TS転生ペルソナ使い   作:ジェネリックペルソナ

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忘れるべからず

 ホロウでのペルソナ召喚は失敗に終わり、振り出しに戻ったわけだが。

 ゲーム中ではどうやって覚醒していたっけ? いや、一度でもタナトスは呼び出せている訳だし、覚醒はしてるのか? それとも、召喚できない以上、あの時が外れ値だったと考えた方がいいのだろうか。

 

 この召喚器が登場していたタイトル──ペルソナ3の内容を思い起こす。

 確か、召喚器を自分に向かって撃って擬似的に死を再現することで、「死に抗う心」であるペルソナ召喚を行う、みたいな感じだったはず。

 もっと言えば、召喚器はあくまで補助具で、これがなくてもペルソナ召喚自体は可能らしいが……。どうやればそんなことが出来るのかわからないので置いておく。

 

 状況再現は出来ている、と思うんだが……。そこまで考えたところで、ふと思い出す。擬似的な死の再現。これは召喚器によるものだ。これを使う際、使用者は「死なない」と理解していても本能的な死の恐怖を感じると。

 

「………………俺に、死の恐怖ってあったか?」

 

 ────いいや、無かった。

 少なくとも2度目以降は、緊張感はあれど死ぬような思いはしていない。であれば、死に抗う心を呼び出せないのは道理……なのかもしれない。

 

 鈍く光る召喚器を取り出した。ごとりと机の上に転がったそれは、確かに見知った形をしている。

 一般的な拳銃とは異なり弾を込められる構造でないから、俺はこれを「本物」と判断した。現にこれによって1度はペルソナ召喚に成功している。

 

 …………でも。

 ペルソナとは「死に抗う心」であり。召喚器とはあくまでも死を実感するための補助具であり。……そして、2度目以降、俺は全くもって恐怖心を抱いていなかった。

 

 預かり知らぬ間に所持していたこれが「何」であるのか。ペルソナ召喚うんぬんの前に、まずはそこから確かめるべきなのかもしれない。

 

 

 ──しかし、当初の目的を振り返ってみてほしい。

 

 この新エリー都が、俺の居た地球の延長線上なのか、それともどこぞのゲームの世界なのかを調べる、というのが最初の目的だったはず。

 ペルソナ能力についてもかなり……本当に、すっっっごく気になるが、今の俺に調べる術はない。召喚器を分解(バラ)してみるのも手かもしれないが、分解したところで元に戻せるような技術もないし。

 

 

 ……こうなると、手っ取り早い手段はひとつに限られる。

 

「文字の勉強、するか……!」

 

 この中国語によく似た形の言語を理解し、旧文明時代について調べる。今の俺に何かできるとしたら、それしかない。

 語学は苦手だが、背に腹はかえられない。赤点スレスレの実力を解放する時が来た。

 

「ンナナ!」

 

 拳を握って闘志を現す俺につられてか、うさぎさんがぴょんと飛び跳ねた。応援してくれるのか、うさぎさん……!

 

 

 

 そんなわけでルミナスクエアの本屋に来た。まずは教材探しからである。

 

 出入り口付近にあった、いかにも幼児向けといった様子のカラフルなコーナーへ向かい、気付く。

 ……何書いてあるかわからないから、教材を選びようがない。勇んでいた気持ちが萎んでいく。

 どうしよう、適当に選ぶか……? 店員さんに聞くのも手だが、果たしてなんて聞けば良いのか。

 

「そこの方、どうされました? 気分が優れませんか? ──あら、貴女は……」

 

 声をかけられて顔を上げる。いつぞやにナンパ男から助けてくれた治安官のお姉さんが立っていた。勤務外なのか、前とは違い私服だ。

 

 

「た──頼む、出来るだけ幼児向けの本を教えてくれないか!?」

「………………はっ?」

 

 

 

 

 

 

「……というわけで、文字を読めるようになりたくて。その、俺が読む用デス」

「なるほど、そういうことでしたか。私でよければお手伝いします」

 

 訳あって文字が読めないこと、文字を読めるようになりたいことを説明すると、治安官のお姉さんは納得したように頷いた。

 どことなく気の毒そうな顔をしている。とんでもないバカだと思われたかもしれないが、仕方ない。読めないものは読めないのだから。

 

「せっかくのお休み中にすみません……。あ、きっとお姉さんも本を見にきてましたよね?」

「いえ、目的なく散策していただけですのでお気になさらず。それに、同僚達が働いているのに私だけ休んでいるのもどうかと考えていたところですから。貴女の助けになれるのであれば、こちらとしても嬉しいです」

 

 社畜も真っ青なことを言っていないか、このお姉さん。

 お姉さんは陳列された本を見て、いくつか抜き出した。ぱらぱらと中を捲って見た後、その中から数冊を渡してくる。

 

「『ことばのえほん』、『めめんと・もりもり・もりだくさん』、『こざめのシャークとみみずのゲイル』……この辺りの本は、出てくる言葉の種類も豊富かつ理解しやすい内容かと」

 

 なんか今とんでもないタイトルなかったか?

 

 差し出された絵本を受け取り、中を見てみる。内容は全く読めないが、挿絵が随所で丁寧に挟まれている。これであれば、教材として申し分ないだろう。

 お姉さんにお礼を言ってから数冊の絵本を胸に抱えた。

 

「あ、あと、出来れば普通の……大人が使うような辞書と、ボンプ語の本があれば、それも」

「それなら、あちらのコーナーでしょう。見に行ってみましょうか」

 

 

 治安官のお姉さんのおかげで、無事目当ての本をゲットできた。お姉さん──朱鳶さんに何度もお礼を言ってから帰路に着く。

 この間よりも少しばかり物腰が柔らかく感じたのは、勤務外だからだろうか。今度巡回中に見かけたら差し入れしよう。

 ……あんまり詳しくないけど、警察って差し入れとか受け取っちゃ駄目なんだっけか? 治安官はどうなんだろう。

 うーん……。お礼をするなら、他に何か考えた方がいいかもしれないな。

 

 紙袋を胸に抱きしめ、ウキウキで帰り道を歩く。俺は勉強するときに形から入るタイプだ。参考書と文房具を揃えたらなんか頭良くなった気がするよな。

 曲がり角を曲がると居候先が視界に入る。玄関のドアノブに、何やら上質そうな紙袋がかかっていた。

 

「……? なんだ、これ?」

 

 袋の中を覗き込んでみる。柑橘系のいい香りのするメッセージカードが1枚と衣服らしき布が入っていた。たぶん、女物だ。

 残念ながらメッセージカードの文字は読めない。リン宛の郵便物だろうか?

 

「ただいまー。リン、なんか届いてたぞー!」

「おかえり。なになに? ……紙袋? なんか宅配っぽくなくない?」

「え、でも、うちのドアノブに掛かってたし……」

「うーん……。あ、メッセージカード。『チョコレートの君へ』……? ねえこれ、ショウのカーディガンに似てない?」

 

 リンが袋から取り出して広げた。まじまじと見てみる。確かに形も色もよく似ていた。俺の持っていたやつよりめちゃくちゃ手触りよさそう……というか、高級そうに見えるけど。

 

「もしかして、この間言ってた過酷なダイエッターじゃない?」

「…………あ。確かに、チョコレートあげたな」

「……まさかとは思うけど、あのカロリー爆弾チョコをあげたの?」

「うん。おやつにしようと思って丁度持ってたから」

「ダイエットしてる人に渡すものじゃないよ、アレは……」

 

 リンに信じられないものを見るような目で見られてしまった。

 

「うーん。家知ってるってことは、ご近所さんだったのかな……」

「ちょっと待って。知り合いじゃなかったの!?」

「ウン、たぶん。暗くてよく見えなかったし、仮面もしてたから確証はないけど」

「明らかに不審者じゃん! どうしようイアス、うちの子の危機感が死んでるよ……!」

 

 急に話を振られたイアスは「ンナ!?」とびっくりしていた。確かに見た目はかなり怪しかったが、そういうファッションかもしれないし。倒れてる人を放っておけないだろ。

 にしても、カーディガンをパクったお礼(?)に新品が返ってくるって……泉の女神様か何か? 普通にカーディガン返してくれればいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 というわけで。

 バイトの休憩中とか、家事の合間とか、休日とか。隙間時間を見つけては文字の勉強を進めていた。

 

 中国語とよく似た形をしているおかげで、本当に簡単な文章なら読めるようになってきた。難しい言葉や固有名詞は読めないことも多いけど、なかなかの進捗じゃないだろうか。

 どういう原理かはわからないが、言葉自体は通じている影響も大きいだろう。おかげで音と文字を照らし合わせられる。

 

 牛歩のような速度ではあるが、着実に進んでいる。

 その反面。

 

「ンナ! ナナンナ!」

「……、茎わかめと味噌汁がフュージョンしています……?」

「ンナナ!?」

「あ、違うのか」

 

 ──ボンプ語の方はさっぱりだった。

 うーん。早いとこ、うさぎさんとお話出来るようになりたいんだが。うさぎさんには聞きたいこと、言いたいことがたくさんあるのだ。

 聞き取りは出来なくても言いたいことがあるなら言えばいいじゃんとなるかもしれないが、そうではなく、俺はうさぎさんと会話がしたい。つまり、聞きたいことと言いたいことはセットなのだ。

 

 身振り手振りでなんとなくは伝わるとはいえ、スムーズに会話しているアキラ達を見ていると羨ましさが湧いてくる。

 とはいえンとナだけで構成された言葉はかなり難しく、気長に頑張るしかなさそうだ。

 

「うさぎさんとお喋りできるように頑張るからな……!」

「ンンナナ! ンナナ!」

 

 うさぎさんを一頻りもちもちしてから家を出る。

 今日も今日とてバイトである。

 

 相変わらず客が少ない──というか、もはや閑古鳥が鳴いてそうな有様だ。数少ない常連さん達も店を出て、誰もいなくなったお昼過ぎ。

 今は客足も途切れているし、マスターからものんびりしていいと言われている。日頃の成果を確認すべく、お客さん用に取っている新聞を広げた。

 

 どれどれ……。H.A.N.D……対ホロウ6……課? 先日……、『神降』捕縛……、残……員……情報…………?

 専門用語が多過ぎていまいち解読しきれずエセ中国語みたいになってしまった。

 

「かみおろし、は多分固有名詞か……?」

「おや。今日の夕刊だね。神降し……、ずいぶん騒がせていたけど、ようやく捕まったのか」

「え、そうなんすか?」

「あれ、知らない? 一時期はパエトーン……までは行かないけど、千面相と並ぶくらいには有名になってたと思うけど」

「ぱっ!? ……い、いやぁ〜〜、物騒な世の中ですよね〜〜」

「あ、知らないんだね……。まぁショウちゃん、ニュースとか見るタイプじゃないものね」

 

 マスターがひょっこり横から新聞を覗き込んだかと思えば、うんうん頷きながら焙煎作業に戻って行った。急にパエトーンとか言われると心臓に悪いから勘弁して欲しい。

 

 アキラ、リン、安心してくれ。お前達の秘密は絶対に漏らさないからな……!

 

 決意を新たにしつつも何食わぬ顔で新聞を丁寧に畳み、ラックに戻した。そのまま3日前の夕刊を抜き取る。入れ替えのためそのまま廃棄──とする前に、広げてみる。どれどれ、と紙面を除き込んだ瞬間。

 

 からんころんと、ドアにつけられた鐘が来客を告げた。身なりの良さそうな金髪の男が、入り口でこちらを見ている。

 

「いっ……いらっしゃいませ!」

 

 サボってないぞ。サボってないからな! 反射的に持っていた新聞紙をカウンターに置いた。叩き付ける勢いだったが、ピカピカにしておいたので埃が舞うことはない。

 

「一名様ですか? お好きな席へどうぞ!」

 

 男は頷くとカウンター席に座った。席に空きはたくさんあるのにあえてカウンター席を選ぶとは、ちょっと珍しいな。

 俺の知る限りでは初めて見る客だし、マスターのリアクション的にもたぶん常連さんではなさそうだし。その上で初手カウンター席とは、なかなかのカフェマニアかもしれない。

 

 お冷とおしぼりを出すと、男はすっと手を挙げた。

 

「オーダーをお願いしても?」

「ジョッ────、……!?」

 

 ──やっぱペルソナじゃねぇか!

 

 男の声を聞いて反射的にそう思った。あまり詳しくなかった俺でも聞いてわかるくらい特徴的な声。「ふ」で始まり「ん」で終わるあの人の声である。

 

 ……いやしかし、アトラスを意識し過ぎてペルソナとしか思わなかったが、本当にペルソナの世界であると断定してしまっていいのか?

 ペルソナでは少なくとも、主要キャラの声優被りは無かったような気がする。……声優に詳しくないせいか記憶が怪しいので、ここはたぶん、と注釈が付くが。

 絶対に彼はジョーカー──ペルソナ5の主人公ではないし。ジョーカーは黒髪の癖っ毛で、金髪のサラサラロングヘアの男は見た目からしてかけ離れている。

 

 何より、あくまで現代日本をベースにしていたペルソナとは世界観がかけ離れている。アトラスでいうならメガテンとかデビサバのが近いだろ。…………いや、五十歩百歩で大差ないわ。たぶんもっと近いタイトル他にある。

 

 うーん……。ほなペルソナちゃうか…………。

 

 でも、この世界がゲーム、あるいはアニメの世界で、彼は確実にその登場人物であるということは確定した。よく見たらなんかキャラ濃そうな顔してるし。オッドアイだしなんか泣き黒子ふたつあるし。

 

 やっぱり、ここでいう旧文明時代は俺の居た時代ではないってことだ。思わぬところで収穫……というか、あっさりと目的を達成してしまった。

 

 識字出来ないままでは生活に支障が出るので言葉の勉強はやめないが、そうなると俺はこの先何を目標にすればいいんだ……?

 てかそもそも、ペルソナの世界じゃないのにペルソナ能力があるのは何でなんだよ。……ペルソナペルソナ言い過ぎてペルソナがゲシュタルト崩壊しそうだ。

 

 あまりの衝撃に思考が明後日の方向に向かっていたが、男が訝しげな顔をしていることに気がつく。

 しまった、お客さん相手に大やらかしである。

 

「……店員殿?」

「ハッ、す、すみません。知ってる人にあまりにも声が似てて、つい放心を……。ちゅ、注文すね。お伺いします」

「………………ほう? では、ブレンドをひとつ」

 

 男は目を細めた。怖いよ。

 

「ブレンドですね。ミルクとシュガーはお付けしますか?」

「不要だ」

「じゃ、ブラックですね。てことでマスター! ブレンド1、オーダーです!」

「はいは〜〜い」

 

 マスターがコーヒーを淹れる横で伝票を作成する。なんとこのカフェ、伝票は手書きである。現代日本よりもめちゃくちゃ科学が発展しているのに。

 まぁ、手書きは手書きでレトロっぽい良さがあるのかもしれないな……。なんて考えながら、ボールペンで「blend 550」と用紙に書く。英語表記でいいのが大変ありがたい。英語も苦手だが、新エリー都の共用語よりはマシである。

 

 ソーサーを取り出して、お茶請けのナッツと一緒にカウンターに出す。作業の間、やたらと視線を感じる。な、なんだよ。確かに今の俺は可愛いが、それは一過性の可愛さだぞ。……たぶん。男に戻れるかどうか、正直かなり望み薄な気もしている。

 

「…………その。なにか……?」

「いやなに、先日、珍妙な子犬を見つけてな」

「い、いぬ? はぁ……」

「あまりの珍妙さに気を取られて、普段しないようなヘマをしてしまった。その結果、誠に遺憾ながらも施しを受けてしまった、というわけだ」

「…………犬が? 施し……?」

「原因と過程と……内容はどうあれ恩は恩。俺は借りは返す性質だからな」

 

 それ、恩は恩でもお礼参りとかそう言う系のやつじゃないか? 「内容」って言った時、その時のことを思い出したのかめっちゃ顰めっ面だったし。何の話かはさっぱりわからないが、犬に対する熱量ではないだろ。

 急に始まった自分語りの半分も理解できなかったが、男はそれで満足したようだった。

 

 

 それからと言うもの、男は人の少ない時間帯に来るようになった。見事に誰もいない時間ばかりだが、もしかして狙ってるんだろうか。……そもそも客が少ないからだろ、というツッコミは無しな。マスターが泣いちゃうから。

 

 うーん。やたらとキャラの濃い常連が出来てしまった。




ペルソナ要素の塩梅に悩んで遅筆が極まってしまいました。
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