「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

10 / 78
9.泳げない訳では無いんだが?前編

 マスコットみたいな見た目になったお陰か、エッチさよりも可愛いが勝るショッキングピンクの髪の淫魔。ボンテージアーマーとか言うニッチな装備をしているのに、ぷにぷにの見た目からはやはり可愛らしさが勝るので、私の部屋に居てもそこまで……そこまで違和感はない事も無い。いや、やっぱり違和感しかない。

 

「確かにその淫紋の効力を抑えるには自らの欲望を発散させるだけでいいの、それは確かに自己愛だとか食欲とか……そう言う事でも少しなら発散できるはずなのよ」

「……うん」

「それでも……これだけ魔法を使って……平静を保ってるなんて」

「……うん」

 

 流石に、そろそろ私の本性も隠し通せなくなったのだろう。頻度が、頻度が多すぎたのだ……仕方なくバレるのはこの際、諦めてはいたけどさ。私の事を慕ってくれているルクスの夢を壊したくは出来れば……出来ればしたくなかったのに。

 

「……なんて鋼の精神なのかしら、サテライトちゃん♡」

「うん?」

「欲望と必死に戦いながら周囲を守るために戦う魔法少女……それでこそ私の光……」

 

 こっ、恋をする乙女は盲目と言うべきか。未だ私の事を信じてくれているらしい。そんな彼女の期待を裏切れない反面、バレたらどうなるのか想像しただけでゾクッと来る。いや、流石に申し訳なさの方が勝るな。

 

「今日の帰りは遅くなるの?お母さまが今夜はビーフシチューって言ってたわよ」

「ううん、今日は直ぐ帰ってくるつもりだけど……」

 

 何時の間にお母様と仲良くなったんだ、そもそも……なんて紹介したんだろうか?もう何も分からない。私は基本的に……私の事が好きな人の事は好きだからさ。そんなルクスの期待は裏切りたくない。そうだ、今度はちょっとだけ我慢してみよう。さっすがに性欲なんかにこの私が……負ける訳が無いが?

 

 

 

 お昼ご飯を食べつつ、教室から窓の外を見渡す。今日は天気が良い、夏の日差しが少し眩しすぎるが……そんな日だからこそ水泳の授業が楽しみなのだ。泳げるのかって、当然だ。私は陸海……そして空も抜け目なしの最高の魔法少女なので。野良魔法少女たちの集いもあれから音沙汰無いし……

 

「遂に日常が帰って来たって感じがするね」

「あなた……フラグを立てなければ気が済みませんの?」

 

 断じて私のせいではないが、太ももの上に置いていたスマホが震える……その衝撃に思わず震える。あっ、ちょっと良いかも。

 

「おバカ!?緊急招集ですわよ、あなたが変身する必要はありませんから……ほら!」

「それ私が行く必要……」

「行きますわよ?」

「……はい」

 

 何処に行くにも私を連れて行こうとするクロエちゃんは、今日も私への過保護っぷりに磨きがかかっている。男子じゃないんだから、お手洗いにまでついて来ないでいいのに……それもまあ、私のせいと言われたら何も言えないんだけどさ。そんな彼女に連れられて教室を抜け出す。

 

 人類に仇なす外敵。一部の例外を除いて、魔法少女にしか対処のできない存在である彼らが出現した場合……その近くにいる魔法少女に協会から出動要請がかかる事がある。今回はちょうど私達の中学校から10㎞程の場所に出現反応があったので、私達に要請が来たという訳だ。

 

 

 出現予測地点である自然公園に辿り着く。此処までの移動も魔法少女にとっては大したものではない。それに……魔法少女に変身しなくても、多少なら魔法は使えるのだ。強度はかなり下がるが。ところで、一見面倒くさそうだと思われるこの外敵討伐は……実は結構人気があったりする。それは、知名度を稼げる名声を稼げるといった概念的なモノもあるが……

 

「来ましたわね、牛型といった所ですわね」

「頑張って、グライシア~!」

「言われなくても……ですわ!」

 

 単純な話……儲かるのだ。外敵の種類にもよるが、牛型は毛皮が防具に角が武器に加工され……肉は好事家(こうずか)達の間で高値で取引される。正に無駄が無い当たりの外敵と言えるだろう。その代わり負けると、あのでっかいのにでっかいのされる訳だが。外敵に負けた魔法少女なんて大抵はそう言う目に遭うか、その場で餌になる。

 

 それを避けるためにも、基本的に魔法少女は二人一組のバディを組むことが推奨されている。両方逃げられない程に追いつめられるという事は……早々ないからだ。それも絶対では無いが……そのお陰か外敵にさらわれる魔法少女の数は年々減ってきている、これも今の協会の功績と言えるだろう。

 

氷面(ひも)か───!?」

 

 この程度の相手は、第二位からすれば大した相手ではない。だから一撃で仕留めようとしたところを───横から放たれた一陣の風が邪魔をする。驚きながらも私を庇う姿勢を取った彼女を尻目に放たれた二射目は、一撃で牛型の外敵の首を刈り取り……ゴトリと地面へその頭が落ちる。

 

「しずくに当たったらどうするつもりですのッ!?」

「ほら、グライシア……私は大丈夫だから……」

 

 怒るクロエちゃんを宥めつつ、相手方の出方を伺う。金欲しさにこういった事をする魔法少女が居ない訳では無いが……そんな事をする相手に想像はつく。最近増えている、魔法少女による謂わば『横狩り』。違法では無いものの、限りないグレー行為を行う集団が増えていると聞いては居たものの……こうして会うのは初めてだった。

 

「私達がとどめを刺したんだから、それで良いだろ?ほら、わざわざご足労様ってか」

「こういうのは早い者勝ちって常識じゃん?」

 

 薄いオレンジと、紫の髪の魔法少女……そのどちらにも、見覚えは無い。おそらくは協会の魔法少女以外の存在、最近幅を利かせていると噂の野良魔法少女の集団だろう。グライシアに物怖じしていないあたり、ニュースも見れない程、窮屈な環境で過ごしてきたか……もしくはただの馬鹿だ。

 

「新星魔法少女協会ですわね……」

「おっ、私達も有名になったみたいじゃん」

 

 互いに一触即発の状況。彼女たちの言い分も分からないでもない、だが最初の一撃はやりすぎだ。もしもグライシアが避けていれば……推定民間人の私に当たる所だった。恐らくはそこまで考えられていないだけなのだろうが……相手が悪すぎる。

 

「……謝りなさい」

「は?何で私達が謝らなきゃいけないじゃん」

「おい、こいつヤバイって……」

「謝れって言っているのです、今ならまだ半殺しで許して差し上げますわ」

「ひっ!?」

 

 その危機迫る表情に恐れをなしたのだろうか、思わずと言った様子で風の魔法を放った少女の行動。それは……流石に見逃せない。

 

「───変身」

 

 変身して一息の間に両者の間に立つと、風の刃を搔き消す。それを見逃してしまえば……私が気持ちよくイキられないだろうが。

 

「マジカルサテライト……スターライド☆」

「なっ、サテライト……!?」

 

 驚く彼女達には悪いが、私には問い詰めなければいけない相手がいる。

 

「グライシア……わざと受けるつもりだったよね?」

「……お見通しという訳ですわね」

 

 魔法少女協会の顔であり、橘財閥の御令嬢でもある彼女を野良の魔法少女が傷つけたとなれば……各所が黙っていない、そんなに軽率に戦争の引き金を親友に引かせるわけにはいかなかった。余程私が危害を加えられそうになったことが腹に据えかねていたのだろう。私の事……好きすぎか?

 

 正直、野良の魔法少女を是が非でも守りたいという訳でも無いけど……親友が手を汚そうとするのなら話は別だ。私の事を好きな人には、幸せになってほしい。そんな区別主義で私は日々を生きている。

 

「ここは私の顔に免じて、退いてほしいな☆」

「……あぁ」

 

 撤収しようとする魔法少女たちを油断なく見送ってから、グライシアの方へ向き直る。やや居心地が悪そうな顔の彼女は、自分がしようとした事の重大さに気付いたのだろう。

 

「私の為に怒ってくれてありがとね、グライシアの気持ちはとっても嬉し……ひぎゅっ♡」

「だっ、台無しですわね!?ほら、こっちへ……」

「きょ、今日は我慢する……」

「我慢って……そんな事出来るんですの?」

 

 私を誰だと思っているのだろうか?立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は世界一位のサテライトちゃんだよ。絶対に性欲なんかに負けたりしないんだから……!

 

「もちろんだよ!私って……最強の魔法少女だから☆」

 

 正直な話、一週間も学校を無断で欠席したり……そろそろ出席日数とかが怖いのだ。

 


 

 昼過ぎの微睡そうな温度の教室で、茹だるような熱に襲われ……机に突っ伏している私は、勝ったとは到底言えないような有様だった。一時間目でこれか、結局……快楽には勝てなかったよ……

 

「───にはこの公式を当て嵌め……」

「ふぅ……はぁ……っ♡」

「……本当に大丈夫ですの?」

 

 今ハメるって言ったのか?どうしよう、意味が分からないくらい……身体中が熱い。視界がぼやけて思考も靄がかったようにエッチな事しか考えられない。感覚が鋭敏になって、服が擦れるだけで全身に甘い痺れが奔る。

 

「だっ、だいひょぶっ……♡」

「そんな表情(かお)をされると、私の方が大丈夫じゃなくなりそうですわ……!」

 

 もしこの状態で先生に問題を当てられたら、どうなってしまうんだろうか。黒板の前に立って、皆の前で問題の答えを書く。クラスメイトの視線が私に集まって、普段なら分かる問題の答えを何時までも書き出さない私に……少しずつ怪訝な視線を送り始めるのだろうか、それとも心配してくれるのだろうか。私が必死に積み重ねてきたイメージが……グラリと崩れる。そんな事を考えただけで……

 

「んっ……♡」

「ちょっと、保健室に……」

 

 クロエちゃんが立ち上がろうとした瞬間、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。何とか乗り切った、後1時間だ。次の時間さえ乗り切れば……この戦いに勝てるんだから!

 

「次は……体育?」

「ほっ、本気ですの!?その体調で水泳なんて……」

 

 当然だ、ここまで来たら引けるわけがない。着替えをカバンから取り出して更衣室に向かおうとして……とんでもない事実に気付く。

 

「スクール水着……忘れてきちゃった」

 

 よりによって、間違えて体操服を持ってきてしまっていたという事だ。そんな、ここまでこんなに必死に頑張ったのに……ここまで来て努力が水の泡と化すなんて。こんなのって無いよ、あんまりだよ……

 

「こんなに頑張ったのにな……」

「悲しそうな顔をしないでくださいしずく……その……」

 

 そう言って頭を撫でる彼女が告げたのは、吉報だったのか悪い知らせだったのか分からないが。

 

「わたくしに……考えがありますわ」

 

 秘策だったのは間違いないだろう。




筆に脂がのりすぎたので前後編です。
明日の後編に乞うご期待!

この小説の3つの要素の中で求めているもの

  • 曇らせ
  • 敗北
  • 百合
  • 全部!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。