1.は?負けたいんだが?
私、星乃しずくには───夢がある。
負けたい───と。
いや、別に私が強すぎて敗北を知りたいだとか、わざと敗北して怪物に頭から食べられたい……なんてそんな頭のおかしい異常な願望がある訳じゃない。ただちょっと私の事が欲しくて仕方ない存在に、力及ばず敗北して───抵抗も虚しく全身をそれはもうドロッドロのグッチョングチョンにされたいだけなのだ、私は。
ジャンルにすれば『わからせ』や『ヒロイン敗北』というやつだろうか。私自身が負けたいだけで、他の子が負けてるのを見たい訳じゃないから少し違う気もする。これは、『マゾ』と呼ぶべきなのか『破滅願望』とでも言うべきなのか。いや、『それ』にあえて名前を付けるべきではないのだろう。
私は、必死に築いた私の全てを。私の尊厳と一緒に……滅茶苦茶にして欲しい。そんなあくまでほんの少しだけ一般的な性癖からは外れているかもしれない『それ』は、何時の日からか私の目標へと変わっていた。
相手は誰だっていい。媚薬塗れのスライムでも、うねうねとした触手だっていい。なんなら人間でも無機物でも神だっていいんだ、そこに性別や種族なんて関係ない。『愛』と『服従』さえあれば。
そういうほんのちょ〜っとだけ一般から外れた性癖を抱えたのが、私という人間だった。
そんな運命の
「魔王であるこの俺様を倒したとしても……第二、第三の───ふべッ!?」
───殆ど廃墟と化した建造物の上で、安い負け惜しみを吐こうとした成人男性ほどの肉塊を蹴り上げていた。終わってみれば肩書の割に大したことのない奴だったな、フィジカルが強いと言えば聞こえはいいけど……少し動きが早いだけ。
それに今の時代、ボスが復活するなんて……
「そう言うのは流行らないと思うな、負け犬さん☆」
「ぐっ、私は負けてないが───ッ!?」
何か言い残そうとした敵の『魔王』とやらの顔面を蹴り飛ばしてから───ふと我に返る。
いや、何でお前が負けてんねん。負けたいのはこっちやぞ。
イヤホンから流れるラジオのニュースは、今日も人間の偉大なる一歩を称え続けている。先日、ついに世界の敵である『外敵』の親玉である『魔王』とやらは、無様に敗北宣言をかましたわけだ。
負けたい私を───差し置いて。
ふざけるなよ? 魔を統べる王が負け犬ワンちゃんだったとしたら、一体誰が私の御主人様♡になってくれるんだよ。
「今回現れた魔力反応は、『魔族』の中でも『外敵』に相当するものだと言われており───」
ちなみにだが、魔界に住む『魔族』には友好的・中立的な種族も存在する。だからその中でも、人に仇なすものを『外敵』と呼んでいる訳だ。
「また、今回の魔力反応は直近でも最大とされていて───」
「ちょっと、聞いてますの?」
本当に負ける気あるの?運命の相手とやらの探し方が下手なんじゃない?
そんな疑問の声が聞こえてきそうだが、ちょっと待って欲しい。確かにわざと負けるのは私の主義主張に反する所があったからさ?手を抜かず一生懸命にやってきた所はあるかもしれない。
だけど、私の目標には二つの大きな誤算があった。
一つ目は、『愛』が無かった事。外敵が捕まえた女の子を苗床にするのは、この世界では別に珍しくなんてない話だけど。彼らはメスであれば───なんでもいいのだ。それはちょっと解釈が違うじゃん?私を私と認識したうえで、滅茶苦茶にして欲しい。
二つ目は、『服従』させられるような相手がいなかった事。つまりは私の魔法少女としての才能がありすぎた事だ。自分でもおかしいなとは思っていたが、どうやら私の天職は魔法少女だったらしい。そこまでの才能は求めてないんだが?
「今回の魔力反応の発生区域はこの───」
「ちょっと、本当に大丈夫ですの?」
まあ私が
「……これで今回のミーティングは終了です。皆さん持ち場についてくださいね」
負けたがりのマゾが負けても綺麗じゃない、そこには……カタルシスが無い。強くて可愛くて優しい、私みたいな美少女が負けて……無様な姿を晒す事によって生じる落差にこそ、真の敗北があるのだ。
だからこそ私は、外面を取り繕う事に決して妥協はしない。毎朝6時に起きてランニングついでのゴミ拾いをし、困ってる相手へは積極的に手を差し伸べる。誰もが憧れる理想の魔法少女『マジカル☆サテライト』の姿が、そこにはあったのだ。こうしてミーティングを受けている間にも……ミーティング?
「───サテライト!」
耳元に響く大きな声でようやく思考の海から現実へと引き戻される。
「んっ、えっと……お呼びになりました?」
「お呼びになりました? ではありませんことよ! ミーティングはとっくに終わってますのよ!?」
そうだ、あまりの失意のあまり……今は魔法少女協会の会議室で作戦のミーティング中だったという事を完璧に忘れていた。折角取り繕った外面を剥がすわけにはいかない、ここは美少女スマイルで誤魔化すしかない。
「その、少し考え事をしていまして……」
「ミーティングの最中に他の事を考えるなんて言語道断ですわ! ランキングが一位だからと言って、ミーティングをサボって良い訳ではありませんのよ!」
「あはは、ごめんなさいね?」
「もう……貴方って人はッ!」
プンプンと怒った様子の彼女だったが、それ以上の追及は止まった。やはり美少女のスマイルは全てを解決する……そう言う事だろう。
「わたくしの方でノートにまとめておきましたわ! 余裕があるときに目を通しておくんですのよ?」
そして、この絵に描いたような金髪縦ロールのお嬢様は『魔法少女グライシア』。魔法少女ランキング二位の実力者であり、魔法名は知らないが……魔法少女らしくド派手な氷の魔法で戦っているのをよく目にする。
ここで一つ補足にはなるが、魔法名を知らないというのは……別に彼女と仲が悪いという訳では無い。魔法少女にとって魔法名と変身前の情報は秘匿すべきものだからだ。何故かって……そりゃあ、『外敵』が居ても人間も一枚岩では無いし。本当愚かだよね、人類って。私も負けたくはあるが、流石に家族に危害を加えようとするのを黙って見ているつもりは無い。
ついでにもう一つ補足しておくと、グライシアの本名は橘クロエだ。同じ中学校に通う同級生でもあるからね……魔法少女の認識阻害によって分かり辛いとはいえ、流石に分かってしまう。
そして、私のしんゆ───うん、友人でもある。
「さぁ、わたくし達も現場に向かいますわよ!」
そう言って瞬きする一瞬の内に魔法少女姿へと変身した彼女。青を基調とした衣装は彼女の魔法のイメージに合っていてとても似合っている。だけど、何時も思うが───あまりにも遊びが無い。
折角コスプレみたいな可愛い衣装に着替えれるんだから、もっと何か……あるよね?例えば……こういうのとかさ。
「マジカル☆チェンジ───☆」
ステッキを振ると、謎の光が私を包んで……それと同時に着ていた服が解けて魔力が私の身体を覆っていく。それは少しずつシューズに、フリルにロッドへニーソへと形を変えて。
「魔法少女マジカル☆サテライト!」
スキップをするように跳ねると、突き出した胸部に淡い光が集まり一際大きなリボンが付く。
「───スターライド☆」
変身バンクが明けたら、顔の前でピースをしてウインク……決まった。毎朝、鏡の前でポージングの研究をしているだけあって今日も完璧だ。フリフリのドレスとタイツの間から覗く絶対領域と、白い手袋とドレスの間で露出した肩。清楚そうに見えて、出すとこは出しているこの衣装は可愛さとエロさの完璧なまでの調和を果たしていると言って良い。
そしてそれを着ているのは強くて可愛い私……完璧か?
「……それ、わざわざ毎回やる必要はありますの?」
「必要だよ? 皆に愛と希望を届ける為に!」
「皆も何も……此処には、わたくしと貴方しかいないじゃありませんの」
「こういうのは普段から欠かさない事が大事なんだよ?」
「全く、変な所で抜けているというか常識が通じないのですわ……」
絶対いる(鋼の遺志)
手前味噌になっちゃうけど可愛いからね。私の真似してこういうの流行ってくれないかな……
それで、結局何のミーティングだったんだっけとノートを捲る。そうそう、デカい魔力反応が起きたから原因を探るためのパトロールだ。流石は私の優秀な頭脳、考え事をしていても内容はちゃーんと聞いていたらしい。
別に私が持っているのは索敵が得意な魔法じゃないんだけど、市民の平穏を守るためのパトロールは普段からやっている事だ。それに少しばかりのミッションが付随するだけに過ぎない。まあ、魔王より強い相手がいきなり湧いたりする訳無いだろうし、暫くは……私の求める相手とは出会えないだろう。そんな事を思いながら、夜の街へと駆け出して行った。
その時の私は、あんな事が起きるとは……思っても居なかっただろう。
パトロールは順調で、デカい魔力反応とやらの正体はすぐに見つかった。それも、まるで最初から隠れる気すらないのではないかと言うほど簡単に。だからこいつを倒して今日のパトロールは終わり───そのつもりだった。
「ふふっ、随分と辛そうねサテライトちゃん。そろそろ諦めたらどうかしら?」
「ぐっ、私はまだ……」
立っていられずにその場に膝をつく私、それを見下すのは角と羽の生えた人型の魔族。まさか、私を追いつめられるだけの力を持った相手がまだいるなんて。しかもこちら側に現れるなんて思ってもいなかった。
こちらを見下すように空を飛んでいるのは、破廉恥な格好をした女性型の魔族。即ち──―『サキュバス』とやらだった。そんな相手に私が苦戦を強いられていたのには……訳がある。それは単純に彼女との相性が悪いからだ。
私の能力は言ってしまえば近距離パワー型。状態異常のような搦め手にはあまり強くは無い。
「んぐっ……!」
流石はサキュバスの魔法と言うべきだろうか、動く度に布が擦れて身体中に突くような快感が押し寄せる。こんな状況じゃ魔法の精密な操作も行えない*1。魔力も底が尽きそうだ。*2
「必死に足掻く姿もとっても素敵よ♡」
今思えば、やけに簡単に見つかったのは目的が最初から私だったからなのだろう。このままじゃ───負ける。遂に負けてしまう……こんな可愛らしくて強くて優しい私が負けてしまう。
私の身体が欲しくてたまらないサキュバスに負けて、巣穴に連れ去られ四肢を拘束された上でとんでもない目に遭う……!
子どもには見せられないシーンが……この後始まる。
「わたしは魔法少女☆マジカルサテライト!」
「皆の笑顔を守る為───私は
虚勢を張れ、最期の一瞬こそ───
「やっぱり、これでも足りないのね。流石は魔法少女サテライト」
「それでこそ……私の求めた光よ。だから私も
辺りに甘くて濃い魔力が渦巻き始める、次で彼女もこの戦いを決めるつもりなのだろう。
私も出来るだけ必死に抵抗しよう、私が魔法少女サテライトとして見せる最後の煌めきを……
「これこそがサキュバスの秘技とも言える技───『サキュバス・バスター』」
えっ? 今バスターって言った?
「使用者の生命エネルギーをビームとして放つ文字通りの奥の手よ。私は貴方を手に入れるためなら例えこの身だって惜しくは無いわ……!」
「そんな事をしても意味なんて……」
私が欲しいのに、自分が死んでその後どうするつもりなんですか???
「だから『1年』よ。私の長い寿命の内の『1年』だけ残して……それ以外の全てを捧げるわ。だからありったけを───」
───違うじゃん。
サキュバスなんだから奥の手は『魅了の瞳』とかであるべきじゃん。
なんだよ『サキュバス・バスター』って、おもいっきり物理技じゃねえか。
しっ、しかも代償があまりにも重すぎる。
負けたとして一年後には未亡人確定なんて冗談じゃないが?
集まった魔力が空気を震わせ始める、ここを耐える事は出来なくもない───が、ここでこの逸材を逃せば次なんて現れない気がする。でもわざと負けるのは違うじゃん……
いや、選り好みしすぎた結果……嫁ぎ遅れたのが今の私なんじゃないか?
これだけの好物件、今まで見た中でもトップクラスだ。
それに命をかけてまで私が欲しいなんて……私の事凄い好きじゃんか。
私は覚悟を決めて、魔法を発動する。
私はわざと負けたんじゃ無い……そうだ。
彼女の自身を犠牲にしても勝ちたいと言う───『覚悟』に負けたんだ。
「……ふんっ!」
魔法によって加速した拳が身体に突き刺さり、あまりの衝撃に肺の空気が外へと漏れ出る。
あっ、これ思ったよりも痛い? いやでもこれ以上は加減なんて出来ない───
「……きゅう」
「……あら?」
その場に立っていられず、膝から倒れ伏す。
困惑の声を聴きながら、私の意識は───深い闇へと落ちていった。
次回『女淫魔に負けたいんだが?』
乞うご期待
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キャラの掛け合い
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戦闘描写
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えちちなシーン
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地の文・心情
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その他(よければ感想まで)