「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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16.開けるより開けられたいんだが?

 目が覚めると、灰色の知らない天井が広がっていた。未だ動いていない時計と、電源の切れたスマートフォン。今が何時かを示すものはこの部屋には無かったものの、自然に目が覚めたあたり今は朝の6時位だろうと推測する。

 

 服を着る気力すら尽きて、気絶するかのように意識が落ちていたらしい。少し体勢を変えるだけで、擦れすぎて少し赤くなった身体が疼く。何も着ていないからと言って流石に暑くなって布団を剥がすと、噎せ返るような熱気と二人分の匂いが部屋に広がる。

 

 私の胸元に顔を(うず)めて眠っている小さな緑髪の少女。天使のような寝顔からは、昨日の小悪魔的な笑みや所業は想像もつかない。

 

「うぅ、むにゃ……お母さん……」

 

 そんな寝言を聞くと、こんな小さな相手に私は取り返しのつかない事をさせてしまったのだと再確認する。本名も知らない、四つも下の少女に手玉に取られて馬鹿にされて。それで、それで……昨日の事を思い出すだけで、身体が熱くなるのを感じる。

 

 スヤスヤと眠るベルちゃんを、起こさないように起きたかったのだが……ガッチリと背中に手が回っていて、流石に起こしてしまいそうだった。

 

「んっ、あ……サテライト様だぁ。えへへ、てことはまだ夢の中なのかなぁ……」

 

 寝惚けた彼女が、夢の中であると勘違いしたのを良い事に強く吸い始める。吸った所で何も出ないんだけど、何故だろうか……私の中に母性のような感情が芽生えるのを感じる。昨日はベルちゃんが私のママだったのに。

 

 跡が残る事なんて考えてもいないように、次は鎖骨のあたりに跡をつけている。甘えているように見えて、まるでサテライトは私の物なんだと誇示するかのように。可愛い顔して、随分とおませさんだった。最近の子は随分と進んでるんだな……

 

 暫くされるがままに身体を預けて、物欲しそうに目線を向けられたので頭を優しく撫でる。眼を細めて嬉しそうに笑みを作った後、またしても好き勝手に身体を吸い始める。絶対に離さないと言わんばかりに、腰元に回した手で私を強く抱きしめる。そんな少しの圧迫感が痛気持ち良い。

 

 だが、そんな時間が何時までも終わらない事に疑問を覚えたのだろう。事態を把握して見る見るうちに青くなった顔は、林檎のように真っ赤になっていく。

 

「あっ、えっと……その、夢じゃ無かったり……」

「おはよ、ベルちゃん。昨晩はお楽しみだったね☆」

「ししし、失礼しましたっ!?」

 

 慌てて起き上がる彼女はどこから見ても、普通の小学生の女の子で。私は彼女への接し方を測り損ねていた。変に彼女面されるよりは……まぁ。残念ながら私は純愛では抜けないので。

 

 


 

 充電しながらネットニュースを流し見ると、何処も昨日の一件の事で持ち切りだった。実際に野良の危ない仕事をしている魔法少女の全てに救いの手を指し伸べるには……どう頑張っても人手が足りない。だから一般人に助けを求めるのは間違っていない。間違ってはいないのだが……

 

「なっ、何ですか『何Jの魔法少女』って!? どうして私が掲示板を使ってるのがバレて……!?」

「ベルちゃんは黒歴史にならないうちに気を付けたかったね……」

 

 実際掲示板はこれまでにないお祭り騒ぎだった。

【行くぞ】わいらの希望ティンカーベル女史について語るスレ【ぽまえら】

 なんていうスレッドまで立つ始末。更には、界隈特有の悪ノリにより第一回のオフ会が東京と大阪を中心に行われるらしい。まだ政府ですら表明を出していない中、既に行動に移している……こういう時の行動力は見習いたいものだけど。

 

「ぽまえらっ……! 妄言と批判を繰り返す社会不適合者だと誤解してました……!」

「いやっ、うん……ベルちゃんが良いなら良いんだけど」

 

 今日は残念ながら平日だ、彼女にも親が居るだろう。何故普通に朝帰りなのかとか、そういった家庭環境の話は気になる所だが……とりあえずは学校に行かないと不味い。優等生の私がこのままじゃとんだ不良生徒になってしまう。

 

 可愛くて地位のある私が落ちるのが良いんだ、ここまで取り繕ってきた世間体は最期の時まで残しておきたい。

 

「さっ、サテライト様……何か困ったことがあれば何時でもお申し付けくださいっ!」

「あっ、うん。様付けじゃなくていいよ?」

「サテライトおねーさん……? お姉ちゃんが出来たみたいですね!」

 

 困った事……あえて言えば罪悪感だろうか。余りにも私が魔性の女過ぎて、色んな人の人生を狂わせている気がする。かっ、可愛くてゴメンね……なんて。そんな事を言っている場合じゃない、早く学校の支度をしないと間に合わない。

 

「そう言えばそのチョーカー……サテライトおねーさんの趣味ですか?」

「友達が送ってくれたんだ、似合ってるでしょ?」

「…………へぇ? とっても似合ってますよ?」

 

 何故か無くなっていた、下着の方のパンツ。おそらくは部屋の何処かにはあるのだろうが……見つからないまま時間が来て、仕方なく新しいものを店で買う。

 

 そんなハプニングもありつつ、お互いの生活へと戻っていく。流石に魔法少女同士で本名を教えるのはタブーと言われるだけあって彼女の名前や何処に住んでいるのかは聞かなかったが、連絡先の交換くらいはした。実は、意外と近くに居たりするのかもしれない。

 

 


 

 

「お待たせベルちゃん。それでどうしたの?」

 

 その日の放課後、早速私はベルちゃんに呼び出されていた。ファンだと言っておいて私をこうして呼び出すとは中々図々しい所があるじゃないか……なんて。まあ、メディアの前に背中を押したのは私だから責任はとるつもりではあったのだが。

 

 内容は至極真っ当なこれからの動きについてだった。具体的にどうやって魔法少女を見つけて、どのように場所を用意してあげるのか。金銭的な面でも、人員的な面でも非常に問題が多い。だがそこは、今の協会とも協力して地道に行っていく他ないだろう。

 

「実は……サテライトのおねーさんにお願いしたいことがあって」

 

 そんな話が一段落して、少しモジモジとしながらも話題を切り出した彼女。サイン位なら全然書くし、チェキが撮りたいならまあ撮ってあげない事も無いけど? と言うスタンスで居たのだけど。

 

「うん、どうしたの?」

「私も……大人を目指さないといけないのかなって」

 

 どうしても、理想論との折り合いをつける必要は何処かで出てくる。例えば、今すぐこの世界中の国の魔法少女はこの網じゃ掬いきれない、だから日本の魔法少女たちに限定する。だが、これも一種の諦めだろう。

 

 網ですくいきれなかったものは、浴槽から溢れたお湯のように流れ落ちていく。何事にもキャパシティと言うものがあるのだ。だからと言って今のスクイレは少しばかり、リスクを嫌うというか……保守的過ぎるとは思うが。

 

「それで、取りあえずは形から入ろうと思って……」

「それで、ピアス?」

 

 そこにあったのは……二つのピアッサーと、お洒落なピンクとエメラルドグリーンのピアスだった。確かにお洒落で子供っぽさとは無縁の代物だ。何事も形から入るというのは、悪くは無いだろう。うちでも、何人か開けているお洒落好きな子を見かけるし。

 

「手伝って欲しいってことだよね、どっちから開ける?」

「これ、片方はサテライトおねーさんへのプレゼントで……迷惑じゃ無ければなんですけど!」

 

 特筆していないのでお分かりかもしれないが、私はピアスをしていない。そんな相手にピアスをプレゼントするというのはつまり……そう言う事なのだろう。思いきりが良すぎか? いや、初対面で私の為の組織をプレゼントするようなイカれた女の子だった。これだから法則系の魔法少女は……

 

 ところで、魔法少女は軽い傷程度なら魔力によって回復してしまう。それならこういったピアスや『はじめて』の時に大変なのではないかと思われがちだが……その条件は『本人がどう思っているか』に集約されている。つまり、本人が攻撃ではなく変化であると受け入れていれば……ピアスの穴は塞がる事は無いという事だ。

 

 何か信頼の証みたいでえっちじゃん。これから魔法少女界隈で流行るのかもしれない。

 

「迷惑じゃないよ? それじゃ、私は右耳にしようかな」

「やった! じゃあ私は左耳で……」

 

 手と耳たぶをしっかりと消毒し、お互いに向き合う。変身したまま穴をあける事になるとは思わなかったけど、同じ魔法少女同士ならダメージが通るのだ。そうじゃないと、鞭もお尻ぺんぺんも痛くない筈だからね……え、聞いてない? そりゃあこんな所にのっけられる訳無いし……

 

 

 マーキングペンで私の耳たぶに印をつける。鏡を見ると、今からここに穴を開けるんだと宣告されているようで……少しだけ興奮する。

 

 実際にピアッサーを見ると、可愛い名前と裏腹にちゃんと針だ。斜めに針を入れると良くないと聞くので、集中するために必然的にかなり顔の位置が近くなる。

 

「それじゃあ……いきますね?」

「うっ、うん……」

 

 ベルちゃんも緊張しているようだったが……一息入れてパチリと言う音と注射器を指したような痛みを一瞬だけ感じる。真っ赤な血は直ぐに止まったが、じんわりと少しだけ痛みが残る。想定したよりも痛くは無かったけど、何処とない満足感があった。

 

「じゃあこれ、プレゼントです……!」

 

 そう言って手渡されたのは、同じ意匠の色違いのピアス。だが渡されたのは、エメラルドグリーンの方のピアスだった。てっきりイメージカラーに合わせて私がピンクだと思っていたもので、少々面を喰らうものの……ワンポイントカラーと言うものもお洒落だろう。

 

「ありがと、大切にするね?」

「……はい!」

 

 魔法少女だからか、傷跡自体は直ぐに安定した。それでも、しっかりと耳たぶに開けられたファーストピアスの穴は……閉じる事は無かった。その事になんとなく、擽ったい気持ちになる。

 

 こうして、大人にならない少女の孤高な戦いは幕を閉じ……

 救われなかった少女たちの、誰かを救う戦いが幕を開けたのだった。

 




淫紋・チョーカー・ピアスとな……

一応無いとは思いますが、この小説を参考にピアス穴を開けるのは止めておいてね

複数ヒロインについて(アンケートの内容で今後の行方を必ずしも左右しうるものでは無いとだけお伝えしておきます)

  • 男が出なければそれで良い…!
  • 理由・動機付けがしっかりしていれば
  • 一人じゃないとどうしても受け入れられない
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