TS転生ペルソナ使い   作:ジェネリックペルソナ

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ではないかもしれない

 

「ンナ……ンナナンナ……(自分が不甲斐ない……、私が守らなくちゃいけなかったのに……)」

 

 うさぎさん、と呼ばれていたボンプは、少女の傍でしょんぼりとしている。内心を表すように垂れた耳が非常に哀愁漂っていた。

 

 ──馴染みのホロウレイダーになんとかコンタクトを取り、少女とボンプを救出してから数日。

 修理を施したうさぎさんはすぐに目を覚ましたが、少女はずっと眠り続けていた。

 今はアキラの部屋に寝かせている。──同性であるリンの部屋の方がいいのでは? という意見も出たが、最終的には兄であるアキラが工房のソファで眠る権利を勝ち取った。

 

「お医者さんは健康状態に問題はないって言ってたから、じきに目を覚ますよ」

「ンナナ……(うん、そうだといいのだが……)」

「げ、元気出して。ほら、お花変えてあげよう!」

 

 甲斐甲斐しく少女の世話を焼くうさぎさんは、もともとはホロウレイダーのものだったらしかった。

 

 故意に放棄されたのか、それとも不慮の事故だったのか。どちらかはわからないが、気が付けばホロウの深部に壊れた仲間と置き去りになっていた、と。

  帰り道もわからず、エーテル濃度の低い場所を見つけてどうにか暮らしていたところに少女と出会い、共に暮らしていたとも語った。それがおおよそ1月以上前らしい。

 少なくとも、少女は1ヶ月以上はホロウの中で過ごしていたことになる。うさぎさんともども、エーテルの侵食反応が出ていないことは幸運だった。あの辺りに抗侵食剤でもあったのだろうか。

 

「でも、心配だよね……。体に異常はないのに目覚めないのは、やっぱりあのエーテリアスもどきのせいかな?」

「そうだね。なんらかの関係はありそうだけど……正直、僕らとしてはお手上げだ。彼女が目覚めないと何もわからない」

 

 うさぎさんが少女の枕元に添えた花を手に持ち、花瓶に活ける。余談だが、我が家に花瓶なんてものはないので、比較的洒落た形の空き瓶で代用していた。

 

 そんな会話のせいか、それともうさぎさんの甲斐甲斐しい世話あってか。

 ベッドに寝ていた少女の指先がぴくりと動いた。

 

「────、ぅ、」

 

 か細い声を聞き付けて、真っ先にうさぎさんがベッドに駆け寄る。

 

「ンナ!!」

 

 大きな瞳と視線が合った。

 

 

 

 

 

 

「お互い、いろいろ聞きたいことがあると思うけど……。まず、体調はどうかな?」

「えっ……と、ちょっと、頭痛い、かも……?」

 

 渡された水を飲み終えてから少女は答えた。ずっと寝ていたから無理もない。こめかみを抑える動作にどきりとしたが、頭痛によるものだろう。

 うさぎさんはンナンナと嬉しそうに少女に擦り寄って、少女もうさぎさんを抱きしめた。

 

「────あっ。う、うさぎさん……は大丈夫そうだけど、プロキシさんは!?」

 

 そうやってしばらくぼんやりした後、少女はハッとしたように声を上げた。

 リンとアイコンタクトを取る。

 

「僕ならこの通り。君のおかげで無事だよ。もちろんイアスもね」

「ンナ!(ありがとう、お姉さん!)」

「…………? プロキシさんがンナンナ言ってる……? いや、え、イアス……?」

「あはは、ボンプがプロキシなわけないよ。やり方は企業秘密だけど、イアス──ボンプと同期してただけ」

「は、はぁ……。えっと、ボンプとは……?」

「……? ホロウの中でも一緒だったじゃないか?」

「ほ、ホロウ……。え、そうなの?」

 

 どうにも会話が噛み合わず、リンと顔を見合わせる。

 思えば最初からそうだった。根本的な何かを掛け違えたような会話。

 リンが恐る恐ると言った様子で少女に尋ねる。

 

「ね、ねぇ。……ホロウって、知ってる……よね?」

「………………その、知らない、っす……」

 

 

 ────結論から言うと。

 少女は本当の本当に何も知らなかった。ある分野の知識だけ、ごっそりと抜け落ちてしまったかのようにまっさらだ。

 普通では考えられないほどの無知っぷりに記憶喪失を疑ったが、受け答えはしっかりしているのでそういうわけでもなさそうだ。今までどんな環境にいたらそうなるのか全く想像できない。

 

 エーテルとは、ホロウとはなんぞやと説明されている最中、フレーメン反応を起こした猫のような顔をして聞いていた。

 ひと通り初歩的な説明が終わると、少女はがっくりと項垂れる。

 

「いま説明してくれたことって、ここでは常識なのか……?」

「うん、まぁ……。知らない人は見たことないかな……?」

「さすがに郊外の人だって、エーテルもホロウも知らないなんてことあり得ないし……。ねぇ、どこから来たの?」

 

 リンの問いに、少女はもごもごと言いづらそうに答えた。

 

「……トウキョウ都? 聞いたことない場所だな」

 

 手持ちのスマホで検索してみる。無関係なサイトをいくつか見送って、ようやくそれらしいサイトが見つかった。行政が作ったらしいHPを開き、マップと更新日時を確認する。

 間違いない────旧文明時代の都市だ。

 

「旧文明の都市か……」

「っ知ってるのか!? …………旧文明?」

 

 少女がぱあっと顔を輝かせ、すぐに首を傾げた。

 

「知っている、というか。旧文明はもうずっと昔に、ホロウに飲み込まれてるから……」

「ちょっ、ちょっと待って。旧文明時代の街から来たってこと? そんなのタイムスリップでもしないと有り得ないよ」

 

 視線が少女に集中する。少女は居心地悪そうに縮こまった。

 ここが未知の場所であると、自分の中である程度予想はついていたのだろう。それほど驚いた様子はない。

 

「タイムスリップか……。映画ならよくあるけど、現実では初めて見たな」

「そうなると、たぶん行く宛もないよね? うーん……。いっそ、うちで暮らしちゃう?」

「そうだね、リン。2階の物置部屋を片付けようか」

「……ま、待て待て待て」

 

 思わず、といった様子で少女がタイムを入れる。

 

「当事者の俺すらうまく飲み込めないのに、なんでそんなにあっさり受け入れるんだ!?」

「だって、嘘ついてるようには見えないもん。それに、旧文明時代から来たならなーんにも知らないことも納得っていうか……」

「うぐ……」

「悪い人には見えないし、お兄ちゃんとイアスを助けてもらったし。ほっとけないよ」

 

 リンが「ね?」と少女の顔を覗き込む。

 

「お、お世話になります…………」

 

 

 

***

 

 

 

 兄妹──アキラとリンと暮らすようになってから、しばらく経った。

 物置だったという部屋は今や小洒落たベッドやソファが運び込まれた素敵空間となっていた。余っていたと言うテレビまでついてくる至れり尽せりっぷり。

 

 タイムスリップとかよくわかんないことを言う不審者の待遇じゃないだろ。「俺が悪い奴だったらどうするんだ」と怒ってみせたこともあるが、きょとんとしてから「それ、君が言えることじゃなくない?」と言われてしまった。まったくもって遺憾である。

 

「──ショウ! 今日はこれ見よ!」

「うん。怖くない奴ならいいぞ」

「ザ・カールズか。安心して良い、ホラーではないよ。いいセンスだね、リン」

「ふふん、そうでしょ?」

 

 映像媒体は何かを学ぶのに最も適している、とはアキラの言葉だ。

 俺の部屋に集まって、3人でソファにぎゅうぎゅう詰めになって映画を見るのが恒例となっていた。

 うさぎさんないしボンプのみんなは日によって居たり居なかったりする。わからないことがあれば両隣から解説が飛んでくるので、なかなか勉強になるのだ、これが。

 

 映画を1本見終わりあーだこーだと会話していたとき、ふと思い出したようにリンが端末を俺に差し出した。画面には白いワンピースがいくつか表示されている。

 

「そうだ、ショウ。この服なんだけど……」

「……り、リン。衣食住を提供して貰ってる身で言いたくないが、俺のこと、着せ替え人形にしてないか?」

「あ、バレちゃった? ショウって私とはタイプが違うから、服を選ぶのが楽しくって」

「……。…………。リンが楽しいならそれでいいよ……」

「ショウ、嫌だったらちゃんと言うんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 そして、更に少し時間が経った頃。

 歳の近いふたりのおんぶに抱っこになるのはさすがに申し訳なくて、最低限の常識をどうにか詰め込んでバイトを始めた。自費で服を買いたくなったとかそう言うわけじゃないからな。

 

 バイト先はルミナスクエアにある個人経営の喫茶店だ。この喫茶店はメニューなどが英語で表示されているので、この時代の文字が読めない俺でもなんとかやれている。

 大通りに面していないので、客足が落ち着いているというのも大きな理由だろう。

 

 マスターにも良くしてもらっているし、ふたりには心配されたが、なかなか順調なんじゃないか?

 この調子でいけば、生活費としては申し分のない額が渡せそうだ。

 

「お疲れ様っした!」

「ああ、明日もよろしく頼むよ」

 

 ニコニコするマスターに軽く頭を下げて退勤する。

 

 そのまま駅に向かって歩いていると、路地の方から何やら話し声がした。反射的に暗がりの方へ視線を向ける。

 

「いいじゃん、メイドなんだろ? 俺にもご奉仕してくれよ」

「か、カリンは、その……うぅ……」

 

 そこにはメイドが居た。……メイド? メイドとか居るんだ、この時代。

 柄の悪そうな男に詰め寄られ、気の毒なくらい狼狽えている。不安そうにツインテールを握りしめる姿は非常に不憫だった。

 

「おい、嫌がってんだろ。メイドさんに憧れるのはわかるけど、諦めろよな」

「!」

「はぁ? なんだよ。じゃあ君が相手してくれんの? 俺は別に君でもいいけど」

「えっ? い、いや、俺は……」

 

 やばい、メイドとか関係なく見境ないタイプだった。

 メイドさんを庇う形で二人の間に腕を差し込み仁王立ちしていたが、思わぬ返答に狼狽えてしまう。

 ど、どうしよう。おろおろしていると、とうとう庇うように広げていた片腕を掴まれてしまった。思いのほか力が強い。

 

「痛っ……」

「……! や、やめてください!」

「なんだよ、俺が悪者みたいじゃねぇか。腹立つなぁ」

 

 痛がる俺を見てメイドさんが声を上げた。気弱そうに見えるが、他人のためならハッキリと声を上げられるらしい。すごい良い子だ。

 

 けれど、そんな俺たちの様子で気分を害したらしい。男の雰囲気があからさまに剣呑なものになる。

 暴力沙汰はさすがにまずい。懐にある召喚器が脳裏を過ったが、こんなところでそんなモン出すのは論外である。

 

 振り返らず男を見たまま、後ろのメイドさんに向かって逃げるようにハンドサインを送る。下手くそ過ぎて伝わらないかもしれない。頼む、伝わってくれ……!

 

「なんとか言ったらどうなんだよ、えぇ!?」

「もー、うるさいな。なんとか、かんとか、なんとか! これで満足か!?」

「ッこのアマ────」

 

 恫喝じみた凄みに思わず反論してしまった。やばい、いよいよ手が出るかもしれない。助けに入ったつもりだが、俺のせいで状況悪化してないか? メイドさん、頼む! 早く逃げてくれ!

 

「──そこ、何をしているんですか!?」

 

 この辺りを巡回していたらしい警察──治安官が声を上げた。まさに神の一声である。男は治安官の姿を認めた瞬間、脱兎の如く逃げ出した。

 

「待ちなさい! ……いえ、それよりも優先すべきことがありますね。お怪我はありませんか? 何があったのか、詳しくお伺いしても?」

 

 居候先の事情もあって一瞬ドキリとしたが、今の俺はどちらかと言うと被害者だ。問答無用でしょっ引かれることはない、はず。

 経緯はなんとなく推測できるが、俺から説明するよりもメイドさんが説明した方がいいだろう。そう思ってちらりとメイドさんを見る。メイドさんは俺の視線を受けて、まごつきながらも説明を行った。

 

 ──守秘義務があるため詳細は伏せるが、ある業務の途中で所用があり路地を歩いていたところ「奉仕してくれ」と声をかけられ、メイドさんはこれを拒否。しつこく迫られていたところで、俺が現れメイドさんを庇った結果、男が逆上した、と。

 

 おおよそ予想通りな説明を受けて治安官は嘆息した。

 

「……人を助けようとする志は立派ですが、今後同じようなことがあれば、自分で解決しようとするのではなく、まずは我々治安官を頼るようにお願いします」

「は、はい。すみません……」

「なんにせよ、大きな怪我も無くて何よりです。それでは、巡回の途中ですので」

 

 そう言って治安官は去っていった。ちょっぴり釘を刺されたが、一般市民(?)である俺を慮っての言葉であることはすぐにわかった。終始キリッとした表情だったが、眉が下がっていたからだ。

 残されたメイドさんと顔を見合わせる。

 

「あ、ありがとうございました」

「いや、結局何も出来なかったし。治安官のお姉さんがいなかったらどうなってたか……」

「そ、それでも。貴女のおかげで、カリン、とっても心強かったです。ご迷惑じゃなければ、お礼をしたくて……、連絡先を教えていただけませんか……?」

「ごめん、俺、携帯持ってなくて……」

「えっ、そ、そうなんですか……」

 

 ……バイトのシフト増やそうかな。携帯っていくらぐらいなんだろう。

 メイドさんは良い子なうえに義理堅いらしい。見るからにしょんぼりしてしまったメイドさんにどうしたものかと眉を下げる。

 

「俺、この先の海沿いにある喫茶店で働いてるんだけど。もしお礼をって言うんなら、お店に来てくれると嬉しいな」

「……! は、はい! カリン、絶対にお伺いします!」

 

 メイドさんはぱっと顔を輝かせて、何度も頭を下げながら去っていった。

 

 メイドさん──カリンちゃんは有言実行の女であるらしく、それからしばしば俺のバイト先に姿を見せるようになった。たまに同僚っぽい人たちと一緒に来たりもする。

 これに1番喜んだのは「通りのカフェに客が吸い込まれる」とぼやいていたマスターだ。肩をがっしり掴まれてお褒めの言葉をいただいた。

 

 俺はカウンター席でナポリタンを食べるカリンちゃんと会話しながら仕事ができてハッピー、マスターはお客さんが増えてハッピー、カリンちゃんは落ち着いて昼休憩が出来る場所があってハッピー。Win-Win-Winである。

 

 

 

「おかえり、ショウ!」

「ンナ!」

 

 そんなこんなでいつも通りバイトを終え家に着くと、うさぎさんとリンに出迎えられる。……我ながら恐ろしい馴染みっぷりだ。

 

「俺もボンプ語がわかればなぁ……」

「うーん、まぁ、ボンプ語ってクセあるよね」

 

 今のンナ!は「おかえりなさい。ご飯は出来ているよ」らしい。ンとナの2文字でなんでそんなに意味を持たせられるのか、全くわからない。

 

 うさぎさんに先導され、食卓に向かう。今日は塩鯖らしい。つやつやの米をお椀に盛っていた。ご飯──というか、家事の当番は気持ち俺多めのローテーションで回している。居候だからな、それくらいやって然るべきだろう。おかげで平均程度だった家事スキルが鰻登りである。

 

 父さんと母さんにも手料理を振る舞ってやりたいと考えて、ふと我に帰る。あまりにも馴染み過ぎて完全に旅行気分だったが、そういえば俺って時空レベルの迷子だった。

 

 そもそも帰ることが出来るかすらも不明な身だ。

 世知辛い事実にしょもしょもしながら味噌汁を啜っていたら、うさぎさんに「ンナンナ」と心配されてしまった。優しい。味噌汁はすげえ美味しいから安心してくれ。

 

 

 ……というか、本当に俺はタイムスリップしたのか? という疑問はある。

 

 エーテルにホロウ。災厄に抗う終末世界。俺の居た地球と地続きと考えるには、なんていうか──あまりにも、小説っぽい。おまけに所持していたS. E.E.S.の召喚器。

 プレイしたことがない何かしらのアトラス製ゲームの世界に来たと考えた方がしっくりくる。

 ほら、アトラスってすぐ東京を滅茶苦茶にするし。今回は東京どころの規模じゃないけど。

 

 あと、単純に性転換してるのが全く意味わからない。戻れるんだろうかこれ。今はなんだかんだ楽しんでいるが、万が一元の時代に帰れるってなったら性別も戻してもらわないとかなり困るぞ、これ。

 

 とはいえ、ここが本当にゲームの世界であると言う証拠もない。俺のこじ付け、ともすれば妄想に過ぎず、ふたりには伝えられないでいた。

 旧文明について詳しく調べることが出来れば1番いいんだろうが……。文字の読めない俺がすぐに調べられることは限りがあるし、文献ないし資料が残っているとも限らない。

 

 何かわかりやすいイベントでもあればいいんだけどな。

 




裏話:もし治安官が居なかったら、メコメコにされていたのはナンパ男の方。
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