TS転生ペルソナ使い   作:ジェネリックペルソナ

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水面下のことは知らないぞ

 

 先のバレエツインズでの邂逅を経て、改めてブリーフィングが必要という話になり。ライカンを始めとするヴィクトリア家政と、プロキシ──パエトーンがバレエツインズの噴水前で顔を突き合わせていたときのことだった。

 

「ところで。無戸籍の未成年を匿っておられるご様子ですが──」

 

 ぴくり。

 プロキシが表情を変えた。

 

 もちろん、ライカンに件の少女を害すような意図は微塵もない。

 屈託のない、善性の塊のようなピカピカの笑顔を思い出す。カリン共々懇意にしているし、少女のことを気に入っているあの食えないマスターも黙っていないだろう。なにより無辜の市民を傷つける、なんてことは許されないことだ。

 そもそも、無戸籍なんて珍しいことではない。普通ではないのは確かだが、新エリー都中を探し回れば結構な数が見つかるだろう。

 

 ……少女の特異性はそれのみではないことをライカンは知ってしまっているが。近頃は特に()()()()。街中で派手な動きがあれば、ヴィクトリア家政も当然把握することになる。

 情報の収集ならびに精査は市政に仕える身として当然のことで、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 ──前置きが長くなってしまった。

 つまりこれは、交渉とも言えないお遊戯の、ほんのジャブのつもりであったのだが。

 

「……それは、脅しと受け取っていいのかな?」

 

 空気が張り詰めた。

 アキラがリンと、それからFairyに合図する。通信越しのそれはひっそりと行われて、相手がライカンでなければ気付けなかっただろう。

 ライカンの背後に控えていたヴィクトリア家政の面々は、それぞれ心持ちは異なりながらも居住いを正した。

 

 何度も言うが、ライカンに害意はない。プロキシとして彼らに協力を仰ぐうえで市政が用意した報酬のひとつ。その前提を共有しようとしただけだ。

 ただ話に出しただけでこの有り様。突如として新エリー都に現れた少女は、パエトーンと呼ばれる彼らの、心の奥深いところに位置するようだった。

 

 このままでは芽生えかけていた信頼関係が消し飛びかねない。訂正をしなければ話は進まないだろう。善意の協力者であった彼らに誤解されたまま、というのも心苦しい。

 カリンやエレンの不安そうな視線を背に受けながら、ライカンは口輪の奥で声を発そうとして。

 

「いえ、そうではなく──」

「──おーい、アキラ!」

 

 ずいぶん陽気な声に、弁明は遮られた。

 

 

 

 

 

 

「聞いてくれ、アキラ! リチャードティーミルクの新作、が…………」

「ショウ、こんなところで何を──あぁ、いや……バイト帰りのお散歩かな。なにもこんな治安の悪いところまで来なくても……」

「常連さんに聞いたんだ、湖の上にデカいデパートがあるって! アキラこそ、ここで何やって────」

 

 そこでようやく、ピリピリした空気に気が付いた。

 

「…………えっと、ごめん。取り込み中だったか?」

 

 アキラとライカンさんはちょっぴり困った顔をした。……うーん? 後ろのカリンちゃんとエレンさんは救世主でも見るかのような目をしてるけど。どういう状況なんだ?

 話を聞くに、どうやら無戸籍であることがバレているようだった。なんてこった。

 

 戸籍情報ってそんな簡単に入手できるものなの? いや、この場合ヴィクトリア家政が凄いのか? えー、なんか情報屋みたいだな。なんとも厨二心をくすぐるフレーズである。

 カリンちゃんと目が合った。何を言えば良いのかわからない、と言った様子だ。おろおろしている。ぶっちゃけ俺も何を言えばいいかわからない。どうすんだこの空気。

 

「……とうとうお縄につく日が来てしまったのか……」

 

 無戸籍による不法入国に不法滞在。新エリー都の法律はまったくわからないが、日本であれば普通に犯罪である。

 俺も前科持ちかぁ……。はやめに出所出来るといいなぁ……。治安局のご飯って美味しいのかなぁ……。

 思わずがっくり項垂れるが、俺の未来予想図はすぐに否定された。

 

「いいえ、私共はショウ様を咎めようとしているわけではありません」

「…………え、そうなの?」

「ええ。むしろその逆──プロキシ様にご協力をいただいたうえでバレエツインズの瑕疵を取り除いた暁には、協力の報酬としてショウ様の戸籍を用意すると、ご主人様は仰せです」

 

 …………。ええと、つまり。

 

「……俺の戸籍がふたりの報酬になるのか!?」

 

 なんでだよ。頑張るのはふたりなんだから、もっとふたりが喜ぶものを用意しろよ。

 ……というか戸籍ってそんなポンポン提供できるもの?

 

「どちらにせよ脅しじゃないか。僕らが協力しなければショウの身元がどうなるか……わかったものじゃない」

 

 硬い声でアキラはそう言った。ア、もしかしてそれでさっきまで微妙な空気になってた感じ?

 

「ま、待ってくれ。ライカンさんはカリンちゃんの上司だぞ! 脅しなんてする人じゃないし……。咎めに来たわけじゃないって言ってくれてるなら、仮にふたりが協力しなくたって、わざわざ俺を治安局に突き出すようなことはしないと思う」

 

 脅しなんてする人じゃない、のところで、ライカンさんのふわふわの尻尾が動きを止める。ライカンさんがそんな気まずそうに目を逸らすとこ、初めて見たぞ。

 

「ほら、見ろよ! こんな嘘吐けなさそうな人がそんなことするはずないだろ!」

「うーん……。ボスは嘘吐けないというか、今回ばかりは相手(純粋培養)が悪いというか……」

「この場合で目を逸らすのは、脅迫行為をしたことがある人だけじゃないかしら?」

 

 エレンさんとリナさんから訂正が入った。えっまじ? ……そうなの? そおっとライカンさんの方を見てみる。あ、顔ごと逸らされた。

 こほんこほん。ライカンさんが誤魔化すように咳払いをする。

 

「誤解を招いたようで申し訳ございません。ショウ様の仰る通り、私共にショウ様を害する意図はなく──今回のお話は、ショウ様の事情を汲んだご主人様の善意による取り計らい、と捉えていただいて相違はありません」

 

 ライカンさんの後ろで、カリンちゃんが全力で頷いている。アキラは、真剣な眼差しをしたライカンさんと、必死すぎて涙目になっているカリンちゃんの顔を交互に見て──ようやく納得してくれたようで、脱力した。

 俺としても、俺のせいで険悪な空気になるのは勘弁だったので一安心である。

 

「……それはそれで、僕達に有利すぎる。どんな意図があるかわかったものじゃ」

「先ほどもお伝えした通り、『()()()()()()()()()()()』というご主人様の善意による取り計らいです。」

「…………わかった。どちらにせよ、レインの捜索は不可欠だ。聞きたいことはまだあるけれど……今は協力しよう」

 

 矛を収めたアキラに、ヴィクトリア家政の面々はほっとした様子を見せた。わかるよ、怒ったアキラっておっかないよな。

 

『もう! ライカンさんは迫力あるんだから、紛らわしいことしないでよね』

「肝に銘じます」

 

 通信越しにリンがぷりぷりと怒っている。声色は可愛いのだが、口調がガチだ。アキラも口元はにっこりとしているが、目が笑ってない。

 ふたりとも、もしかして結構俺のこと好きか? えーっ。俺もふたりのこと好き。

 

「一件落着……か? ええと……プロキシとしての話をするなら、俺は邪魔だよな?」

「まさか。ショウを邪魔と感じたことはないよ。……でも、あまり危ないことに巻き込みたくはないな。先に帰って、リンと待っていてくれるかい?」

「アキラ、そういうところだぞ、そういうとこ」

「えっ?」

 

 いつか男に戻ったときのため、モテの秘訣として参考にはさせてもらうが。それはそれとして、その物言い、いつか修羅場になるぞ。

 

 

 

 

 

 

 数時間後のRandom Playにて。

 今日の出来事を経て、アキラとリンは今後について話していた。常ならば余計なことを聞かないように近寄らないのだが、当事者ということで今回ばかりは俺も同席している。

 

「彼等が悪い人じゃないということは理解したけれど……。人の戸籍なんか、そんな気軽に渡せるものじゃない。相当大きな力が背後に居るんだろうね」

「そうだね。今回はよかったけど……どうやって身を守るか、考えたほうが良さそうかな」

 

 直接的な言葉はないが、心配そうなアキラとリンの視線を感じる。……俺、もしかしてふたりのお荷物になってるか?

 独り立ちも視野に入れた方がいいのかもしれない。本当に戸籍が貰えるとしたら、家だって借りられそうだしな。ちょっと寂しいけど、まぁ寂しいだけだし……。

 

「ンナナ!」

 

 相当しょんぼりした顔をしていたのか、うさぎさんが足にまとわりついてくる。もちもちボディを膝の上に抱き上げると、ンナ! と頭を撫でられた。

 う、うさぎさん……!

 うさぎさんの短い腕でも撫でやすいように頭を下げる。もちもちもちもち。弾力感満載の右手が頭部で往復した。

 

 むにり。俺の顔に更なる追撃。頭痛が痛いみたいなこと言ってしまった。

 みょんみょんみょんと、うさぎさん越しにリンが俺の両頬を伸ばしている。

 

「もーっ。そんな顔しないで、ショウ! 私達、ショウのこと迷惑なんて思ってないから!」

「……ほっへはもひもひしなはらいうこほは(頬っぺたもちもちしながら言うことか)!?」

「だって、なんだか悲しそうな顔してるから」

 

「旧文明時代から来て、大変な思いをしているショウには申し訳ないけど。私達、ショウが居てくれてすごく嬉しいの」

 

 リンがソファに腰を落とす。それを見たうさぎさんが「ナナンナ……」と、いそいそと膝の上から去って行った。あっ、俺のもちもちが! 視線がうさぎさんを追いかけている間に、いつのまにか俺とリンはソファの上で向き合うような体勢になっていた。

 

 こつん。リンは俺の頬っぺたを両手で包み込んだまま、額同士をくっつける。リンのまあるい瞳が柔らかく細められた。穏やかで、優しい目だった。

 

「家族が増えたってだけじゃなくて、右も左もわからないようなショウにいろんなことを教えて……先生もこんな気持ちだったのかなって思えるの」

「せんせい?」

「……ああ。僕達には先生が居たんだ。いつか近いうちに、ショウにも話すよ」

 

 『居た』ということは、つまり。

 俺の思考を察したのだろう。アキラはくしゃりと破顔して、俺の頭を撫でつけた。や、やめろよ。なんだよその慈愛の眼は……。

 

「とにかく。僕達はショウとうさぎさんが居てくれて嬉しいんだ。あまり気に病まないでほしい」

「……。お、俺も……。この街に来て、寂しくないって言ったら嘘になるけど。こうしてみんなと暮らすのは楽しい」

 

 こんなに可愛くなってしまったうえ、家族も友達も、みんなお空の向こうだ。死んだという意味ではなく、異世界的な意味で。

 おまけに身近な友達はみんな女の子ばかりで、いやみんなのことが不満というわけではないんだけどやらかさないか不安というか────本筋と話がズレてしまった。

 

 男友達が欲しいという俺の切実な願いはさておき。素直な心中を吐露すれば、そばで聞いていたリンが感極まった様子で抱きついて来た。アキラがそんな俺たちの頭をまとめて撫でている。

 

 なんだかすごくアットホームになってしまった。照れ臭いが、たまにはこんなのもいいだろう。

 

 

 

 後日。バイト先にライカンさんが菓子折り持って来た。

 

「いくら害意がなかったといえど、勝手に貴女様のことを調べていたのは事実。プロキシ様方にも不要な心労を掛けてしまいました。どうか謝意をお受け取りいただきたく」

「でも、結局俺って恩恵しか受けてなくないか? どっちかっていうとアキラとリンに渡した方がいいんじゃ……」

 

 なんか戸籍もらえるらしいし。どういう原理か知らんけど。

 とは言うものの、アキラとリンには別で詫びの品を贈った後らしく。マスターの後押しもあり、結局、高そうな紙袋をぶら下げて帰ることになった。

 こっそり中身を覗いてみる。うーん、お菓子だろうか。……表面に凹凸があって、これまた高そうな包装紙である。

 

 戸籍をゲットしたうえお高いお菓子も食べられるとか、圧倒的に俺の一人勝ちじゃないか? 俺、なんもしてないのに。

 …………。お菓子は全部、アキラとリンにあげよっかな……。

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