個性【影使】のヴィランズアカデミア   作:丑こく参り

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第一話 ファイバーマスター・オブ・ザ・デッド

 この世には、『弱者』と『強者』が存在する。

 『弱者』はあらゆるものを奪われ、『強者』はあらゆるものを手に入れる。

 それが道理。それが条理。 

 ならば、そんな世界で自由に生きるには力が必要だ。残忍で、残酷で、悪辣な力が。

 例えそれが、この世の正義に背くものだとしても――私は『悪』の一文字を背負い生きていく。

それが私――月影夜花の背う人生だ。

 

 暗い、暗い路地の奥。

 

 そこは惨劇の現場へと変わっていた。

 

 壁を濡らすは赤黒い鮮血。

 

 地面に転がるのは首の無い死体。

 

 静寂のみが伝わる空間にて、私は一人壁に背を預ける。

 

 (ヒーローはこない。残酷だが、それが現実だ)

 

 ヒーロー。おおよそ一般的に言えば、ヒーロー活動認可資格免許を持つ者たち。

 

 所謂花形の職業であり、公的な場所での個性使用を認められ、自身の個性を生かして社会貢献することを求められる『正義の怪物』。

 

 この殺戮を見ればそんな『正義の怪物』たちは私を糾弾し、罪に咎めようと襲う事だろう。

 

(それも一興ではあるが……まぁ、来ないなら来ないで、とっとと処理をするか)

 

 黒いワンピースについた血を払い、地面に伸びる影が広がる。

 広がった影は死体を取り込み、影の中へと沈めていく。

 

 個性【影使】。自在に影を生み出し、影を操る個性。生物以外のあらゆるものを無限に取り込む事ができ、処理を手早く終わらせる事が出来る。

 

 影の中に死体を収めた私は欠伸を噛み殺し、目を擦る。

 瞬間、何処からとも無く糸が伸びてきた。

 

「手緩いな、ヒーロー」

 

 一瞥。そして剪断。

 伸びた糸を指先が絡め、引き千切る。

 

「殺し合いの場に『不殺』を持ち込むのは無粋だと私は思う。相手が殺す気でいるなら、殺す気で挑まなければ、それは戦闘の侮辱でしかない。そういう意味では、ヒーローは戦う者として失格だ」

「そうか。しかし、私はこの道を歩む以上殺される覚悟は既に済ませてある」

 

 路地裏と通りを繫ぐ境界。

 そこに立っているのは、長身の体躯をジーンズで身を包んだ男だった。

 

 テレビや雑誌で幾度となく見たことのある特徴的な姿に、私は口角を歪めた。

 

「『ファイバーヒーロー』ベストジーニスト……だったか。ビルボードチャート4位のトップヒーローが来るとは、私も随分と有名になったものだ」

「ヴィラン名『シャドウ』。ヒーローヴィラン関係なく戦いを挑み、死傷者を生む武闘派ヴィラン。謎のヴィランだと聞いていたがが……随分と異質な見た目をしているのだな」

「異質か。まぁ、この姿は確かにそうだろうな」

 

 私は自分の腕を見下ろし――身に纏う黒い鱗を見つめる。

 

 四肢。そして蜥蜴の尾。

 

 リザードマン――そう呼ばれるであろう異形の姿を持つ私をベストジーニストは何をするまでもなく体を強張らせる。

 

「生まれつきの個性疾患でね。突然変異した個性と両親から受け継いだ個性、二つを生まれつき保有しているだけだ」

「そうか。しかし……!!」

 

 ベストジーニストが右手を伸ばす。

 その瞬間、ベストジーニストの右腕が宙を飛んだ。

 

「なっ……!?」

 

 ベストジーニストの目が驚愕と困惑に見開かれる。

 同時に、私は地面を蹴った。

 刹那の加速。瞬時にベストジーニストへ肉薄しその胸に影で作った刀を突き刺した。

 

「がっ……!?な、ぜ……」

「【ファイバーマスター】が効かなかった、か?」

 

 口から血を吐き出すベストジーニストから刀を引き抜く。

 力なく地面へ倒れるベストジーニストを見下ろしながら、私は一つに纏め三つ編みにした黒髪を掻いた。

 

「【ファイバーマスター】。繊維を操る強力無比の個性。人が服を着ている以上抗えない拘束に長けた、ヒーローらしい力だ」

 

 けど、と私は付け足し、自分の着ているワンピースに手をつける。

 それと同時に、ワンピースは揺らぎを生み出し始める。

 

「繊維を操る個性で影を操る事は出来ないだろ?有名過ぎるって、罪だよな」

 

 影の中からスマホを取り出し、見せつけるように持つ。

 

「ビルボードチャート4位。全国に存在するヒーローの中で、上位も上位の人気を持つ、紛うことなきプロヒーロー。逆に言えば、その活動は逐次SNSにアップロードされる。お前がこの近辺に居ることは筒抜けだったわけだ」

 

 ヒーローとは、その『個性的』な生き方を提示する者。

 人気になればファンが付き、その活動は大衆の目に触れられる。

その目が私の近くにいることを気づかせた。

 

 「個性は有名だし、対策も簡単。直接戦闘に長けたエッジショットが入れば良かったが、近隣にいない。後は適当に私の痕跡を残させ、仕掛けるよう仕向けるだけで良い。ああ、それと……」

 

 瞬間、ベストジーニストの身に纏う糸が解れる。

 

 同時に、ベストジーニストの体を影の剣が刺し貫いた。

 

「ガッ!?」

「流石プロヒーロー。最後まで敵意を隠さず、私の確保に望む姿勢は尊敬に値する。が、私は距離次第だが服の内側に出来た影も操れる」

 

 ベストジーニストの体を刺し貫く幾本もの影の剣。

 剣は影に還り、血溜まりを生むベストジーニストを見下ろす。

 心臓を穿ち、肺を刺し、小腸を切り裂き、胃を破裂させ、腎臓を潰す。

 臓器という臓器を影は壊し、ベストジーニストは呼吸を止めた。

 

「さて、と」

 

 手にした刀を振りかぶり、振り下ろす。

 振り下ろした刀はベストジーニストの首を切り裂き、胴体と分つ。

 

 これでベストジーニストというヒーローは完全に死んだ。

 

「始めようか、私の私による惨劇を」

 

影は広がる。

悪意を持って、光を呑み込み食らいつくす。

 

——これは、ヒーローの物語にあらず。

 

——これは、私が自由に生きる物語。

 

 

名前∶月影夜花(つきかげよばな)

年齢∶15歳

性別∶女性

個性∶【影使】【蜥蜴人】

ヴィラン名∶『シャドウ(数少ない生存者の証言で影を操る個性だと判明しているから。なお、その生存者も意図的に生かしているだけ)』

概要∶『自由』に生きることを望む少女。強いヒーローやヴィランを襲い、金品を奪って生計を立てている。

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