伊作が不運で死なない理由   作:香枝ゆき

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第二章 六年生が一年生だった頃
(7)あほのは組と言われる理由


「五年前、私を含め、三十六人が忍術学園に入学した。今でこそ入学金をおさめた順に組み分けされるというが、当時は明確に組ごとの特色があった。成績優秀な『い組』、個性的な『ろ組』、心根の優しい『は組』。私たちの代もおおむね当てはまっていた」

「今の一年もそういうところ、ありますね。兵太夫を見てたらそうは思いませんけど、一年は組は『あほのは組』なんて言われているとか」

「そうだな……『あほのは組』なんて、また聞くとは思わなかったよ」

過去を懐かしむ表情に、喜八郎は踏み込んでみる。

「……六年生の先輩が一年生だったころ、は組の先輩たちはそんなに成績が悪かったんですか?」

「万年ドベだ」

真顔の仙蔵に、喜八郎は目をしばたかせた。

今の六年は組の先輩二人からは、想像できない。

「教科はそうでもなかった。実技が最悪だった」

前言撤回。想像できる。一年は組の実技の授業では、手裏剣があらぬ方向に飛んでいくと聞く。石も投げれば味方に当たる。そういった事態が起きたのだろう。

「あとから振り返ると、伊作の不運だったのだと思う。――私も組が違うから、伝聞情報が多いのだが」

そう前置きしたうえで、仙蔵は極力主観を排した事実を述べた。

 

――五年前、六年生が一年生だった頃。春。

『一年は組の実技負傷率が飛びぬけて高い』

伊作を筆頭に、手裏剣を投げたら自分に返ってくる。剣術で素振りをしたら手から離れてどこかにいく、などの事態が頻発した。

空いた時間に鍛錬をした者もいたが、たいがいは怪我をして医務室へ行くことになった。

新入生が入学直後の実技授業でへまをするのは珍しくない。だが、授業のたび、毎回のように誰かが医務室送りになるケースが多い。新野先生が気にしていた。実際に数値にも表れた。

あまりにも一年は組が医務室に行くものだから、一年上の先輩からは「あほのは組」と言われ始めた。

「――もう脱落した、私たちの同級にも、そういうことを言う奴はいた」

成績優秀な組であったら、そんなことを言う者もいるだろう。

「……立花先輩は、そんな奴らとは違います。人を貶めるようなこと、言わないでしょう」

ありがとう、と仙蔵は言う。続けて「だがな」と自嘲気味に笑った。

「私は、体も小さく実技の授業で遅れをとることが多かった。だから実技で負傷することもあると、人ごととは思えなかっただけだ。文次郎は同室で私のことを見ているから、同じくそんな悪口は言わなかった。――喜八郎。正式に、作法委員長代理になったら、医務室で新野先生か委員長代理に当時の記録を見せてもらうといい。本当に、当時の一年は組は怪我だらけだから」

「そんなことをしなくたって、立花先輩の言うことを疑ったりなんかしません」

「喜八郎はそうかもしれないな。ただ、時が経つごとに、疑う者も多くなるだろう。そのために、記憶を裏付ける記録は必要だ」

話を続けよう。

仙蔵が言った。

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