「もう、本当に困ったものですわね……」
「へへっ、いや……うん……」
今回に限っては私そんなに悪くなくないか? なんて思わず出かけた言葉を飲み込む。自分を飼うための家を貰ったなんて聞いたら、腰の一つや二つ抜けるというものだろう。私の場合は歓喜と恐怖が入り混じっていただけで、普通の人もそうだと思う。
何とか落ち着いて息を整えて、庭園の中心にあるテーブルへと座らせてもらう。座ったはいいものの、まだ心臓が跳ねている。何故かさっきの前提を聞くと、この庭園も少しエッチなモノに見えてこなくもない。いや、流石にそこまでじゃないか。
「折角の天気ですし、お外でいただきましょうか。お昼を用意させますわね?」
「良いけどさ、こういうテーブルって隣じゃなくて対面に座るものじゃないの?」
向かい合えるサイズの白くて丸いテーブルで、何故か私の横へと椅子を動かした彼女は、さも当然であるかのように私の横へと座る。もしかしたら私の知らないだけで、そう言うマナーやルールがあるのかもしれないから強くは言えないけど……何時にもまして距離感が近い。
それから、サンドイッチとスコーン、それにケーキやタルトが乗ったティーセットのようなモノが運ばれてくる。まるで映画やドラマでしか見ないようなそれが、アンティーク調の白いテーブルの上に置かれると……まるで自分が場違いであるかのように感じてしまう。
「スリーティアーズって言うんですわよ。わたくし達しかいませんし、マナーを気にする事はありませんのよ?」
「へっ、へぇ……」
「
「それじゃ、いただきま……っ!?」
紅茶に手を付けようと腕を伸ばした瞬間に太ももの上に手のひらを乗せられる。こんなマナーがある訳無いだろうが、痴漢プレイならまだしも……多分そう言う事じゃない。
「あっ、あのっ? クロエさん!? その……いきなり触られると
「そのピアスも貴方の友好関係も、わたくしが口を出す権利はありませんけど……嫉妬はするんですのよ?」
そう言われるとこちらとしては文句は言えない。すすっと身体を寄せて、耳元で囁く彼女からは甘い匂いがするものの……その振る舞いはまるで蛇のようだった。這わせた指がつーっと太ももをなぞるのを、睨まれた蛙のように固まって耐えている。
見せたいからわざわざ絶対領域を強調するようなニーソを履いてはいるものの、それだからって触って良いって訳じゃないんだぞ? その所を分かって……
「なっ、えっ? どうしたの急に抱きしめたりして……あ、待って嗅がないで?」
無言で抱きしめられた後、髪の匂いを嗅がれている。クロエちゃんの大きな双丘が押し付けられて、いきなりの事に困惑と役得が頭の中で入り混じる。前戯や性的欲求を満たすというよりかは、何かを確かめるような……そんな手つきで。
「紅茶が冷めてしまいますから、お昼にしますわよ?」
「あっ、えっ……うん?」
素知らぬ顔でお昼を進めるクロエちゃんに、困惑しつつも紅茶に手を伸ばす。今日の彼女が何を考えているのかいつも以上に分からない。分からないよ……
紅茶の香りも、サンドイッチの味も頭に残らない位には緊張していた私。そんな私と対照的に、満足そうに苺のタルトを食べ終わったクロエちゃんは……私を次なる目的地へと誘う。
案内された部屋には、クローゼットと洋服ケースを持った人が並んでいた。どう見てもメイドさんじゃない、恐らくは洋服を売っている人を呼んだのだ……こんな山奥に。
「嫌とは、言いませんわよね?」
「あっ、はい」
その一言で全てを察した。
要するに彼女は私を着せ替え人形にしたいのだろう。私は可愛いお洋服を着るのも選ぶのも大好きではあるものの、流石にこの部屋中に並べられた服を全て着るだけの気力は流石に……いえ、着させていただきます。
それからは、言われるがままにお洋服を着て……恐らくは私の反応を見て別室へと運ばせていく。最近放っておいたフラストレーションが、私に構う事で解決されるなら幾らでも手伝う所存ではあるものの……スケスケのネグリジェとか、ちょっとエッチな下着まで着せようとするのは何かが違くない?
「ううん、これでも駄目となると……困りましたわね」
「まだ駄目なの、もう随分と選んだよね? ゴスロリとか何時着ればいいの……?」
「こっちの話です、次に行きますわよ?」
その後もよく分からないアプローチは続いたものの、終始じっとりしている事を除けば楽しい休日だったと思う。まるで家の中にデパートがあるような、そんな時間だった訳だし。
食事とお風呂を済ませると、天蓋付きの大きなベッドのある部屋へと通される。客人用にこれとかどうなっているんだ橘財閥は……あまりこういう話をするべきでは無いが、3桁万円は下らないだろう。それにしても天蓋って何のためについているんだろうね、一般的な家庭環境の私には全く分からない。
お昼に半ば押し付けるようにプレゼントしてもらったネグリジェを着て、部屋のライトを消して横になる。今日は色々な事があった、本当にね。セクハラをしたかったと言われると首を傾げるし、私に構いたかったというには不可解な点が多かったようにも思える。
「お邪魔しますわね?」
「邪魔するなら……えっ、クロエちゃんが何でここに?」
「なんでって……私の部屋ですもの」
布団をかけているとはいえ、流石にちょっと同級生の前でこんな格好をして寝ているのは恥ずかしいんだが? パジャマパーティならもっとふわっとした格好でやるべきだろう、現にクロエちゃんも少し顔が赤いし。そのまま見つめていると、恥ずかしくなったのかグイっと顔を押し戻される。
「恥ずかしいから、そっちを向いたままでいてくださいまし!?」
「な、なら初めから止めておけばいいのに……」
スルリと布団の中にもう一人分の体温が入ってくる。クーラーが効いていて快適な温度ではあるものの、緊張からか服装にも関らずジットリと暑い。背中越しに豊かな山がその存在を主張してきていて、耳元に吐息がかかって
当然の権利の如く腰に回された手は、私の横腹を撫でては摘まむ。エッチなのとは別の気恥ずかしさがあるので普通にやめて欲しい、まあ……この私の体型管理は完璧なんだけど。
「ムカつくくらい、整ったプロポーションですわね……」
「でしょ?」
「なんかこう……何時までも揉んでいられそうですわね」
「クロエちゃんもおっきくて羨ましいけどなぁ?」
そんな事を宣っていると、頬っぺたを引っ張られる……いひゃい。そんな大きなものをぶら下げておいて、他を妬むなんて随分と強欲だと思う。私は完成されたプロポーションだけど、それだけ大きいと色々捗りそうで羨ましい。
「ちょっ、クロエちゃん……」
その細い指は、服の下を通ってあばらをなぞる。このままされるがままに……何処まで手を伸ばすつもりなのだろうか。別にまあクロエちゃんなら良いかと思うけど、これ以上となると別の意味で不味い。
「あの……」
お椀のような私の
「これでもまだ……ですのね」
「何か目的があってしてるの? 別に可愛い私に触りたい気持ちはわからんでも無いけどさ」
「今日は、何処までしたら怒られるか……ずっと試していましたの。ですけど、ここまでしても……嫌がる素振りすら見せないのですわね?」
「いや、別に嫌じゃないし……」
ちょっと擽ったいけど、まあ別にクロエちゃんなら良いかと言う気持ちはある。頭や太ももなんて触られたって減るもんじゃないし、普段から迷惑と心労をかけているお詫びになればそれで良いかと思わないでもない。むしろ役得なのでは? 感謝しても良いよ。
「……最近特に思うのですけど。貴方、私に心を許しすぎではありませんこと?」
「うん、まぁ……?」
言われてみてようやく気づいたかもしれない。確かにこんな距離で接してくる友達は居ない。かといって私達は恋人関係ではない。セフッ……いや、いやな予感がするから止めておこう。あくまでも淫紋のせいで、それ以外で私達はそう言う行為に及んだ事は……無い。そう、あくまでも淫紋のせいなのだ。だから、仕方なくて。
「逆に何処までなら許せるんですの?」
「さすがに下と……き、キスはまだはじめてだから……唇はダメかな」
理由も無いのにエッチな事をしたらそれはただのSMプレイだ。違う、違うんだよなぁ……私は……
「まだ、さすがに駄目ということですわね……」
「あの? クロエちゃん目が怖いというか……」
何処となくユラリと幽鬼のように立ち上がった彼女は、私の上に馬乗りになる。このまま無理やり……なんて事を思ったのも束の間、魔力の起こりを感じ取る。
「───氷面鏡」
私にしっかり見えるように空中へと手を翳すと、そこに現れたのはボウリングの弾程の大きさの氷の塊。なんでわざわざ鏡を? なんて疑問は続く言葉によって、霧散することになる。
「ほら
「えっ? ちょ……変身ッ!?」
自由落下を始める氷の塊が眼前へと迫る。間一髪のところで、魔法少女に変身して……落ちてきた氷の鏡を魔法で弾く事には成功する。だがそれはつまり、あれの発動条件を満たしてしまったという事でもあり。途端に身体が熱く疼く。
「さぁ、お着換えの時間ですわよ?」
「あっ、ちょっと……ダメ♡」
迷惑をかけまいと30分は抗った私を、どうか褒めて欲しい。
駄目だ、超えちゃいけない一線を越えている。
サテライトと
「ほら、行きますわよ……
「あっ、待って
草木も寝静まっていそうな暗闇の中で、チョーカーに付けられたリードを引っ張られて歩き出す。行きたくなくても、首が閉まるから前に出ないといけない。だけど『歩く』といったものの、膝と腕の四足で歩くその姿は、どちらかと言うとハイハイに近い。
私の膝まであるモフモフの肉球付きのブーツと、指をすっぽり覆う手袋は私の皮膚を傷つけないための物ではあるものの……酷く屈辱的で。名付けるならば『ビースト』とでもいうような『それ』は、下手をしなくても裸よりもずっと恥ずかしい。指で何かを掴む事すら出来ないこの状態は、まるで本当に動物として扱われているような感覚がしてどうしようもなく……ゾクッとする。
「ひどいっ……魔法を使えば、こうなっちゃうって分かって♡」
「あら、聞こえませんわ? ワンちゃんが人の言葉を発したように聞こえたのですけど」
「うっ、うぅ……」
命令されるがままドアノブを掴もうとして、手袋が滑って上手く掴めない。後ろからの刺さるような視線が痛い。今まで出来ていた筈の事が拘束具によって出来なくなるのは、酷く惨めだった。指や腕を拘束されて満足に動かせないだけで、ここまで尊厳を踏みにじられるとは思ってもいなくて……♡
結局、肘と肘の間を使って器用に扉を開ける。屋敷の扉を出て、散歩の舞台は月明かりが照らす庭園へと場所を変える。レンガ作りの道を歩いて、ライトアップされた噴水の元へとクロエちゃんは向かっていく。リードの付いた私は、それに付き従うしかない。
クロエちゃんは意地悪だ、何時ものグライシアの時よりは少しだけソフトではあるものの。彼女の目は、確かに『星乃しずく』を……私を見つめている。サテライトでも、優等生として被っていた外面でも無く。ありのままの私を見つめて、躾けようとしている。
噴水の周りはライトアップされているだけあって、他の場所よりも私の身体がくっきりと見える。もし人が通りかかったら一巻の終わり、分かっている……分かっているからこそどうしようもなく興奮する。
「ほら、よく見えるように広げてごらんなさい?」
「はっ、やだっ……♡」
「だめですわ、腕は頭のう・し・ろ」
「あっ……うん♡」
リードを引っ張られれば、僅かな抵抗も虚しく……爪先立ちで両膝を開いたまま腕を後ろに組まされる。それはいわゆる、
顔から火が出そうな程に恥ずかしい、頭が茹って正常な思考が失われていく。もし誰かに見られでもしたら、どうしよう。軽蔑されるのだろうか、それとも嘲笑されるのだろうか。お嬢様は遂に人を飼いはじめたのだと、ペット扱いをされるのだろうか。そのどれもが酷く魅力的で、蠱惑的に思える。
「私を好きって言ったら止めさせてあげますわ、だから……何時言ってもいいのですわよ?」
「ちょっ、そんなのズルっ……いっ♡」
一時の快楽に負けて愛を囁くのは私の矜持に反する……とまでは言わないけど。こんな事で告白してしまえば、今までの関係が崩れてしまうようで怖かった。だから耐える、必死に耐える。
「デコピン……みたいなのも好きなのかしら、教材にはそう書いてありましたけど」
「……ぎっ!? なんてものぉっ♡読んでるのクロエちゃん……!?」
まるで電撃のような痛みが身体を痺れさせる。あまりの衝撃に思考がスパークしたかのように真っ白になって、大きな声を上げそうになったのを必死に抑えるけど。それでもまだ終わりじゃない。
「本当にマゾなのですわね、筋金入りですこと」
「あっ、やめっ♡戻れなくなる……!?」
「なら口に出せばいいだけですわよ?」
そのまま暫くは……腹を見せて寝っ転がらせたり、膝を立たせてうつ伏せにされたりと思いつく限りの屈辱的なポーズを取らされ続けた。情けなさからか思わず流れた涙を見て……うっとりとしていたクロエちゃんは、やはり天性のドSなのかもしれない。
僅かに朝日が見え始めた頃、漸く観念したらしいクロエちゃんに解放される。何とか、こんな場所で愛を囁く事だけは耐えきった私。だけど泥やその他諸々で汚れていて、とても布団に入れるような状況では無かった。
「流石に汚れてしまいましたわね……もう一度お風呂に入らないといけませんわ」
「そっ……そうだね? だからこれ外し……」
「あら、朝までは外させませんわよ?」
「……えっ?」
リードを引く手が強まる、有無を言わせぬと言わんばかりに次の目的地までの旅路が始まる。
「安心しなさい、しずく? 夜はまだまだ長いのですわ」
「えっ、それ何も安心できっ……引っ張らないで!?」
「わたくしが隅々まで洗ってあげますわ♪」
ご丁寧な事に水に濡れても大丈夫らしい手袋をつけたまま、身体を泡塗れにされていく。リードの先は蛇口に固定されていてとても逃げることは出来そうにない。
その後、宣言通りに隅々まで洗われて……何があったかは載せれないけどさ。
もうお嫁にいけないよね……うん。
この番組は『曇らせ』『敗北』『百合』の提供でお送りしております
クロエちゃんの話の進行度的には1.5/3くらいかなと