したいものではない。だから頼む。一度で聞いて覚えてくれ。……そうだな、まずは、私たちが一年生だった頃のことを話そうか」

 

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