別室に案内し、お茶菓子を出してくれたのは小学五年生くらいの薄い緑髪の少女だった。彼女は自分の事を、魔法少女『ティンカーベル』と名乗った。聞き覚えの無い名前だが、恐らくは高練度の魔法少女。つまりは偽名か未登録の魔法少女だろう。
「そうなんだ、あなたも魔法少女だったんだね。もしかしてあの時の助けは不要だった?」
「そっ、そんな事ありません! あの時助けられたのは、私の一生の思い出で……!」
そう言って感激のあまりか目を潤ませる彼女。そう言ってもらえると嬉しいが、恐らく彼女一人でもあの場を何とかしていたのだろう。魔力の雰囲気が私と似ている、恐らくは概念系の魔法名を持った魔法少女だろうか?
「あぁ、愛しのサテライト様をこうしてお迎えできるなんて……感激です!」
「あっ、うん……」
「それでは私、皆さんに今後の指示をしてきますね。少しお待ちになっていてください!」
話をした感じは、世界征服だとか権力だとかには興味が無さそうな印象を受ける。だからと言って私をトップに据えて、その権力を笠に何かをしたい……と言うような手合いには見えない。間違いなく心の底から私を崇拝している、反応がもう純粋な限界ファンだ。
だったら何でこんな事になってるんだ? 何時、私をトップに据えて魔法少女協会を作るなんて話になったんだ? 私、戦闘と学業的なIQはとても高いと自負してるけどさ、謀略とかそう言うのは全くの専門外だぞ? まして組織のトップなんて猶更だ。取り敢えず理由を聞いてみないと判断できない。いや、まぁ……待てよ?
彼女達と国に反旗を翻した私、大義の為に必死で反抗し……国を獲るまで、あと一歩の所まで辿り着く。しかし、すんでの所で力及ばず……彼女達を庇い敗北してしまう。国賊として吊し上げられた私は、仲間の減刑を条件に政府の高官にあんな事やこんな事を…………
いや、無理だ。本気で国を獲るつもりの私を倒せる魔法少女が存在しない。普通に征服が終わる未来が容易に想像出来る。唯一可能性があるとすればグライシアだが、今の彼女は多分私の側に付く。別に国の運営に興味は無いから……その後は国の実権を握った橘財閥によって、日本は一つの企業の統一する企業国家になる……終わりだ。
とりあえずは様子を見に行こうと思って、先程の地下の広間へと戻るとそこで繰り広げられていたのは目を疑うような光景だった。
「そ・れ・で? 一体何が起きたのか、ベルにも分かるように説明してくれるぅ?」
「ぶっ、ブレイディアには勝てなくて……」
「それで恥を捨ててワンちゃんみたいに逃げ帰ってきちゃったんだ?」
そう、優しそうな緑髪の彼女……がおそらく変身しているであろう魔法少女。彼女はなんと、絵に描いたようなメスガキだったのだ……一体どうして? この新星魔法少女協会の事も、ティンカーベルの事もどんどんと分からなくなっていく。これが実はルクスの見せている夢なんだと思った方が、幾分か納得がいくような惨状だった。
「仕方ねえだろ、あんなんでも協会の三位だ。実力は本物だぜ」
「勿論、ベルも分かってるよ? でもさ、組織にはシンショーヒツバツってやつが必要でしょ?」
そして見覚えのある赤い髪の魔法少女……名前はフランマだったか。組織の人材が不足しがちな中堅層で、少女らしからぬ非常に堅実な戦い方をする火属性系統の魔法少女だったはずだ。それがどうして協会を抜けてまで、ここに所属しているのだろうか?
「ベルは皆なら出来ると思ったんだけどなぁ? まぁ、今回はフモンって事にしておいてあげる♡」
「あっ、ありがとうございますベル様……次は頑張ります!」
協会の構成員のモチベーションはかなり高いように見える、その中には容姿を整える余裕もなさそうな少女たちの姿もちらほらと見える。そちらは裏での仕事に手を染めざるを得ないような環境で育ってきた少女たちなのだろう。協会が掬いきれなかった彼女達の、受け皿のような役割を果たしているのかもしれない。
だからこそ猶更分からない、彼女は恐らく良いリーダーになれるだけのカリスマを兼ね備えている。協会に弓を引いてまで、成し遂げたいことが何なのか……もし私が彼女達を穏便に止めるなら、そこが唯一の鍵になる気がして。
「キャハハハ、それじゃ今日は此処までみんな気を付けて帰……」
恐らく私が居る事に気づいていなかったのだろう、ようやくベルちゃんの翡翠色の瞳とばっちり目が合う。無表情から驚愕、そして羞恥の表情へとコロコロと百面相をする彼女を見ているのは面白かったが……
「帰っ……帰……かかか、帰ってくださいね?」
なんとか挙動不審になりながらも、最後の句を告げ終わった彼女。なんだかベルちゃんには悪い事をしたなと思いつつも案内された部屋に戻る。大人しくて優しそうな娘に、あんな二面性があったなんて……
「人は見掛けに寄らないモノなんだなぁ……」
「ちっ、違うんですサテライト様! あれには深い事情があって……!」
真っ赤な顔で弁明を続ける彼女、いや別に人の趣味をとやかく言うつもりは無いし……私も人の事をどうこう言えるような趣味をしていない。ああ、でも……こんな小さな子に嘲笑われるというのも、なかなか趣があるのかもしれない。一体いくつ位なのだろうか……なんて流石に失礼か。
「聞きたいことがあるんだけど、良いかな」
「はいっ、何でも聞いてください!」
こうやって私への愛を全開にする彼女からは、メスガキの片鱗も感じない。何でも聞いて良いという事は、魔法名や本当の名前を聞いても良いのだろうか。いや、そんな彼女の好意を逆手にとって個人情報を巻き上げるのは正しい行為じゃない。少なくとも彼女の理想のサテライト様とやらはそんなことしないだろう。
「どうしてベルちゃんは新しい魔法少女協会を立ち上げようと思ったの?」
「それは、あなたのように……見捨てられる魔法少女を作らないようにです」
「見捨て……?」
最も気になっていた質問の答えは、想定していたものとはかなり違った。どうしよう、全くと言ってもいい程記憶にない。私がいつ見捨てられたと言うのだろうか。あっ、待てよ……もしかして、もしかして……
「サテライトが姿を消したあの日、協会が待機命令を下したのを今でも鮮明に覚えています」
あっ、それかぁ……!? ルクスとの一件で連れ去られ……連れ去られて? その後は、確かに待機命令が下されたというのはグライシアからも聞いていたし、勿論スクイレからも聞いている。その判断は間違いないだろう、でも周りがどう思うかは……別だ。
「貴方を捜しに行こうとした私を諭して、周りの大人たちは言っていました」
「『サテライトが勝てないなら仕方ない、あなたが行っても意味がない』って」
一理はある、だが人間は必ずしも合理性だけで動く生き物ではない。まして諦めなければいけないモノが大切であれば、猶更だ。
「あはっ、それが『大人の合理的な考え方』なんだって……信じられますか? ずっと一生懸命に頑張ってきた貴方を見捨てて、『あれら』は自分たちさえ無事ならきっとどうだって良いんですよ」
その目には、確かな憎悪と後悔が滲んでいた。彼女の内心を推し量ることは出来ないが、その感情は彼女自身にも向いているような気がした。あなたが責任を感じる必要なんて、全く無いのに。
「その瞬間に馬鹿らしくなったんです。私達魔法少女って、こんなものの為に頑張ってたんだなって」
そして、彼女の目から翡翠の瞳には深い絶望が見てとれた。彼女なりに悩み……そして周りの人間を見限ったのだろう。そこには、一人の少女が強大な協会に弓引くに至ったまでの……確かな葛藤があったに違いない。
「頑張った人が報われないのが、頑張った人を見捨てるのが正しいなんて言うのが社会なら……そんな事が
「そう思って、私は名を捨ててティンカーベルと名乗り始めました。私は主役じゃなくていい、貴方を導き助ける妖精になると決めて」
名前の由来は恐らく、あの有名な童話からつけたものなのだろう。名も、それまでの関係も捨てて……彼女は大義を示そうとしている。小学生くらいの彼女がそう決意するに至るなんて……
「私達は絶対に仲間を見捨てたりしません、今の腐った魔法少女協会を破壊して……魔法少女の為の協会を作るんです」
青い理想論過ぎる嫌いはあるものの、彼女の愛は本物だった。私の事をきっと心から応援して、私の背中を追って……そして本を買う位には、応援してくれていたのだ。そんな彼女は、だからこうして歪んでしまった。
「そしてそんな玉座には、貴方が……最高の魔法少女であるサテライトが相応しい」
今回の件の元凶は……私だ。
言えない、こんな雰囲気で……まさかわざと負けましたなんて。言えない、流石に言える訳が無いよ……しかも、そんなこんなでルクスとは同棲してるし、憧れの魔法少女は負けるのが好きなワンちゃんだなんて。
「すぐに答えを出して欲しいとは、言いません。でも……何時までもお待ちしています」
「うん、ベルちゃんの気持ちは分かったよ」
それでも一つ聞いておかなきゃいけない事がある。此処まででまったく理由が見えてこなかった、とある一件についての話だ。
「事情は分かったけどさ、子供でいたいからって……
「だって、『いんたーねっと』の『けいじばん』ではこれがガキだって書いてあって……」
想像よりもずっと地獄みたいな理由だった、なんと言うか……不憫な娘なのかもしれない。
複数ヒロインについて(アンケートの内容で今後の行方を必ずしも左右しうるものでは無いとだけお伝えしておきます)
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男が出なければそれで良い…!
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理由・動機付けがしっかりしていれば
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一人じゃないとどうしても受け入れられない