TS転生ペルソナ使い   作:ジェネリックペルソナ

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「ありがとうございましたー」

 

 きっちりと頭を下げる店員さんの声を背に受けながら店を出る。腕を振ればガサ、と袋が音を立てた。

 

 我慢できなくなって、往来を歩きながら袋の中に手を突っ込む。白い箱に包まれたソレを出した。落とさないように慎重に箱を開けると、よく見慣れた電子機器が収まっている。

 にま、と口元が歪む。片手サイズのソレを天高く掲げて踊り出したい気分だった。落として壊したら嫌なので絶対やらないが。

 

 つやつやのメタリックカラー。

 実に手に馴染むフォルム。

 ────ついに携帯を手に入れたぞ!

 

「よかったね、ショウ。帰ったら僕とリンの連絡先を入れようか」

「ああ! これでマスターへの連絡もスムーズに出来るし、調べ物だって気楽に出来ちゃうぞ!」

 

 とは言っても、契約はアキラ名義なのだが。でも、端末代は俺のバイト代で賄ったし、月々の契約料金も俺が支払う。

 最初の頃、アキラの方で用意しようかという提案もあったが、それを断ってバイト代をちょっとずつ貯めていた。金銭面で余計な負担をかけたくないという意地である。

 

 ウキウキで帰宅して、早速アキラとリンの連絡先を登録した。バイトに行ったらマスターの連絡先も聞こう。

 ……カリンちゃんのも知りたいが、聞いたらキモがられるかな? セクハラになっちゃわないだろうか。今の俺はかわいい女の子なので、流石に大丈夫……だと信じたい。今度カフェに来てくれたときに聞いてみよう。

 

 アキラとリン、ふたりの連絡先が入ったスマホをたぷたぷする。日頃の勉強の成果か、それとも現代っ子の性質か、基本的な操作であればなんとなく理解できる。ネットサーフィンしようと思ったら辞書は必須だけども。

 

「うさぎさん、こっち見てくれ!」

「ンナ?」

 

 ぱしゃり。

 画面いっぱいにうさぎさんのまんまるボディが映った。そのままホーム画面に設定する。我ながらいい写真だ。

 

「へへ、見てくれ、うさぎさん!」

「ンナナ……。ンナ、ンナナンナ!」

「かわいく撮れてるだろー?」

 

 スマホの画面をうさぎさんに見せると、うさぎさんはぴょんと跳ねた。少し恥ずかしそうにしてから、なにやら訴えかけてくる。

 

「な、なに……? スマホ? 貸してくれって?」

「ンナナ!」

 

 頭にハテナを浮かべながら差し出された小さな手にスマホを渡す。うさぎさんは器用にスマホを操作して、それから近くにあったスタンドに立て掛けた。

 くい、と服の裾を引っ張られる。そのままスマホの正面まで移動し、そこでようやくピンときた。

 

「つ……、ツーショを撮ろうってんだな、うさぎさん……!」

「ンナ!」

 

 うさぎさんは嬉しそうに両手をあげた。画角に収まるために肩を寄せてくる。うーん、もちもちだ。

 俺はと言うと、嬉しいやらちょっぴり恥ずかしいやらでにへら、と口角が緩んでしまっている。

 

 ──ぱしゃり。

 設定されたタイマーによるシャッター音が聞こえた。慌ててスマホを確認する。今、とんでもなくだらしない顔してた自信あるぞ。

 ……。…………。

 嬉しそうにはにかむ少女と、ご機嫌に両手をあげたボンプが写っている。とんでもないナルシストの発言になるが、こうして見るとやっぱ俺って可愛いな。

 

 女の子になっててよかった。元々の姿なら見るに堪えない残念な写真になってたな、これ。

 

 

 

 

 

 

「ふたりとも、今日は青椒肉絲……の、ピーマン抜きだぞ──って」

「……………………あ、ショウ……?」

「し、しんでる……」

 

 夕食の用意ができたので工房の扉を開くと、部屋の中はお通夜状態だった。

 リンもアキラも、どんよりと重たいオーラを背負っている。キノコでも栽培できそうなじめじめ加減──というと言い過ぎだが、それなりに落ち込んでいるのがわかる。

 

 話を聞いてみると、パエトーン名義のアカウントが消えてしまったらしい。な、なぜ……?

 今日はニコさん達が来ていたけど、なんかその辺の関係だろうか。目が合ったニコさんがちょっと気まずそうな顔をしていたのが印象的だったが、たぶんこれが原因な気がする。

 

 普段、プロキシ業務について話を聞くことはあんまりない。そのため前後関係はさっぱりわからないが、パエトーンとしての活動がふたりの収入源のひとつであることは理解している。

 「またイチからやり直しかぁ……」としょもしょもしているリンに、拳を握ってみせた。

 

「俺、バイト増やすよ……! ふたりが持ち直すまでは俺に任せてくれ!!」

「ショウ…………!」

 

 リンとアキラにひっしと抱きしめられる。様子を見守っていたうさぎさんやイアスもンナナ! と突撃してきた。人間とボンプの塊の誕生である。

 

 仔細は知らないが、ふたりに何か目的があることもわかる。この家に世話になってからそれなりに時間が経っているからな。

 俺とうさぎさんを助けてくれたふたりの力になれるなら、これほど嬉しいことはないだろう。

 

 ペルソナ能力を使いこなせていたらよかったんだが。ホロウレイダーなんてものが居るように、この世界では荒事は金になる。とはいえ、無いものねだりしても仕方ない。

 

「まずは青椒肉絲……の、ピーマン抜きを食おうぜ! これからのことはお腹いっぱいになってから考えよう!」

「う、うぅ……。お兄ちゃん、うちの子が……うちの子が、いい子すぎるよ……!」

「あぁ……。本当に…………」

 

 ふたりは涙腺を抑えて上を見上げている。失ったものがデカすぎて涙もろくなっちゃったのか?

 

「でも青椒肉絲のピーマン抜きはただの肉炒めだよ、ショウ。ピーマンを入れるか呼び方を変えるべきだと思うな」

 

 急に元気になったな。食欲があるのはいいことだ。

 真剣な顔で言われたので、同じく大真面目に頷いて見せた。

 

「んじゃ、中華風肉炒めな」

「わぁ、頑なにピーマンを入れようとしない……。なんで青椒肉絲作ろうと思ったの?」

「名前がカッコ良かったから………………」

 

 リンにどことなく残念そうな顔をされた。聞いてきたのはリンなのに。

 うさぎさんが「ンナナ〜〜!」とぴょんぴょんしていた。顔がちょっぴり怒っている。

 もしかして好き嫌いを咎められてるか? これ。ピーマンは……ピーマンは許してくれ…………。

 

 

 なお、この時の俺は気付かなかったのだが。

 いつの間にやら人工知能のFairyという新たな仲間……助手? も増えていたらしい。なんでも有りだな、この世界。

 翌日工房に行ったら誰も居ないのに「助手3号」と話しかけられかなり吃驚した。正直お化けかと思った。ちなみに、助手1号はイアス、2号はリンらしい。

 

 

 

 ────なんてことがあってから、少しの時間が経ち。

 

 新しいプロキシアカウントも軌道に乗りはじめ、ふたりは朝から忙しそうにしていた。

 モニターを前に考え込む傍らに、そっとバタートーストを差し出す。グラニュー糖がたっぷりかかったそれは、脳に直接糖分を届けてくれること請け合いだ。

 

 飲み物も用意して、ソファに並んで座る。リンとアキラにはコーヒー、俺はホットミルクだ。

 トーストをひと口かじると、サクッとした食感にバターとグラニュー糖の甘みがじわりと舌に広がった。こういうのでいいんだよこういうので。

 

「朝から大変だな。いま山場なのか?」

「あぁ。どうにも……その、癖が強くてね。プロキシとして、ホロウ内で何があってもいいように準備しておかないと」

 

 聞けばどうやらはくぎ……重工? というところやりとりをしているらしい。会社とのやりとりであるなら、そりゃ神経も使うよな。なんかあったら損害賠償とかいろいろありそうだし。社会エアプの勝手な偏見だけども。

 

 朝食を片付け、俺は俺でバイトに行くために家を出る。俺は有言実行の男なので、シフトを増やしてもらったのである。

 

 

 

 

 

 

 バイトに行く道はほとんど人通りがない。

 なにせ俺のバイト先の立地は最悪で、アクセスが悪ければ日当たりも悪いうえ、土地面積の都合上駐車場すら無いという、商売に向いてるとは決して言えないような場所にある。

 おまけに道中COFF CAFEやリチャードティーミルクもあるので、大概のひとはそちらに行ってしまうと言う徹底した僻地っぷり。

 

 マスターの淹れる珈琲の評判は悪くないどころか凄く良いのに、土地を選ぶセンスだけはなかったらしい。

 

 そんな道に、人集りが出来ていた。

 珍しい光景に視線を吸い寄せられる。中心部には狐耳の女性がいた。サラサラの黒髪が印象的だ。たくさんの人に囲まれているにも関わらず、目を閉じて微動だにしていない。

 

 非常に気になるが、今日はカリンちゃんが店に来てくれる日である。昼時までに店内をピカピカにするという使命があるので遅刻はできない。

 スマホを手に入れてからというもの、こういう連絡も貰えるのでかなり嬉しい。幸福指数爆上がり待ったなしだ。

 

 

 

 

 バイトのシフトも無事終わり、帰路に着く。

 使命は無事果たせたことをここに報告しておこう。

 

 あれだけたくさん居た人はすっかり消え去り、そこには狐耳の女性だけがぽつんと立っていた。目を閉じたまま、動かず、行きに見たそのままの姿で。

 

 …………。

 マジで動かないな。

 生きてる……よな…………?

 

「あの、お姉さん、大丈夫ですか……?」

「………………」

 

 まだ辺りは明るいが、既に夕暮れ時だ。人通りもないこの場所で、暗くなってもこのままだと危なくないか? 明日バイト行く時にも居たらどうしよう。

 ちょっぴり不安になって、恐る恐る声を掛ける。返答はなかった。

 

「体調悪かったり……? きゅ、救急車、呼んだ方がいいすか?」

「………………」

 

 呼吸のためか、ほんの微かに体が揺れているのが見てとれる。目を閉じているだけなのか、それとも話せないくらい体調が悪いのか。

 どうしよう。ディア(回復スキル)パトラ(治療スキル)リカーム(蘇生スキル)も使えないぞ、俺。

 現状不可能ではあるが、仮にタナトスを呼び出せたとしても同様だ。暴力の象徴みたいなスキルしか使えない。俺は……この手で傷つけることしかできない…………。

 

 って、そんな茶番を挟んでいる場合じゃないよな。

 ……体調悪いにしてはめちゃくちゃ姿勢が良いけど、もしかして無視されているだけだったり? そうだった場合かなり傷付くぞ。

 

 バイト先まで走って人を呼んでくるべきか、119番すべきかどうか悩んでオロオロしていると、ふと背後から第三者の声がした。

 

「課長、こんなところに居たんですか────あら?」

 

 桃色の髪の、穏やかそうな顔つきの女性だ。俺を見て不思議そうな顔をしている。

 課長。しっとりと柔らかな声が示すのは、間違いなく俺ではない。

 

「お、お姉さん、知り合いすか? この人、お昼前からずっと動いてないみたいで。意識もないし、救急車呼んだ方がいいのかどうか……」

「…………なるほど。そういうことでしたか。大丈夫ですよ、ご心配には及びません。ほら」

 

 手のひらで指し示した方を見る。

 あれだけ閉じられていた狐耳の女性の目がぱっちりと空いていた。赤色の虹彩がうろ、と彷徨ったのち、桃髪の女性に向けられる。

 

「───、柳か」

「課長。修行もいいですが、一般市民に心配をかけていては本末転倒ですよ」

「む。お前は…………」

 

 そこでようやく、狐耳の女性が俺を見た。

 

「微動だにしない課長を心配して介抱してくれていたんですよ」

「そうか……。世話をかけたな」

「い、いや、介抱ってか、なんもしてないです……」

「そうか。礼を言う」

「なんもしてないのに!?」

「ああ。お前の心遣いに感謝する」

 

 狐耳の女性は真剣な顔つきをしている。

 心配してくれてありがと〜〜ってこと? 桃髪の女性を見れば、にっこりと頷いた。多分あってるっぽい。わ、わかりにくいな……。

 体調不良とかじゃなくて何よりだけども。結局なんであんなカチコチになってたもよくわからないし。趣味か?

 

「じゃ、じゃあ、俺はこの辺で……」

「ええ。もうじき暗くなりますから、お気を付けて」

 

 ぺこりと会釈して、今度こそ帰路に着く。

 

 

 これは余談だが。以降、今日みたいにカチコチになった狐耳の女性──雅さん、というらしい──を度々見かけることになる。体調不良とかじゃないとわかっていても心配になる光景だ。そこまで高頻度じゃないのだけが救いだろうか。

 

 人に囲まれていることもままあるので、付き添えるときには付き添ったり、付き添えないときは柳さん──桃髪の女性──に連絡したりしている。

 美人なお姉さんの連絡先を手に入れたのに微妙に嬉しくないのは、状況が特殊すぎるせいだと思う。

 

 新エリー都、会う人会う人キャラが濃すぎやしないか。……まぁ、TSしたうえペルソナ使い(暫定)やってる俺が言えることではないか…………。




ギリギリ7月に間に合わせられました(遺言)
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