「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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嵐の前の静けさ
こっちはお昼でも見れる内容


14.メスガキには流石に負けないんだが?前編

 暗く人気(ひとけ)の無い崩れた廃墟。そこに佇んでいるのは真っ赤な短髪の魔法少女と、グレーの髪を目元まで垂らしたそばかすの目立つ少女。

 

「本当に何とかなるんですかね、フランマの姉貴?」

「姉貴は止めろ、それに……何とか()()んだよ」

 

 強力な電波を発生させるという灰色の髪の彼女の魔法は、人を傷つける程の出力は出ない。だから実戦にこそ使えないものの……こうして電波のジャミングや通信には持って来いの魔法だった。

 

 欠点はこうして魔力の乗った電波を垂れ流してしまう事だったが……今回に限ってはそれもメリットに代わる。何せ今回は、彼女達をおびき出すのが目的なのだから。

 

「一応聞いておきますわ! あなた達が電波ジャック犯ですわね!!!」

「違う……と言ったらどうするんだ?」

 

 当然、フランマと呼ばれていた少女も本気でそんな事を言った訳では無かったのだろう。

 

「人違い……失礼しましたわ!」

「あっ、あぁ……」

 

 だが結果として、彼女は踵を返してこの場を離れようとしていた。その事に面を食らいはしたものの……その背中目掛けて放たれた、揺れる炎は正確で素早い一撃だった……筈だ。

 

「うっ、嘘をつくなんて信じられませんわ!?」

「流石は序列第三位と言うだけあるか、厄介だな……」

 

 だが、それはより大きな火球へ掻き消されて無傷に終わる。発生の兆候も分からない程の魔力操作の速さと言えば聞こえはいいが……彼女はこれしか知らないのだ。

 

「一応聞いておくぜ、うちに来る気はあるか?」

「困りましたわ……わたくし、自分より頭の良さそうな相手の会話は聞かない事にしてますの……」

 

 彼女は、新星魔法少女協会を止めようだとかそういう大義は無い。悪い事をしている人が居たから、ここに来て……それが魔法少女だったとしても戦う。それだけの事。

 

「皆様に一つ良い事を教えてあげますわ。同じ重さの炎と人がぶつかったら……どちらが強いと思います?」

「そりゃあ聞くまでも無く炎でしょ?」

 

 そもそも重くなくても人は火に包まれれば一溜まりも無い。そんな事は自明の理だった。

 

「それなら、同じ重さの氷と炎なら?」

「それは炎の方が破壊力は……お前、まさか……」

 

 氷の()をぶつけるより、同じ大きさの炎をぶつけた方が強いに決まっている。そんな至極単純な思考が、彼女の中で酷く短絡的な結論を導き出す。

 

「つまり! 最も熱くて!! 最も大きい私の炎が!!! 最強という事ですわ!!!!」

 

 突如として地上に現れた太陽のように輝く巨大な火球が。

 

「これがわたくしの───炎過重(エンプレス)!」

 

 今───敵対者へと牙を剥く。

 


 

「陽炎───ッ!」

 

 フランマと呼ばれる魔法少女の魔法は、揺れる炎による攪乱と攻撃を同時に行う『陽炎』の魔法。非常に応用が効き、それと同時に攻撃力も申し分ない魔法を扱う彼女が、優れた魔法少女であることに疑いようはない。

 

炎過重(エンプレス)ッ!」

 

 振るわれた巨大な火球は、陽炎を焼き払う。

 そんな彼女でも、3位には届かない。魔法少女ランキングの序列3位、ブレイディアは戦闘に置いて一切の駆け引きをしない。それは、全てのリソースを魔法の行使に回しているからだ。

 

炎過重(エンプレス)ゥ!!」

 

 飛んで来た揺れる炎への防御は、火球を盾にするだけ。

 燃えるような深紅の髪をたなびかせたその魔法少女の手札には、搦め手も応用も一切ない。攻撃は避けずに打ち返そうとするし、盾があっても避けられそうでも攻撃を振る。それ以外の全てを魔法の行使に回す為だけに、パートナーすらつけずに日々戦っている。

 

炎過重(エンプレス)ですわ!!!」

 

 増え続ける陽炎を、それを上回る速度と範囲の炎で処理し続ける。

 ただ愚直。あまりにも不器用で……あまりにも脳筋。さらに言えば、彼女の魔法も『質量を持った炎を生み出す』というだけの、シンプルで単純なモノだった。

 

「お前は何も思わないのか、それだけの力を持っておいて……世界を変えられるだけの力を持っていて何故……!」

「あら、何をですの?」

 

 辺り一帯を焦がし続けたせいで、廃墟跡地の気温は物凄い速度で上昇していく。

 数多の魔法少女が知恵と工夫を凝らす中……何も考えていないように見える力押しの彼女が、序列3位と言う事実は揺るがない。それはつまり今のように……周囲を気にしない状態の彼女より強い魔法少女は二人しかいないという事だ。

 

「救えた魔法少女が居たはずなんだ、サテライトだけじゃない……他の皆だって……」

「まさか? 過ぎた事で悩むくらいなら、特訓しますわ! 特訓は裏切りませんのよ!」

 

 だからこそ、この状況は陽炎の魔法少女であるフランマにとって非常に相性がいいものだった。辺りを陽炎で巧妙に隠してからの……伏兵として隠れていた複数の魔法少女による一斉攻撃。3位が強いなんて事は当然織り込み済みだった、だからこその奇襲。意識外から、相手のキャパシティを越える一撃を一瞬でたたきこんで……勝負を決める。この上なくシンプルで有効的な作戦。

 

「堕ちろッ、序列三位───ッ!」

炎 過 重(エンプレス)!!!!!」

 

 だが、誤算だったのは……彼女のキャパシティを越えるには魔法少女20人がかりでも足りなかったという事だろう。20人が束になっても届かないだけの火力の差……がそこにはあった。魔法の使い過ぎからか肩で息をするフランマと、未だ余裕のあるブレイディア。勝負は既についたようなものだった。

 

「巫山戯るなよ! こんなのが三位だなんて間違って……!」

「力に貴賤はありませんのよ? 力があるから貴いのですわ!」

 

 酷い暴論だったが間違いではない。結局の所……協会も彼女達の思想もどちらも間違いではない以上……結果を決めるのは力だけなのだから。

 

「それに、今が気に入らないからって。貴方は何をしましたの?」

「私だって必死に頑張って……」

「わたくしは学校と睡眠。そして食事とお見舞いの時以外は殆ど魔法の練習をしてますわよ?」

「……は?」

 

 彼女には愚直に努力する以外の方法が分からない、今までで何も上手く行かなかったから。

 

「言ったでしょう、特訓は裏切りませんのよ?」

 

 膨大な量の訓練によって戦闘センスも才能の差をも覆した努力の天才。

 それこそが紅蓮の魔法少女、ブレイディアと言う魔法少女だった。

 

 勝負を終わらせる為に放たれたであろう……辺り一帯を照らす巨大な火球が、煌々と夜の空に浮かんでいる。例えその姿が陽炎であろうと問題ないと言わんばかりに、伏兵諸共相手を片付ける……たった一つの冴えたやり方。

 

「大丈夫ですわ、峰打ちですもの!!!」

「火球に峰打ちもクソも……!」

 

 

 辺り一帯を火の海にして、最後まで立っていたそんな彼女は……

 

「考えてみれば、火球に峰なんてありませんわね?」

 

 どうしようもないくらい、頭は良くなかった。

 

 


 

 パトロール地域から少しだけ離れた場所にある、人気の無い廃墟。辺り一帯は恐らくブレイディアが先日のパトロールの際に戦ったのだろう、地面が抉れたり焼け焦げたりしている。そんな崩れた廃墟の一番高い場所で、ぶらぶらと足を揺らしていた緑髪の少女は……お目当ての少女を見つけるとニヤリと口角を蠱惑的に吊り上げる。

 

「遅かったね、二位のお姉さん。待ちくたびれてベルはもうクタクタだよぉ……」

「こちらにはあなたがいるんですのね、まさか一人で居るとは思いませんでしたけど」

「ん~? 二位くらいなら私一人でもよゆ~かなって♡」

「舐められたものですわね……」

 

 返答代わりに、緑髪の少女の足元から放たれた熱線が……グライシアの氷の鏡を溶かす。立て続けに放たれたレーザーはグライシアの身体を貫く───ものの、たちまちその姿は霧へと変わる。

 

「わたくしには勧誘の一言も無いのですわね?」

「うん、だって……必要ないもん♡」

 

 だが幻影だなんて事は分かっていたと言わんばかりに、空から放たれた落雷と拳大の氷の雨が辺りに降り注ぐ。しかし、手応えは感じられない。

 

「ふぅん、今のでも顔色一つ変えないんだ?」

「火に氷……雷にレーザーって、一体何の魔法を使っているんですの?」

「さぁ? 当てれるものなら当ててみなよ、二位のお姉さん♡」

 

 ティンカーベルの『魔法』は発動する時にこそ魔力を使うものの、維持と解除する時には殆ど魔力を使わない。故に、用意したキルゾーンだったのだろう、しかしその程度で二位を仕留められるなら……今頃彼女は外敵に連れ去られている。

 

「上空に雷と氷は待機させていましたわね? 炎とレーザーはスカートの中と……」

「へぇ、そこまで分かるんだ? じゃあ、あんまり長引かせるわけにはいかないよねッ!」

 

 本当の事を言っているのか分からない以上、お互いの言葉を鵜呑みにする事は出来ない。互いに打開策を探っているが……先に動いたのはグライシアだった。生成された氷の鏡は勢いよく放たれ……そして直撃する寸前でその動きを止める。

 

「ざぁこ〜♡序列2位って言ってもこの程度?」

「随分とわたくしの事を研究していますのね、評価して頂いて光栄ですわ」

 

 当然、有名であればある程に何ができるかは浮き彫りになってくる。氷の鏡による幻影、攻撃……情報収集。それら全てに徹底的に対策していなければ、本来この戦いは成り立つことすらない。

 

 つまり、時間はグライシアに有利に働く。そんな事は緑髪の彼女も分かっているのだろう。とはいえ札の切り時を間違えれば、勝負はその時点で決まってしまう。安易に攻め続ける事は、手札を知られる事にもつながるのだから。

 

「あの事件の時も……ベルが隣に居れば、もう少し上手くやれたけどね?」

「やっ、安い挑発ですわね……その手には乗りませんわよ?」

 

 効いている。

 直感的にそう分かったのだろう、冷静さを失わせるのに『怒り』は非常に有効である。

 

「まさか万年2位(グライシア)が近くに居ながら、みすみすサテライトを攫われるなんて思わなかったよ……!」

「言いたいことは、それで最後でいいのですわね?」

 

 故に立て続けに挑発を繰り返す。

 そして怒りからか、巨大な氷の鏡による押しつぶしを図ろうとしたグライシアの頭上に大きな氷塊が生成されていく。

 

「きゃ、やられちゃうかも~?」

「潰れなさいッ!」

 

 当たれば間違いなく戦闘不能どころか大怪我は免れないだろう一撃。

 だが直線的な攻撃を繰り出そうとしたその時こそ、彼女の待っていた瞬間(とき)だった。

 

「……なんてね♡」

「なっ……!?」

 

 氷の大鏡が敵を押しつぶさんと放たれたその瞬間。

 足元で起きた爆発は、大地を赤く染め上げた。




明日も更新予定です

複数ヒロインについて(アンケートの内容で今後の行方を必ずしも左右しうるものでは無いとだけお伝えしておきます)

  • 男が出なければそれで良い…!
  • 理由・動機付けがしっかりしていれば
  • 一人じゃないとどうしても受け入れられない
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