周囲の女の子達が衣服を脱ぎ、学校指定のスクール水着へと着替えていく。水泳の着替え?のために更衣室へとやってきた私達。いや、着替え……とは言えないのかもしれない。そしてその準備の為に……私達は一番最後に外に出なければいけない。
「自分で言っておいてなんですけど……本当にやるんですの?」
「うっ、うん。授業を受けるためだから……♡」
これは淫紋のせいだから、授業を受ける為だから仕方ないなんて。誰に聞かせるわけでもない言い訳をしながら、制服を脱ぐ。着替え終わっているクロエちゃんが、ゆっくりと世界に半透明な氷の鏡を出現させる。
「万象を映せ───
諸々の調整が終わった後に、ゆっくりと外の様子を伺って更衣室を出る。お日様がキラキラと眩しいが、緊張と動悸でそれどころではない。傍から見れば、何ら変哲の無いスクール水着に見えているのだろう。私の目にもパッと見はそう見える。
「動体に特定の物を写し続けるなんて……結構神経を使いますわね」
「氷面鏡を、クロエちゃんを信じるよ……♡」
「……っ♡」
直接的じゃなくても、十分に私の欲望を発散させられる。まさに一石二鳥の一手だった。ご主人様と学校でお散歩なんて、もしバレたら私は……私は一体どうなってしまうのだろうか。
クラスメイトに見られて、軽蔑されて、通報されて……家に連絡が行くだろうし、SNSにも晒されるかもしれない。そうやって社会的に生きていけなくなった私を、きっとご主人様は仕方なく家に仕舞い込むだろう。外界と閉ざされた薄暗い世界で、私は一生を終えるんだ。ご主人様の犬として生涯を終える事になるんだ。そんな、そんな……♡
「ほら、行きますわよ……しずく?」
「はいっ、ご主人さ……」
口元を彼女の柔らかくて白い細い指で塞がれる。舐めなさい……という訳では無いだろう。流石に私もそのくらいの分別はつく。
「ダメですわ、変身していない時はあくまで
一線を超えないために決めた一件無意味なルール。だけど、魔法少女に変身する代償を解消するためにご主人様になってくれたグライシアとは……未だ変身時以外でそういった情事には及んでいない。それはクロエちゃんの恋愛観や、私達の友達としての一線を守るために必要な……最低限のルールだった。
「ゴメンっ……いこっか、クロエちゃん」
「出来るだけゆっくり動くんですのよ?」
「遅れて申し訳ありませんわ」
「遅く……なりましたっ……」
遅れてやってきた私達に、視線が集まる。集まってしまう。本当にバレていないのだろうか、実は他の皆もおかしい事には気づいているんじゃないか?あっ、見ないでほしい。こんな私を見ないで……
「どうした星乃、顔が赤いが……」
「だっ、大丈夫です先生!ちょっと日差しが強くて……」
「そうか?無理そうなら、直ぐ先生に言うんだぞ?」
緊張のあまり、声が上擦りそうになるのを必死に抑える。夏の日差しと強い風が身体を撫でる。皆が身体に張り付くようなスク水を着ているのに、私は何も着ていない。この身体に凹凸が無い訳じゃないけど、クロエちゃんみたいな豊満なものがあればもっとバレやすかったかもしれない。
「ほら二人一組を組め~準備体操はしっかりするんだぞ」
そうだ、準備体操をしないと。あっ、相手を探さないと……そう思って歩き出そうとしたところで、肩を掴まれる。
「何処に行こうとしてるんですの、流石にそれは不味いですわよ?」
「わ、分かって……分かっていますよ?」
「こんな時でもその優等生面は崩れないのですわね……」
そうだ、無理に他から探す必要は無い。事情を知っているクロエちゃんに手伝ってもらえば良いだけの事だ、別に私は……好きでこんな事をしている訳じゃないんだから……!これは淫紋のせい、仕方ない事なんだ。仕方ない事なんだから……
両腕をゆっくりと上げ、頭の後ろで組んで肘と肩をほぐすストレッチを行う。なんら変哲の無いストレッチなのに……服装のせいで身体を見せつけているみたいで。やはり可愛くて人気な私と、美人なクロエちゃんのペアには否が応でも視線が集まる。男の子にも女の子にも見られている、その内の一人と視線が合う。さっと恥ずかしそうに目を反らした彼女、恥ずかしい事をしているのは私なのに……♡
熱い地面の上に膝を伸ばして座る、布一枚無いだけなのに……肌に地面が触れるだけでどうしてこんな気持ちになるのだろうか。クロエちゃんに背中を押してもらって、つま先に向かって腕を伸ばす。
「触り方が……なんかその……」
「どういたしましたの?水着越しなら問題ないはずでしょう?」
いやに背中を押す手がくすぐったい、やはりそういう趣味があるのではないのかと思うほどに意地悪するのが上手い。彼女の吐息が背中に当たって、ゾクリと背筋が震える。
背中合わせに腕を組んで、上体反らしを行う。身体全体を伸ばすために効果的なストレッチではあるものの……太陽に向けて身体を晒すその行為。眩しい日の光が私の身体を照り付ける。まるで磔にされているみたいで……違う。私に
「おっ、下ろして……!」
「あら、ちゃんとストレッチはしないと水の中で足を吊ったら大変ですわよ?」
意地悪だ、私が今どんな状況かなんてクロエちゃんは一番わかっている筈なのに。今、私の社会的尊厳は彼女の手の中に握られている。そんな事を、今になって実感する。分かってる、クロエちゃんはそんな事をしない。しないはずだ、でも……もしも?もしもがあったとしたら?
もしこんな恥ずかしい恰好で、いきなり氷面鏡を切られたら?腕を掴まれて逃げる事も隠すことも許されないまま、衆目に裸体を晒す。あっ、ダメだ。考えただけで……考えただけで……♡
「しずく、戻ってきなさい?私も悪乗りが過ぎましたわ」
「あっ、いや……すっごく良かったよ?」
「それはそれでどうなんですの……?」
ようやく下ろしてもらったが、膝が笑ってしまって立ち上がれない。こんなので授業を乗り切れるのだろうか?分からないけど、もう後戻りはできない。もう前にしか道は無いのだから。
クロエちゃんの着ているスク水を反射させて私の身体へと投射する、非変身状態でそんな神がかった芸当が出来るのは……氷面鏡と言う扱いの難しい魔法で、この広い魔法少女の世界の中で第二位を飾っているだけの確かな実力があった。
やはり第二の魔王の出現時は余程体調が悪かったのだろう、正直普段の彼女なら安心して任せられるだけの地力があった。だけど流石にこんな芸当を維持し続けるのは難しいようで。
「……あっ」
プールに入ろうと、ゆらめくひんやりとした水面に触れた瞬間……身体の紺色が揺れる。水と空気の屈折率の違いによる調整が上手く行かなかったのだろう。このままなら、私は……なんて考えも束の間。直ぐに何事も無かったように張り押されたテクスチャに、一安心する気持ちと……いや、一安心だ。他に何もない。
冷たい水が夏の暑い日には気持ち良い、水の中であれば地上よりも多少はバレづらいだろう。それでも、人と人の距離は地上よりもずっと近い。流石に触れられてしまえば違和感に気付かれるだろう、そんな意味ではある意味地上よりずっとリスクがあった。
そんな水泳の授業もやはり、水の中に入ってしまえば『私は』問題が無かった。何とか乗り切ったその後、少し終わるのには早い時間にクロエちゃんに呼び止められる。
「さっ、流石に限界ですわ……先に着替えますわよ」
「あっ、そうだよね」
1時間もの間動く私に、非変身時状態で魔法を維持し続けられる訳が無いのだ。途轍もない疲労だったろう、そんな私の願いを組んでくれた彼女に本当に頭が上がらない。
「先生、少し調子が悪いので先に失礼しますわ」
「あぁ、悪いが星乃……付き添ってやってくれ」
「はっ、はい。分かりました!」
そんな彼女を連れて更衣室へと向かう。そんなプールサイドから離れて除菌用の冷たいシャワーを浴びている時の事だった。
「少々、省エネにしますわね」
「省エネってどういう……あっ♡」
突如として身体の『紺』は健康的な肌色へと変わっていく。もしこんな状態で誰かに見られれば……言い訳のしようが無いだろう。更衣室までは50m、誰も……誰も来ない事を祈る事しか私には出来ない。
「これっ、人が……来たら……♡」
「大丈夫ですわよ、そうなったらわたくしが責任を取ります」
「あっ、うん……♡」
なにも大丈夫なんかじゃないけど、流石に苦しそうなクロエちゃんに無理強いは出来ない。一歩が、その先が酷く長く感じる。ひたひたと熱された地面を歩く私とクロエちゃん。まるで見られているのではないかと、後ろを振り返りたい気持ちが鎌首をもたげるが……見られていたとしたらどの道、一巻の終わりだ。
そうしてようやく更衣室のドアに手をかけ───ようとしたその時だった。
「流石に生徒だけに行かせるのは良くないと思ったんだが……」
「……あっ」
終わった。
後ろから聞こえたのは……聞こえ間違える訳が無い。正真正銘……先生の声だった。ここから誤魔化しが効くわけがない、あぁ、どうしようもない状況になると思考は却って冷静になるらしい。まるで走馬灯のように色々な事が、頭の中を過ぎる。
「あっ……♡」
ぺたりとその場に倒れこむ、普段ならこんな醜態を晒すつもりはないが……何も着てない以上、今更だろう。ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい♡
「一緒に居た星乃はどうした?一緒にはいないのか?」
「ぁぇ?」
「先に更衣室に入っていますわ、付き添いは結構ですから……先生は授業にお戻りください?」
「あっ、あぁ……気分が悪くなったら周りの人を呼ぶんだぞ」
なんで?まるでわたしが、みえていないみたいに?うだったあたまでは、なにもかんがえられない。さっていくせんせいのせなかを、すわったままみつづける。
「なっ、なんで……?」
「人にスクール水着を着せるより、消して見せる方がよっぽど簡単ですのよ」
「あっ……あっ……」
そういった彼女を見て、ようやく事態を理解する。先生には文字通り見えていなかったのだろう。色んな感情が綯い交ぜになって、上手く思考がまとまらない。ついに終わったと思った私の人生は、まだ終わってはいないらしい。
「私のしずくの身体を、他の誰かに見せつけるような真似をする訳が無いでしょう?」
「はっ、はひっ……」
耳元でささやくクロエちゃんの声に安心したのか、思わず涙が流れる。これはどんな感情で流れている涙なのだろうか、自分でも分からない。それでも止められないのは、感情の許容量を超えてしまっている証拠なのだろう。
「ほら、立てますこと?」
「こっ、こひが……抜けひゃって……立てない……」
「……仕方がありませんわね」
そんな彼女に支えられてようやく更衣室へと辿り着く、ここまで凄く長い道のりだった気がする。安心しきってしまって何もする気が起きない。身体を動かすのすら酷く億劫で、指先にも足にもうまく力が入らない。こんなに追いつめられたのは、人生でも初めてだろう。
そんな訳で、柔らかくて良い匂いのするタオルで……されるがままに身体を拭かれている。流石にびしょぬれのまま服を着る訳にもいかないのは分かるが、同級生の女の子に介護されるかのように身体を拭かれるのには何とも言えない感情になる。そして、感覚が鋭敏になった身体では……そんなタオルの毛羽の一本一本が肌を撫でるように触れる感覚さえ感じとれてしまって。
「ちょ、もうちょっと優しく拭いて……敏感だからッ!?」
「こっ、こうですの……?」
今度は触れるか触れないかという優しい手つきが、敏感な身体を撫でる。まるで焦らされているかのような感覚に、脳が沸騰しそうになる。
「あっ、優しすぎ♡そんな愛撫みたいな♡」
「わたくしにどうしろって言いますの……?」
ようやく程良い力強さに落ち着く。何処となく触るような手つきに身体を任せながら、されるがままに……まるでシャワーの後のワンちゃんのように身体を拭かれていく。
「あっ、あーっ。あぁ……」
「ふふっ、可愛らしい表情ね……しずく」
そうして何とか水泳の授業を乗り切った私だったが……しばらくは人の視線に敏感になったのは言うまでもない。少しずつ、だけど確実に身体が調教されていくのを感じている。淫紋に首輪に負け癖に……そして今回の件と来た。取り返しのつかない道を歩んでいるのは、何となく感じるけど。
もうきっと私は今更引き返せないのだろう、それでも良いかと思い始めている自分が居た。
5000字の怪文書。
多分、夜以外に見ない方が多分いいぞ(遅めの注意喚起)
ナニがとは言わないですが、二次創作も歓迎しております。
この小説の3つの要素の中で求めているもの
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曇らせ
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敗北
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百合
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全部!