「忍術学園では様々な忍術を学ぶことができる。ここは最高峰の教育機関と言っていいだろう。だが、忍術学園が通常の授業で扱っていない領域がある。喜八郎、思い当たるか?」
通常の授業、というのが引っかかる。
そして、仙蔵が喜八郎に考えさせようということは、すでに答えはあるということだ。
「……思い出しました。一年生の頃、幻術使いが一人来て、出前授業を学年全体で受けた気がします」
「そうだ。幻術は、一年生の一学期に、幻術使いを招いて出前授業を受けるのみだ。私たちも、一年生の時、それを受けた」
――三十六人を校庭に集めて、各担任の先生方が前に立った。
真ん中に立っているのは幻術使いが二人。一人が高齢の男性、幻術使いの
今からなにが始めるのか。仲間内で話す一年生を、先生方が注意した。
「よい」
果報行者は咳ばらいをすると、くるりと後ろを向き、おもむろに虚空に手を伸ばした。
びりっ。
布が破けるような音がしたかと思うと、果報行者は景色をそのまま写し取ったような布を手にしていた。
幻術使いの弟子は微動だにしない。
忍たまは口をあんぐりあけて、あるものは震えながら様子を見守っている。
果報行者の後ろには、人が一人通れるほどの穴が開いている。穴の向こうには明らかに別の風景が見えている。
「全員、その場を動かぬように。わしの姿が消えたら、一年生の教室の方を見ること」
果報行者は顔だけ動かしてそう言い残し、自分が作った穴へ足を踏み入れた。
一歩、二歩。穴の奥へ移動して、すぐに姿は見えなくなった。景色をそのまま写し取ったような布のようなものが、べろりと垂れ下がっていた。
「き、消えた!」
「うそだ!」
口々に一年生が悲鳴をあげるなか、先生が言った。
「こら、お前たち!さっきなんと言われた!」
我に返り、自分たちが使っている教室の方を見た。
「おおーい!」
窓から身を乗り出している、果報行者がいた。隣には、学園長先生もいた。
幻術使いは自分が作った穴らしきものに入っていっただけだ。決して窓から侵入したわけではない。
「おお、みんなびっくりしとるのお」
学園長先生が赤い羽織を脱いだのが見えた。
「さて、そろそろ戻らねばな」
果報行者が赤い羽織を着て、窓辺から姿を消した。
どういうことかと考えが回らなかった。
「おまえたち、さっきの穴のほうを見てみろ」
私たちが視線を戻すと、ちょうど果報行者が穴からにゅっと出てくるところだった。
学園長先生の赤い羽織を着ていた。
もう一度教室の方へ眼を向けると、羽織を着ていない学園長先生がこちらに向けて手を振っていた。
「すごい!どうやったんですか!?」
目をきらきらさせて、小平太がさっそく質問していた。
「これが、幻術じゃ」
果報行者は静かに言った。
後ろでは、弟子が丸い道具を持って、伸ばし出しては小さな札のようにちぎり、べろりと垂れ下がっているものを元の位置に貼り付けていた。