LUPIN THE Ⅲrd × EVANGELION: Silent Code 作:あめんぼユカイ
爆発音の余韻だけが、夜の工場跡に滲んでいた。
焦げた鉄骨がきしみ、静寂のなかに何かが微かに呻く。
「……妙だな」
くたびれたトレンチコートを着た男──銭形警部は、
焦げ跡の中心に立ち、あたりを見渡す。
瓦礫の下からは、溶けた銃火器の残骸が顔を覗かせていた。
しかし──その痕跡は、彼の知る兵器のものとは明らかに違っていた。
爆発の“音”が、耳に残る。
いつもなら、鋭く爆ぜ、瞬時に消えるはずの音が、
今夜はまるで……何かを語りかけるように、長く尾を引いている。
「ただの密輸事件じゃねぇな……こりゃ」
銭形は手袋を直し、金属片の一部を拾い上げる。
表面にうっすらと刻まれた、見慣れない文字列が目に留まった。
──Z.E.L.E.
「……ゼーレ、か。ドイツ語か? いや、違うな──何だこれは」
聞き慣れぬ響きと、どこか脳裏に引っかかる記憶。
まだ形にならない何かが、胸の奥で静かにうごめいた。
その時だった。
不意に、耳の奥で、音が鳴った。
それは現場のノイズでも、誰かの声でもない。
まるで、遠く離れた場所で──誰かが記録を始めたような、
静かで確かな“意志”の気配だった。
銭形は目を細め、夜空を見上げた。
雲の切れ間から覗く空は、ただ深く沈んでいる。
「……何が始まっていやがる」
彼は誰にともなく呟き、
そして何も言わずに、焦げ跡の中へと歩みを進めた。
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夜の静寂に、記録端末の起動音が微かに鳴った。
銀色の指がスイッチに触れると、液晶が静かに明かりを灯す。
──日付:不明(データ手動入力)
──観測ログNo.1174
【記録】
時刻21:13、南緯27度地下シェルター内での振動異常を確認。
爆発音に類する衝撃。
機械的な反応ではなく、“共鳴”に近い周波数。
音の“尾”が長く、消え際に──感情のような揺らぎを検知。
(表現が曖昧で申し訳ない)
男は、端末を脇に置き、
火のついていない煙草を唇にくわえた。
その姿には、疲労と覚悟が等しく積もっていた。
誰にも見せぬまま、誰かに届くことだけを願う記録。
それが、彼の“日常”だった。
天井を見上げる。
そこには、どこにも空はない。
だが──今夜のその“音”だけは、何かが違った。
まるで、向こう側から誰かが、
「気づけ」と囁いたような。
男は立ち上がり、ふと、手元の手帳を開く。
記録にはない走り書きが、一行だけ記されていた。
“同じ音が、どこかでも鳴ったはずだ。”
誰に向けた言葉でもない。
だが、その一行には、“確信”が宿っていた。
彼はそっと煙草を外し、代わりに端末の電源を落とした。
記録終了──静けさが、再び部屋に戻ってきた。