TS転生ペルソナ使い 作:ジェネリックペルソナ
ハッピーハロウィン!(大大大遅刻)
バイト帰りである。
なんか毎回この出だしだな。バイトへ行く頻度が多いのだからさもありなん、という話だ。
俺は帰り道に買ったポップコーンをつまみながら、往来を歩いていた。キャラメルと塩のダブルだから、甘さとしょっぱさを両方堪能できる最強の布陣だ。ふふん、いいだろう。
──と、そこで。
ふと周囲に目を向けると、ルミナスクエアの駅へと向かう道で、小さな女の子がひとり立っていた。ふわふわの手足に長い耳。シリオン、って言うんだっけか。知り合いの顔を思い浮かべながら内心首を傾げる。シリオンって凄いよな。獣人ってひとくちに言っても、その姿は多種多様だ。
ライカンさんみたいにもっふもふの人もいれば、特徴的な一部分だけが生えている人もいる。……噂によると、蛸とか、そういったシリオンもいるらしい。それはもはや人魚とかスキュラとか、そういう類では? と思わなくもないが、この世界ではみんな一様にシリオン、という括りになるらしい。まったくもって摩訶不思議である。……異世界転移した俺が言うことじゃないがな! ガハハ!
と、そこで。そんなにじろじろ見ているつもりはなかったが、ばちりと目が合った。
うさぎの姿をした女の子は、真っ直ぐに俺を見ている。人通りは決して少なくない。いろんな人が行き交う中で、ただ俺の顔を見つめていた。
……知らない子だけど、俺に何か用でもあるのだろうか? 随分小さいし、もしかしたら迷子かもしれない。気付いてしまったからにはほっとけないしなぁと思いながら、女の子に近づいてみる。
何か話せば声が届く距離まで来たところで、女の子はふす、と特徴的な鼻を鳴らした。
「ねえねえ。照ちゃん、死神を探してるんだあ。知らない?」
「……ン? 死神?」
「そう。ぜ〜んぶ殺しちゃう、古くてこわーい神様」
小さい女の子が探すには物騒すぎないか?
なんだか怖い幼女に絡まれてしまったようだ。自分から絡まれに行ったとも言うが。しかし、無視するわけにもいかない。相手は小さい女の子なので。
しゃくり。口の中にポップコーンを放り込んで、キャラメルの甘さを味わいながら記憶を掘り起こしてみる。少女にポップコーンを勧めてみたが、ふるふると首を振られてしまった。むう。ポップコーンはダメか。
……うーん。死神、というワードでパッと思いつくのはタナトスだけれど、タナトスは別に神様じゃないしな。古くてこわーい、と付くなら尚更だ。
アルカナでいえば確かに『死神』だが、あくまでもタナトスは俺のペルソナに過ぎない。…………全然呼び出せないけど。日常の合間に、安全な場所で召喚を試み続けてはいるが、結果は全敗である。
つまり。彼女の問いに対して、返せる心当たりは全くなかった。
「うーん……ごめん、俺は見たことないなぁ。街中じゃなくて、神社とか教会とかを探したほうがいいんじゃないか?」
「ふうん。……
なんだか妙な言い回しだった。
抱いた違和感が明確な形になる前に、女の子は続ける。
「教えてくれたお礼に、照ちゃんも一個教えたげる。カルト集団には気を付けた方がいいよお」
「お、おう。まあ、そんなのがいたらそりゃ、気を付けた方がいいよな……?」
「…………あ、そっか。君はそうだったね。うーん……仕方ないなあ。讃頌会と神降しって言えば伝わるかな?」
「サンショ……なんだって?」
女の子はちょっぴり呆れた顔をした。そんなこともわからないの? と、その表情が物語っている。……いや、普通に知らんだろ、そんな物々しい単語。
「君ってば、ほんとに何も知らないんだねえ」
──照ちゃんがそこまで教えてあげる理由はないし。君の近くを飛んでる鳥さんにでも聞いたらいいんじゃないかなあ。
女の子はそう続けるが、やべえな。言ってることが1ミリも理解できない。
「あとは……親切心から言わせてもらうけど、知らない人にホイホイ近寄るのもどうかと思うなあ」
「知らない人っていうか……。あんなに見といてそりゃないだろ。俺の心配を返せよな。」
「……。…………何それ?」
女の子は未知の生物を見るような目で俺を眺めていた。首を傾げて見つめ返す。
一拍、二拍。数秒の沈黙の後、くるりと背を向けて去って行った。なんだか動きがコミカルで、後ろ姿も非常に可愛らしい。よくわからんが、問題は解決したのだろうか。
……俺って、初対面の幼女にそこまで言われるほど世間知らず丸出しなのか? 鳥さんてなんだよ。この辺には食べこぼしを狙って往来を闊歩してる鳩しかいないぞ。
──アッやめろ、俺のポップコーンを狙うんじゃない! 散れ! 散れーッ!
*
「ねー、わかります? ナゾナゾだと思うんすけど」
「近くを飛んでいる鳥に聞け、ね……。随分と回りくどいことだ。わざわざそこまでして何を言われたのか、実に気になるところだが」
「カルト集団には気を付けろって。なんて言ってたっけな、ショ……、コショウ…………?」
「……ほう。カルト集団、ね」
常連さんは形の良い眉を上げた。それから、気持ちを落ち着けるみたいなゆったりした動作で珈琲を一口。
美形だからか、それだけの動作がすごく絵になっている。羨ましい話である。男に戻ったときのために、普段やってる美容のこととか聞いておこうかな。なんか高そうなの使ってそうだよな、この人。
……鳩麦化粧水くらいしか知識がないが、バレたらあまりの意識の低さに卒倒されそうだ。てかこの世界にも鳩麦化粧水ってあるのかな。無さそう。
「それはそれは。一体どのような文脈があったのか、ぜひご教示願いたいものだな」
「や、なんか、探し物してたみたいで。心当たりないよ〜って言ったらお礼に……サ、サショウ……?」
なんて言ってたっけな。喉の奥まで出掛かっているのに、なかなか言葉が出てこない。胡椒、ではない。もちろん詐称でもない。もっとこう、ファンタジーっぽい響きをしていたような……。
────あっ。
「思い出した。サンショウカイ、とカミオロシだ!」
瞬間。常連さんの表情が消えた。
ごっそりと感情が抜け落ちたような真顔は、しかし一瞬で元に戻り、食えない微笑を浮かべている。……こ、怖え。美人がキレると迫力あるって言うけどマジなんだな。……今キレる要素、どっかにあったか?
「…………そうか。それを語った者の特徴は?」
「三つ編みした小さい女の子でしたよ。うさぎのシリオンの」
「────
「え? いやだからうさぎだって」
俺の言葉は黙殺された。ほ、ほんとにうさぎだったのに……。
常連さんはいよいよ熟考しだしてしまった。今の話の何が彼の琴線に触れたんだ。頭の良い人間の考えることはよくわかんねぇな。
……にしても。
「結局、俺の近くを飛んでる鳥さんってなんだったんだ……?」
「あぁ……。何も知らぬまま泥沼の底に沈む子犬を必死に引き止める、実に哀れな鳥が二羽居てな。恐らくそれのことだろう」
「へー、二羽も居るんだ。…………犬?」
「子犬が泥沼にいる理由もわからぬままでの慈善事業ゆえな。さぞ苦労していることだろうよ」
「すげぇな、何言ってるか全くわかんねえ」
全くと言っていいほど会話が噛み合ってないが、たぶんわざとなんだろうな。煙に巻いて有耶無耶にする手法だ。アキラやリンもたまにやるからわかる。
奥で豆を挽いていたマスターに視線で助けを求めてみた。……無言で首を横に振られたので、雑談もそこそこにお仕事に集中する。今日は焙煎した豆の仕分けをしなきゃいけないのだ。
グアテマラ、ニカラグア、ブラジルサントス。もはや飲んだことのない豆の方が多い。
……国自体はもう無いのに、国をルーツとする豆の名前はそのままなの、不思議だよな?
文明が崩壊して以降の珈琲豆は生産体系が違うから、旧文明時代の豆と比べると味も香りもちょっと違うらしい。この前マスターが言ってた。
俺は飲んだことないから比較とか出来ないけど。そもそも、元々の味を知らないからな。
それを悲しいとも寂しいとも判ずることは出来ないが、まあ、この豆の香りの良さを感じることは出来る。変わろうが、何しようが、いいものはいいのである。
「あ、マスター。ブルマンってどっちの棚でしたっけ?」
「ああ、右の棚にしまっておいてくれるかな」
「了解でーす。……なんか豆増えてません? また新しいの入荷したんですか?」
せっせと仕分け作業に集中していると、からんころんと鐘が来客を告げた。
入り口に目を向けると、豊かな銀髪に赤い瞳の美少女。すっかり見慣れた彼女であった。
「──あ、ビビアンさん! いらっしゃいませ!」
「しょ、ショウさん。お久しぶりなのです。その、お元気でしたか」
お久しぶりというか、三日前にも店に来てたような。そう思ったが、俺は言葉を飲み込んで、頷くだけに留めておいた。空気が読めるタイプなので。えっへん。
俺が内心で胸を張っていると、ビビアンさんが常連さんに視線向けていた。……なんか、すごく不満そうな眼だな。そう、例えるなら、「なんでお前が此処に居るんだ」とでも言いたげな──。
「……ヒューゴ。今日は、劇場の方へ行く予定ではなかったのですか」
言いたげどころか、言った。言外に。
アッ、お知り合いだったんすね。俺はそう思いながら、カウンターに座ったビビアンさんにお冷を出した。余計なことは言わない。デキる店員なので。……常連さん、ヒューゴって言うんだな。ヘェ〜という顔で大人しくしておく。
「何。そう邪険にするな、ビビアン。思いの外早く片付いてね、仕事後の一服をしていたに過ぎない。若者同士の交遊に水を差すつもりは毛頭ないとも」
「な──、……ふ、ふん。そんな心配はしていませんっ」
ビビアンさんはカフェオレを頼むと、しばらくの間、口を閉じていた。マスターがミルクを温める音と、古いジャズミュージックだけが空間を満たしている。
やがて、ことりとビビアンさんの前にカフェオレが置かれると、ヒューゴさんが口を開いた。
「時にビビアン。この後の予定は?」
「……? いいえ、特に何もありませんが……」
「それは重畳。少しばかり話したいことがあってな」
何やら真面目な顔で話をしているので、邪魔をしないようにこそこそと影を薄くしておく。……ぽんぽん、と慈愛の顔をしたマスターから肩を叩かれたが、一体なんなんだ?
「さて。先日、『郊外には近づくな』と忠告したが──その言葉、ゆめ忘れるなよ」
「いやどんだけヤバいんすか郊外。世紀末?」
「ふむ。世紀末、とは……随分と面白い言い回しだな。この新エリー都に住む人間の語彙にしては、なんとも」
ヒューゴさんは肩を竦めた。……確かに。既にこの世界、世紀末みたいなもんだったわ。俺はそっと視線を逸らした。
「郊外が『ヤバい』のではなく、君が──いや、今はいい。あまり余計なことを吹聴しては、いつか君の保護者に嗅ぎつけられそうだ」
「エッ、なに? 俺? なんの話!?」
「ヒューゴの言うことは気にしなくていいのです。それより、ショウさんにお勧めしたい本が──」
ビビアンさんの言葉はちょっぴり辛辣で、それだけに二人の関係がよくわかるものだった。アッ、仲良いんだね……。否定されそうだから口にはしないが。
俺はビビアンさんの差し出したスマホの画面を確認して、頷く。レビュー評価の高い単行本だ。なになに……、『薔薇の芽吹く夜』?
「ふんふん、ミステリ……、推理ものかぁ。……俺、頭良くないけど大丈夫かなあ?」
「問題ないのです。確かにジャンルとしてはミステリに分類されますが、この作品の醍醐味はなんといっても耽美な──こほん。友人同士の強い絆ですから。語句も文法表現も豊富なので、ショウさんのお勉強にも役立つのです」
「……。……ビビアン。布教の芽を蒔くのは結構だが、程々にな」
ビビアンさんの愛読書紹介を夢中になって聞く俺は、二人の間でこっそり交わされるアイコンタクトも、水面下で動き続ける影にも──アキラとリンが次に拾ってくる『依頼』にも、やっぱり気付いていないのであった。
多忙が重なり、最新バージョンにも追い付けず、とうとう11月になってしまいました。
スタレコラボまでに追い付きたいところですが、果たして……。