TS転生ペルソナ使い 作:ジェネリックペルソナ
「こんな話読みて〜〜!」で好き勝手書き散らしている文章ではありますが、暇つぶしになれたのなら幸いです。
思い付いたことがある。
俺の所持していた召喚器。何故俺が持っているかも不明なこれを調べれば、この状況について少しは何かわかるんじゃないか?
そうなると、やっぱりペルソナ召喚だろうか。ペルソナ──タナトスとも意思疎通出来るかもしれないし。ホロウでの出来事以来試したことはないが、やってみる価値はあると思う。
むしろどうして今まで思いつかなかったの? って感じだが、俺も俺でこの世界に馴染むのに必死なのだ。こういうことに思考を割けるようになったことこそ、落ち着いてきた証拠だろう。たぶん。
「……? しょ、ショウさん。それ、お砂糖じゃなくてお塩じゃ……」
「…………あ。やべ」
カリンちゃんが止めてくれなかったら砂糖ではなく塩で出来たガムシロップを作るところだった。バイト中に考え事なんてするものじゃないな。マスターに怒られてしまう。
今度こそシュガーを取り出して鍋に入れる。木べらを片手に古き良きガスコンロを点けた。
コーヒーこそ淹れられないが、こういった作業であれば任せて貰えるようになってきた。もっと頼りにしてほしい。そんでもって時給を上げて欲しい。
「そういえば、この間エレンさんが友達と一緒に来たよ。マスター、すっごい喜んでた」
「は、はい。エレンさんもお店を気に入ったみたいで、お仕事中もよくお話されてます」
「本当か? おすすめしてくれてありがとう、カリンちゃん」
「いえ、カリンもこのお店のこと、素敵だなって思っているので……」
うーん。思い立ったが吉日と言うことだし、今夜試してみよう。……家でやるのは流石にまずいよな? 六分街の高架下にある空き地あたりに行ってみるか。
*
というわけで、深夜1時頃。
みんなを起こさないようこっそりと家を抜け出してきた。肌寒い空気がいかにもな感じで怖気を誘うが、ビビってもいられない。
真っ直ぐに目的地に向かう。
それほど時間をかけずに空き地へ辿り着いた。日中ですら人気の無い場所で、真夜中とあれば尚更だ。
「すぅ──……はぁ──……」
点滅する街灯の下、深呼吸を何度か繰り返す。お守りよろしく持ち歩いていた召喚器を取り出した。ずっしりとした感覚が酷く重い。
ロケーションも相まって、いけないことでもしているみたいな感覚だ。
ゆっくりとこめかみに召喚器を押し当てる。この感覚は2回目だが、すぐに慣れるものでは無い。
緊張で震える指先に、ぐっと力を入れた。
「────ッ、……。…………?」
カチ、カチ、カチ。
何度トリガーを押しても手応えがない。
「……出ない…………?」
緊張からか、気付かない間に息を止めていたらしい。大きく息を吐き出して脱力した。
……出ないとかありか? 拍子抜けにもほどがある。
ペルソナを呼び出せないと来れば、俺の計画はおじゃんである。何もしていないのにどっと疲れて、その場に座り込んだ。
なんでだろう。前と今回、何が違う?
「…………あ。……場所、とか?」
ペルソナは通常、影時間とかマヨナカテレビとか、パレスとか。そういった特殊空間で呼び出されることが多い。であれば、ホロウでしか呼び出せないとか、そう言うこともあるかもしれない。
うーん。でも、ホロウってそう簡単に入れるものだろうか?
……これ以上迷惑をかけるのは本意じゃないが、機会があればアキラとリンに相談してみよう。
「……帰るか」
目的を果たせなかった以上、ここに居る意味はない。
よっこらせ、と立ち上がる。肩を落としたまま帰路についた。
そのまま大通りに出ようとしたとき。どさっ! と何かが落ちるような音がした。脇にある路地の奥から聞こえたように思う。
人っ子ひとりいないド深夜だ。
音の発生源なんて風とか猫とか、そういうのに限られるが、それにしてはやけに重い音だった。
……まさか、おばけじゃないよな?
以前リンに見せられたホラー映画が脳裏を過ぎる。深夜、不審な音を聞きつけた主人公は、「どうせ猫か何かだろう」と確かめることなく帰ろうとして……。
……ウン、おばけじゃないことを確かめてさっさと帰ろう。たぶんあの……うさぎとかじゃないか? そう、絶対そうだ。
そう思って路地の方を覗き込む。幸いなことにおばけは居なかったが、そこには人が倒れていた。
「……え、おい、大丈夫か!?」
慌てて駆け寄る。暗がりでよく見えないが、仮面をつけた男だ。あまりにも既視感。赤と黒のロゴが見えた気がする。こんなところで
大変怪しいが、ぴくりとも動かず倒れている人間を放っておくわけにもいかない。
見たところ外傷もないので一瞬酔っ払いかと思ったが、それにしてはアルコール臭がないな。呼吸は正常に見えるが、素人なのであんまり自信はない。
「こういうときは、とりあえず回復体位……か?」
意識のない人間の体は思いの外重く、動かすので精一杯である。
着ていたカーディガンを畳んで厚みをつけて、頭部の下に敷いてやる。これで頭も手も痛くないだろ。……ちなみに、このカーディガンは俺のバイト代で買った正真正銘俺の物なので、多少汚れても問題ないぞ。
「うーん……。どうしよう。俺携帯持ってないし、そもそも救急番号が119でいいのかどうか……」
「……、………ぅ……」
「! 意識はあるか? 大丈夫か?」
呻き声に耳を傾ける。ものすごく声がか細くて断片的にしか聞こえてこないが、こちらに何かを言おうとする意思は伝わってくる。
「…………と、う……」
……………………とう?
党、塔、唐……どれもしっくりこない。もしかして……糖、か?
え、お腹空いてるだけ? 倒れるレベルって、過酷な食事制限ダイエットでもした? そういうのは逆に体に良くないぞ。
うーん……。そんな都合よく食べ物持ってるなんてことないだろ、と言いたいところだが。
ポケットの中を漁り、最近ハマっていたチョコレートを取り出した。
アキラ曰く「暴力的なレベルの甘さ」、リン曰く「超弩級のカロリー爆弾」と評されていたこれであれば、一粒で満腹間違いなしだろう。万が一お腹空いた時の夜食にと持ってきていて正解だった。
個包装の袋を裂いて、さらにその下の銀紙をべりべりと剥がした。露出した糖分の塊をそっと口元に添えてみる。
「えっと、チョコレートだ。もしお腹空いてるなら食べてくれ。その……ご飯はちゃんと食べたほうがいいぞ」
「…………、」
あ、食べた。
チョコレートの甘さのせいか、仮面を着けていてもわかるほどに険しい顔をしている。
俺的にはすごく美味しいと思うのだが、甘いものが苦手な人にはキツいのかもしれない。飲み物とかあったほうがいいかもな。
「水買ってくるから、ちょっと待っててくれ!」
断りを入れて小走りで来た道を引き返した。
近くの自販機で水を買って戻る。
……人が寝ていたはずのそこはもぬけの殻だった。
ま、マジ? この一瞬で? 辺りを見渡してみるが、周辺には居なさそうだ。暗闇のせいでよく見えないから、自信はないが。
……自力で帰ったのだろうか。元気になったならいいけど、せめてカーディガンは置いてってくれないか……?
なんとも奇妙な体験だが、ひとりの過酷なダイエッターを助けられたのであればよかった。主目的は果たせなかったが、意義はあったんじゃなかろうか。カーディガンはパクられたけど……。
*
こっそりと玄関を開けて、音を立てないよう帰宅する。電気が付けられた室内に嫌な予感がした。
案の定、アキラとうさぎさんが困ったような顔で起きて居た。
俺を見て、ンナ! とうさぎさんが足元に寄ってくる。
ンナンナと何やら抗議しているが、残念ながら俺にはなんて言ってるかわからなかった。
もちもちの体を受け止めてこねくり回す。うさぎさんは「ンナナ……」と蕩けた。……ずっと不思議だったけど、ボンプって触覚あるのかな?
「た、ただいま……?」
「うん、おかえり」
「……もしかして、起こしちゃったか?」
恐る恐る聞くと、アキラは「まぁ……」と苦笑いした。なんてことだ、ひとりと一匹の安眠を妨害してしまった。
「この家、かなり壁が薄いから。リンも気付いてたよ。時間が時間だし部屋に戻らせたけど、かなり心配してた」
「ンナ、ンナナ!」
「もちろん、僕らもね。……意味もなくこんなことはしないと思っているけど、君は未成年だ。せめて一声ぐらいはかけて欲しい」
訂正。リンも含めてふたりと一匹だった。罪状がより重くなった。
正直ド正論過ぎて肩身が狭い。ご心配をおかけしました……。うさぎさんもごめんな……。こねくり回す手を止めてうさぎさんの顔を見ると、うさぎさんは「ンナ!」と手をあげた。
「ご、ごめん。気を付ける。その、夜遊びしようとしたわけじゃないんだ。……これ、覚えてるか?」
「……! それは、あのときの……?」
「ああ。その、ペルソナ……タナトスをもう一度呼び出せるか、試したくて……」
「まさか、タナトスを呼び出そうとしたのかい?」
「うん。日本に居た時はこんなこと出来なかった。その、もう一度呼び出してみたら、何かわかるかなって」
アキラは顎に手を当てた。
「……それで、どうだった? タナトスは呼び出せた?」
「いや、ダメだった」
「それは……ある意味幸運かもしれない。市街地であんなもの呼び出したら、エーテリアスと間違われかねないからね」
そりゃそうだ。
人目が無ければオッケーかなとか思っていたが、浅慮だったかもしれない。アキラとリンに迷惑はかけられないし、もう少し慎重になるべきだった。反省点その2である。
「前回と今回。条件が違うとすれば場所だ。……今度はホロウで試してみたい。ホロウに入るにはどうしたらいいかな?」
「前にも説明したけれど、資格を持たない一般人のホロウへの侵入は違法とされている。それに危険も伴う。僕達はともかく、ショウがホロウに行くことはあまりオススメ出来ないけど……」
アキラはスマホを取り出した。慣れた手つきで画面を操作した後、こちらを見る。
「今週末、パエトーン宛の依頼でホロウに向かう予定だ。馴染みのホロウレイダーも同行することになっているから、一緒に行こうか」
「い、いいのか!?」
「ああ。何も分からなくて不安な気持ちは理解できるし、僕もあれが何なのか気になるからね」
翌朝。
リンにも心配されてしまった。(本当に壁が薄いらしく、俺が外出した理由も全てバレていた)万が一、また夜中に出かけることがあれば絶対に声をかけると約束し、許してもらう。
「……あれ? ショウ、この間のカーディガンどうしたの? その格好じゃちょっと寒くない?」
「あー……、過酷なダイエッターにあげちゃった」
「な、何事……? ショウ、何してたの…………?」
薄着による風邪が懸念されたが、リンに上着を貸してもらってことなきを得た。ありがとうリン。でもこれ、すごいリボンたっぷりで可愛すぎないか? 俺、戻れなくなりそうだよ……。
*
週末になった。
馴染みのホロウレイダーとは、どうやら俺とうさぎさんをホロウから運び出してくれた人達らしい。頭を下げてお礼を言うと、「こっちは貰うもの貰ってるんだから、お礼を言うならプロキシに言いなさい!」とそっぽを向かれてしまった。もちろん、アキラとリンにも今一度お礼を言った。
ホロウレイダー──邪兎屋、というらしい──は腕利きの3人組らしく、俺と言う荷物がいるのにサクサクとホロウ内を探索していく。
依頼の目的地であるデータスタンドは比較的安全な環境らしく、そこでペルソナ召喚を試す手筈となっていた。
データスタンドで作業するイアス──に、同期したアキラを見ながら召喚器を取り出す。
「おおっと、嬢ちゃん!? は、早まるなよ!」
「そ、そうよ! 特別にタダにしてあげるわ、何かあるなら話してみなさい!」
ペルソナ召喚の絵面のヤバさに邪兎屋の3人が目を剥いた。なんなら羽交締めにされた。
これが銃でないこと、発砲しても命に問題ないことを説明してなんとか納得してもらう。銃口を自分に向けた瞬間にこれだ、ものすごい反射神経だった。
複数人に見守られる中、銃口をこめかみに当てる。3度目ともなると若干慣れてきた。そのまま引き金を引く。
…………。
…………結論から言うと。ホロウ内であっても、ペルソナは呼び出せなかった。
まさかの収穫ゼロ。ペルソナ召喚に必要な条件はホロウじゃなかったらしい。
ペルソナ能力について調べるの、結構悪くない考えだと思ったんだが。完全に振り出しに戻ってしまった感がある。
……実は俺の心が生み出した幻覚だったりして。い、いや、アキラもリンもイアスだって見てるから、俺の頭がおかしくなったわけじゃない。……はず。
帰り道、あまりにも俺がしょんぼりして見えたのか、邪兎屋の3人があれこれと構ってきた。賑やかで良い人達だ。
「ほ、ほら! 生きてたら良いことあるわよ!」
「どうしても気分が優れないのなら、映画を見ると良いわ。ちょうど映画館のチケットが余っているの」
「映画ならスターライトナイトがオススメだ! 中でもイチオシは──」
でも、あの、もしかして俺、自殺志願者か何かだと思われてないか……?
深夜の六分街にて
主人公「なんか変なやつおる……コワ…………」
???「なんか変なやつおる……コワ…………」